74話 ツボミ、家を買う
大迷宮から出たのが夕方位だったこともあり、モーラウッドについた頃には既に日も落ちていた。
ダンジョン内での経過は約1日半と言ったところか。ずいぶん速い攻略だったな。
夜も遅いし、まずは家に帰って一睡しよう。そして明日はセリアさんの所に行って、ツバキの服だ。今はイメージと違いすぎてその手のファンに怒られてしまうからね。
とりあえず正門に近づいて魔人に変身する。門番は夜でもしっかり仕事していて、やる気があるのが分かる。真面目だね。素晴らしい。
エドワードさんとは町に入った所でお別れにした。「明日お礼と今回の報酬を持って伺います」と言っていたので、家の場所も教えておいた。
良い機会だし、素材も売ってお金に出来るし、家を買い取っちゃおうかな…売った素材だけでそんな金になるかは分かんないから、今後の目標だけどね。
キリエを背負いながら歩いて、無駄に疲れながら家に着いた。キリエは可愛いから許しちゃう。
「僕もくつろいで良いのかい?」
「当たり前じゃん?」
「じゃあ好き勝手に暴れまわっちゃおうっと。」
「やめてください」
そんなやりとりをしながら家に入る。もう夜も遅いので風呂入って寝よう。エドワードさんは朝来るって言ってたし、早起きしとかないとな。
私が一番風呂を頂いて、次にツバキがお風呂に入る。最後はちょうど目を覚ましたキリエだ。ツバキもキリエも風呂上がりに全裸で出てくるのやめてくれ。性的にどうこうって訳じゃ無くて、純粋に床が濡れる。私は家事ガチ勢だから床が濡れてるのは気にくわない。ってか、お風呂場にパジャマ置いてあるだろうが…
以下は二人の言い訳です。
「いや、なんか面倒で。ダメ?」
「ダメに決まってるよね?」
「……めんどう。…着せて?」
「喜んで」
「僕と扱いが違いすぎないかい?」
そんなこんなで就寝。しようと思ったんだが、ベッドが2つしか無い事に気づく。
「さてどうしようか。私はじゃんけんでも良いけど?」
「ふむ。僕も賛成だね。君はどうだい?」
あくまで話し合いでは無くじゃんけんをしようとする似たもの同士の二人。
だが、勝負はじゃんけんをするまでも無く決まった。
「……私と…ツボミが…一緒に寝ればいい」
平和的なキリエさんであった。その夜、ツボミの鼻息は蒸気機関とタイマンを張れる程に荒かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
おはようございます。朝ご飯は要らないとお二人が言うので、今はエドワードさん待ちだね。二人は仲良く二度寝してる。曰く、ツボミが起きてれば大丈夫でしょ?との事だ。後で悪戯でもしておこう。
そんなことを考えながら掃除してると、玄関のチャイムが鳴る。
「はいはーい」と言って、私が出ると、そこにはエドワードさん一家が居た。エドワードさんとその奥さん、そして元気な一人娘だ。
「良かった。治ったんですね」
「ええ、間に合ったのもツボミ様方のおかげですよ。本当にありがとうございました」
「主人と娘がお世話になりました。本当にありがとうございます」
「おねぇちゃんありがとー!」
なんだかとても良い気分だ。頑張って良かったな。
奥さんはおしとやかな感じで、娘さんは元気いっぱいで、良い家族を持ったな、エドワードさん。全員骨だけど。
「それでですが、今回の件は依頼扱いとして、私から報酬金を出させて頂きます」
そう言ってエドワードさんが差し出してきた袋。受け取るとドスッと凄まじい重量を感じた。
「あの…これは一体?」
「金貨250枚です。ご確認ください」
「!?」
ちょっと待て、今この人250枚って言ったか?250万円?おや?護衛で250万?これただの傭兵みたいなもんだぞ?傭兵って儲かるのか?んなわけねぇよな?こんなに貰えないよ…
「あの…ツボミ様…?どうしました?」
いきなり百面相し出す私にエドワードさんは声をかける。
「こんなに貰えませんよ!私が何をしたって言うんですか!?」
「落ち着いてください。なんだか探偵に犯人はあなただ宣告された犯人みたいになってますよ。それに、私の娘の命を救ってくれたではありませんか」
「いや…でも…」
「良いんですよ。受け取ってください」
もうなんか混乱してきたので受け取っておくことにした。
「キリエ様は何処に?あの方にもお礼をしたいのですが…」
「寝てますよ。ほっといてください。私が伝えとくんで」
「いえ、そういう訳にもいきませんよ。再びお礼に来ますから」
「あ、それなら少しギルドに用事があるんで、後でこちらから伺いますよ」
「ギルドへの用事なら直接私に、で構いません。受付に言っておきますので、ご用の時は私宛にどうぞ」
「了解です。では後で伺いますね」
そういう訳で、二人の眉間にショックバレットを撃ち込んで叩き起こす。
「がはっ…君、ついに死神の本能に目覚めたのかい?」
「……いたい…ツボミ…なにする…」
常人どころか、手慣れでも一撃で気絶に追い込む弾丸でも、二人にかかれば“結構痛い”で済むようだ。
とりあえずギルドに連れてきた。すると、すんなりマスター室に通して貰えた。
「ようこそ。お待ちしておりましたよ。まずはキリエ様、ご協力ありがとうございます」
「……きにするな…」
何か偉そうだな…
「とりあえず、不便でしょうし、ツバキ様のギルドカード、用意しておきましたよ」
「良いんですか?」
「お礼の一環ですよ。気にしないでください」
そう言ってエドワードさんが差し出したのは真っ黒なカード。SSランクカードだ。とりあえずツバキに渡しておく。
「で、エドワードさん、未開の砂漠の素材、買い取って貰えませんか」
「続きをどうぞ」
なんか食いついてきたぞ。商売魂ヤバいな…もしかして本業こっちか?
「家を買い取ろうと思いまして。そのためのお金稼ぎの一環ですよ」
「して、内約は?」
私は昨日の夜、爆睡する二人の中、キリエに抱きつかれながら書いたリストを見せる。ボス素材と箱を抜いたものだ。
しばし硬直し、その後考え込むエドワードさん。ついにはリカルドさんまで呼んで相談しだした。
少しして。
「お待たせしました。全て買い取らせて頂きましょう。いいえ、買わせて下さい。これだけの量ですし、恩もありますし、色を付けて5000、いや、5500が妥当でしょうか。いかがですか!」
興奮するエドワードさんと、困惑する私。何か今日は理解がはかどらないなぁ…
「む、渋りますか…良いでしょう。5600!これでどうです!」
「!?」
あがった…だと?
「ならば5700!」
「いいですいいです!それでいいです!」
「では、交渉成立と言うことで」
ほくほく顔のエドワードさん。素材を全て売った私は、その素材を倉庫にあけてお金を受け取ると、上の空のままギルドを後にした。
「どうしよう。いきなり金持ちになってしまった」
「良いんじゃ無い?家買い取るんでしょ?」
「……あっても…こまらない…」
そんなこんなで帰りに家を買い取っていった。2500万。破格だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その日の夜。ツボミ軍会議が行われた。……ツボミ軍って何だ…
「キリエ、私達はこの後、人間の国に行く。キリエはどうしたい?ここにいたいなら居ても良いけど」
「僕も行くのかい?」
「案内役で来てくれるんじゃ無いの?」
「しょうがないなぁ」
キリエは人間の国という単語を聞くと、少しビクッとした。トラウマがあるんだ。無理も無いだろう。
「………何のため?」
「私の仕事だよ。それも、かなり大切な」
「………」
キリエは黙り込んで、ふるふると震えている。恐らく葛藤があるんだろう。
「ここに残る?」
「………く…」
「ん?」
「……いく…わたしも…いく」
「大丈夫なの?」
「…大丈夫。……それに…乗り越えなきゃ…いけないから…」
なんだか覚悟を決めた様子のキリエ。深くは聞くまい。私に出来るのは、キリエに害なすものを灰も残らず消し飛ばす事だ。
「君、頭の中まで死神かい?」
明日はツバキの服を作って貰いに行こうか。勿論セリアさんの所だ。服はあの人に任せておけば問題なかろう。