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魔物で始まる異世界ライフ  作者: 鳥野 肉巻
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75話 人間の国へ

 そんなこんなで翌日。セリアさんの店の前にやってきた。

 今回も気づいたら抱きつかれてる状況になるんだろうか。まぁ面倒だから避けなくていいや。


 ガチャリ、とドアを開ける。ん?まだ抱きつかれてないようだ。


「こんにちはー。セリアさん?留守ですかー?」


 返事は無い。鍵は開いていたのに…

 勝手に中に入った私達。すると、奥から幽鬼のような表情のセリアさんがふらーっと出てきた。


「あ、ツボミちゃんじゃない。ごめんねー、今こんな感じで…みっともないわよね…」


 声に全く元気が無い。幽霊と勘違いしたキリエが「ピェッ!?」と声を上げて私にしがみつくレベルでやつれてる。


「セリアさん…一体どうしたんですか…今にも死にそうですけど…」

「少し…美少女要素が…たりないのよ……」

「ちょっと何言ってるか分からない」

「由々しき自体よ…命にも関わるわ…」


 そう言ってふらーっと視線を上げたセリアさん。その視線にツバキが入った瞬間。


 音をも、いや、光ですら置き去りにする速度で、まるで木にしがみつく蝉の如く、ツバキに抱きついていた。


「……ツボミ、この人どうなってんの?」

「…あっ、そういうことか。ツバキで美少女要素の補充ってか。なるほどな。ほっとくといいよ」


 しばらくして。


「いやぁ、美少女分の接種完了したわ。それにしても、ツボミちゃん、ここに来る度に女神が一人ずつ増えるのね」

「」

「無視しないで…仕方ないでしょ!?大切なことなんだから!」


 元気いっぱいなセリアさんであった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



「と言うことで、ツバキの服と、隠密行動用にフード付きのローブが欲しいんですよ」

「ふーん。人間の国に、ねぇ。大丈夫なの?」

「私、そこそこ腕は立つんで。自分の事くらいはなんとかなりますよ」

「分かったわ。で、どんな服が良いのかしら?」

「実は、もう考えてきてあるんです。クール&スタイリッシュ系ボーイッシュ眼鏡僕っ子にするための算段をね」

「乗ったわ。今日の私はツボミちゃんの下僕よ」


 そんなこんなでこそこそしながら鼻息を荒くして奥へと消えていった二人。取り残された常識人組はちょっと悲しい目で二人を見つめていた。


 しばらく経った頃、二人は戻って来た。悪巧みをしている子供のような顔をして、その手には服と、髪を切る道具。

 キリエはツボミの毛だろうかと思ったが、矛先がツバキに向いた事を考えて心の中で合掌した。

 ツバキ本人は、逃走を図ったが、闘気覚醒+鬼撃を発動したツボミによって取り押さえられ、観念したようだ。



 しばしの時間が経った。着替えが終了したツバキ。カーテンを開けて現れる。


「なんだ。僕にどんな格好させるのかと思ったけど、なかなか動きやすくて良いじゃん。気に入ったよ。」


 出てきたツバキは、ジーンズに赤いフード付きのパーカーという、ラフな格好だった。そして、黒縁の伊達メガネ。髪は、毛先の揃わぬ乱雑なショート。そしてパーカーの首元には花を模した金の飾りが。

 側には、いい顔で握手する変態二人が。


「……それ…何の花?」


 キリエから素朴な疑問が出た。メガネとか色々突っ込みどころあると思うんだが…


「レンゲツツジよ?綺麗でしょ?」

「そういえば、キリエの鈴蘭といい、どんなチョイスなんですか?」

「私はその人に合った花を選ぶ主義なのよ」

「でも、二人とも名前に花が入ってるじゃ無いですか。桐と椿みたいに」

「精神面の話よ。心の話」


 よく分からんなぁ…


「じゃあ私は何なんです?二人にあって私に無いのは何でなんです?」

「ツボミちゃんは…よく分かんないのよ…強いて言うなら…黒百合かしらね…今は、だけど」


 黒百合って…ヤベぇぞ…確か花言葉は『呪い』だったはず。少し自分を見直した方が良いな…


「そういえばフード要るって言ってたわよね?それならちょうどこの間5着だけ作ったのよ。『隠蔽』スキル付きのフードをね。サービスであげちゃうわ」

「良いんですか?結構お高いのでは?」

「良いのよ。さっき毛を貰ったお礼だし」


 さっき奥で会議をしているときにセリアさんにまたマンティコアの毛をあげたのだが、今回もそれでいいようだ。

 そして隠蔽付きフードを受け取る。見た目は至って普通の茶色いフードだった。


「スキル『隠蔽』には、正体や本質を隠す効果があるわ。性別なんかまで完全に、ね?」


 凄いな…絶対高いぞ。コレ。気にしないことにしよう。


 そんなこんなでお礼を言ってセリアさんの店を後にする。明日は人間の国に向けて出発だ。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 翌日です。も1つ加えると雲の上です。

 別に昨夜のこととか、出発の様子とか気にならないでしょ?だから完全に割愛した。


 いやぁ、子供の頃から龍に乗ってみたいとは思ってたけど、念願叶いましたよ。頼んだら、「いーよー」と二つ返事でオッケーしてくれたし。ツバキさん流石っす。

 ちなみにキリエは気絶してない。何か大丈夫みたい。どうも腑に落ちないなぁ…


 いやぁ、それにしても、青い空に白い雲。素晴らしいじゃ無いか。


「もうすぐ着くけど。少し手前に降りた方が良いんだったよね?」

「うん。そうして」


 ということで、中立区の人間側の山脈前に降り立つ。フード完備。コレなら怪しまれる心配も無いだろう。なんたってそういう効果だからね。普通フードを着て顔まで隠してる三人組が居たら不審に思うんだろうけど。どうやらそんなことも無いようだ。


「で、抜け穴って何処にあんの?」

「抜け穴って言うよりはトンネルって言う方が近いみたいだね。その辺探せばあるんじゃ無いかな。」


 人の姿に戻ったツバキ。キリエはまだ少し怖いのか、私の袖を掴んで放さない。可愛い。


「どうやって探す?」


 そう聞くと、二人の視線が私に集まる。なんとかしろって事らしい。こいつら…いつかブチ転がしてやる。


 マンティコアの姿で奔走すること数分。それっぽい洞穴があったので二人を連れてくる。奥には光が見えており、マジで山脈ぶち抜いただけのトンネルのようだ。


「ここかな?」

「ああ、そうそう。聞いてた話と同じだよ。間違いない。」


 洞窟内に足を踏み入れる。地面はしっとり湿っていて、苔が生えている。だが、苔にもいくつか踏まれた跡があり、誰かがここを通った事を示していた。


「私達だけじゃ無いんだなぁ」

「そりゃ、魔物にも人間と仲良くしたい奴はいるだろうさ。この先のフリードと言う国は、そんな奴らも受け入れてくれる場所ってことだよ。」


 洞窟を抜けると、そこは綺麗な石畳の町だった。町の中に自然を取り入れてあり、住みやすそうな町だ。人々も活気に満ち溢れている。それに、所々ケモ耳を生やした人や耳の長い人なんかが歩いては居るが、やはり人間がいっぱいだ。久しぶりに見たな…


「ここって名物とかあったりするの?」

「うーん、特産品とかは無いみたいだけど…大きなコロシアムがあるみたいだよ?何でも魔物側の技術も取り入れて、特別な結界が作られてて、安全に殺し合いできるんだって。」

「物騒だなオイ」

「………どういう…こと?」

「それが、結界内に入る前の情報が記憶されてて、内部で死ぬと外側で、入る前の状態で復活するみたい。凄いね。」


 ちょっと興味あるな。行ってみるか。その前にギルドだ。登録しとくと何かと便利だし。まぁこっちでどうかは知らないけど。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 ―フリード王国ギルド―


 ここか。中はそんなに魔物側と変わらないが、人が多い。多すぎる。人工ヤバいな。

 とりあえず受け付け。巨乳の姉ちゃんが居る。ぐへへ。


「すいません。登録したいんですが。通貨って魔物側のと一緒ですか?」


 謎のフードに話しかけられて一瞬困惑する彼女だったが、すぐに対応してくれる。


「魔物の方でしたか。それならば登録は要りませんよ。人間側でも魔物側でも、通貨もギルドカードも共有ですから」

「そうですか。ありがとうございます」


 共有なのか…意外に仲良いのかもしれないな…

 ならコロシアム行こうか。さっきからキリエが「……行かないの?」って言って、滅茶苦茶行きたそうにしてる。



 コロシアムは、茶色い石作の、ほんとにそれっぽい奴だった。実は脆そうなのは外見だけで、超安全らしいが。


「……ツボミ…あれ」


 キリエが指さしたのは一つの広告。

 そこには勇者参戦の文字が。


「ふーん。勇者ねぇ。君、参加してみたらどうだい?情報収集なら一戦交えてみても良いんじゃないかい?」

「うーん。それもそうか。聞き込みするよりも肉体言語の方がわかりやすそうだし」

「僕が言ったことだけど…流石に引くよ…」

「……ツボミ…ヤバイ」


 と言うことでエントリーした。どうやら一定期間毎の大会らしく、開催は明日からだって。今日は今やってる大会の決勝戦があるみたい。


「見に行く?」

「「行く」」


 そんなこんなで見物に。観客席は無料みたい。前の方は有料席らしいけどね。

 大人しく席に着いた私達。ちょうど始まるようだ。




『さてさて!やってェ参りました!決・勝・戦!!』


 やけにテンションの高いMCだ。


『まず入場したのはァ!今まで何度も優勝経験アリ!歴戦の戦士!エドガーァァ!!!』

『ウオォォォォォォオ!!!!!』


 おお、盛り上がってる。エドガーと呼ばれたのは、銀の鎧と顎髭が似合うナイスガイ。

 さてさて、勇者はっと。


『続いて、今回と次回に参戦!!この国の希望の星!聖弓の勇者!!シズク・コハルカワァァ!!』

『ウオォォォォォォオ!!!!!』



「は?」


 いま何つった?雫って言ったか?小春川雫って言ったか?


 入場してきたのは、勇者の服とでも言うべき服に身を包んだ少女。最大の恩人にして最愛の友人、“小春川雫”その人であった。


「……強そう」

「うん、なかなか戦えそうな人間だ。僕達には到底及ばないだろうけどね。」

「……ツボミ?」


「あ、ごめん。私、明日頑張るわ。」

「君、何か混乱してるみたいだけどどうしたんだい?」

「私の過去、見たんじゃ無いの?」

「見えたのは君がマンティコアとして生まれてからさ。その前は知らない。……もしかして…前世の知り合いかい?」

「うん。それも、とっても大事な、ね」



『サァ!!始めましょう!決勝戦!!スタートォッ!!!!』


 MCのかけ声と共に銅鑼が鳴り、試合が始まる。


 エドガーは長剣と盾、雫は弓だ。相性的には雫は最悪だなと私が思った瞬間、弓が白い光と共に、二つに分かれた。そして、それを逆手に持って構える雫。ツインダガーにもなるのか。面白い武器だな。

 近距離に持ち込もうとしたのか、エドガーは前方に走り出す。だが、雫も姿勢を落とすと、双剣を構え、走り出す。


 先に繰り出されたのはエドガーのシールドバッシュ。雫はそれを双剣をぶつけることで受け止め、衝撃を推進力に変えたように、上空に飛び跳ねる。まるでアクロバットスターのような跳躍から、体を反らせ、さらに一瞬で弓に戻ったその武器で光の矢を放つ。


 矢は、エドガーの首元から鎧の無いところを貫通し、雫が着地すると共に、エドガーは光となって消えていった。


『早くも決着ウゥゥゥゥゥ!!勝者は!!変幻自在のアーチャー!!一撃必殺のトリックスター!!シズク・コハルカワだアァァァ!!』

『ウオォォォォォォオ!!!!!』



「彼女、見た目以上にやるみたいだね。」

「……なかなか…できる」


 確かにその少女は雫だった。かつてと同じく、生き生きした顔で観客達に手を振る彼女は、まさしく雫だ。


 ……雫…何でこんな所に居るんだ。まさか雫も死んだんだろうか。そのこともだが、“勇者”の一人であることについても聞かないと。

 そのためには、明日の試合、負けられない。絶対に雫と合わなければ。


「…ツボミ?…どうした?」

「まさか君、怖くなったのかい?君なら1秒もかからない相手だろうに。」

「まさか。ちょっと複雑な気分なだけ。明日は、必ず勝たなきゃ」

「彼女と会うためかい?」

「それもあるけど…やっぱり、いろんな人とやり合えるからかな」

「……ついに…戦闘狂に…目覚めたか…」

「この死神め。」


 辛辣だが、否定できないのが悲しかった。


 とりあえず、明日は予選だ。明後日が本戦。予選落ちなんて格好悪い真似だけは回避しないとな。

これからは毎日0:00更新ということにします。

たまに1日2話投稿の日がありますが、その日は早くなりますのでご了承下さい。

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