73話 新しい仲間
『それで?君はこの後人間領に行くんだろう?何か準備はしてあるのかい?』
「それについては今考えてるとこ。って言っても何を用意しとけば良いのか全く分かんないけどね」
キリエが死闘の末、自分に打ち勝った頃。
ツボミと偽ツボミはすっかり意気投合していたのであった。
『ふぅん。まぁ僕からはいくつか情報はあげられるけどね。渋るつもりも無いし。でもその前に、君が人間領に行ってどうするかを聞こうかな。具体的にね。』
「具体的って言ってもなぁ…今回は一応様子見のつもりだし。そんなに何かをしようって訳じゃ無いんだよね」
『ならバレずに動きたいわけだ。』
「まぁ、そうなるかな」
影のツボミはもう既に起き上がっており、凄まじくピンピンしている。心臓部には風穴が空いているが。
『それならまずはモーラウッドから真っ直ぐ東に行ったところにある“フリード”って国に行くと良いかもしれないね。そこは魔物と仲良くしたいって言う奴らが集まってる国さ。調和派、だったかな?何かそんな感じの所だ。まずはそこから初めていろんな国を回ると良いんじゃ無いかな?』
「素晴らしい情報じゃん。助かるよ。でも流石に飛んでいったらバレると思うんだけど…」
『それについても問題ない。実は、モーラから真っ直ぐ東に行ったところの中立区に、フリードへ繋がる抜け穴があるんだ。やっぱり国が国だけあって、そういうのもしっかり準備してあるんだと思うよ。』
「へぇ…そういえば、大昔にここで死んだはずの貴方が何でそんなこと知ってんの?」
『僕だって、ここから離れられないわけじゃ無いんだよ?情報収集くらいは出来るさ。』
『そういえば、君、いっぱいスキル持ってたよね?』
「まぁ…性質上…ね?」
『じゃあ僕からもいくつかプレゼントしようかな。人間の国に行くに当たって、隠密系は必須だと思うし。』
「いいの?遠慮しないけど」
影は指をくるくる動かすと、地面を指さす。そこからは一つのぬいぐるみのような物が浮かび上がってきた。
『これにいくつかスキル付けといたから。ささ、ずばっと。』
言われるがままに、私はさっき装填した死影弾を人形の眉間にぶち込んだ。
【生物図鑑により、パペットから『闇龍』『光龍』『隠密』『絶影』を取得しました。スキル同士で複合が発生】
「何か、関係ないのまで含まれてない?」
『サービスサービス。それより君、マンティコアなら自分のステータス見れるんでしょ?見てみてよ。』
口振りからすると、どうやら種族によってステータスを見られるかどうかが決まっているみたいだな。とりあえず見てみようか。
ステータス
〔 名前 〕 ツボミ・キノシタ
〔 分類 〕 魔人
〔 LV 〕 140
〔 加護 〕 マンティコアの加護
〔 眷属 〕 キリエ+
〔状態異常〕・屍砕き
・死神の誘い
・山羊悪魔の呪い
〔 体力 〕 6409
〔 攻撃力 〕 28932
〔 耐久力 〕 7003
〔 素早さ 〕 17893
〔 魔力 〕 19192
〔技能〕・魔眼+3 ・作成+
・剣術+13 ・斧系統+2
〔スキル〕・インベントリ ・生物図鑑
・変身 ・収縮 ・超化装甲
・武装強化 ・雷電纏 ・爆裂壁
・鬼撃 ・不動 ・斬撃波
・次元斬 ・光翼剣 ・闇滅斬
・爆雷刃 ・聖斬 ・召龍の扉
・不可視の大剣 ・隠密
・ライトニングアクセル
・絶影 ・闘気覚醒
〔魔法〕・妖炎 ・狐火 ・爆炎弾幕
・ドラゴフレア ・炎風
・イグニッション ・炎剣
・ホーリーバースト
・メテオレイン ・黒光
・重力操作 ・禁忌:影鰐
〔装備〕・グレイスオブクイーン+
・体温調整
・攻撃力上昇〔極小〕
・攻撃力上昇〔中〕
・速度上昇〔中〕
・自然治癒力上昇〔特大〕
お?何か変わってるぞ。
『僕がちょっといじって見やすくしてあげたんだ。こっちの方がわかりやすいだろう?』
何でこんな事出来るんだ…
「まぁいいや。ありがと」
新しいスキルの確認だ。
・召龍の扉『龍との契約によって、召喚が可能になる』
・隠密『気配を消す。仲間にも付与可能』
・絶影『短距離を一瞬で移動する』
・黒光『威力が大幅に上がったダークネス』
・重力操作『対象座標の重力を操る』
・禁忌:影鰐『影のある物を喰らい尽くす』
影鰐…確か妖怪だよね。
それぞれ、召龍:肆式、ダークネス、グラビティ、影撃と影隠れ、が変化したみたい。光属性が全く変化しなかったのをみると、マジで適性が無いんだろう。
影隠れェ…私の防御手段が減ってゆく…
『君のスキルに召龍の扉ってあるだろう?』
「あるね。それが?」
『僕は龍だよ?』
あっ…コイツ、もしかしてそのためだけに2つの龍を渡してきたんだろうか。
「契約してくれるの?」
『勿論。君は面白いからね。気に入ったよ。いつでも呼ぶと良いさ。』
そう言って、影は私と自分を光で包む。
『はい完了。スキルが変わってるはずだよ。』
・召喚術:黒帝龍『黒帝龍を召喚することが出来る』
「黒帝龍っていうの?」
『生前はそうだったね。今はその亡霊が正しいけど。』
「呼んでみて良い?」
『いいよー。あと、どういう訳か分かんないけど、呼び出されると生前の姿で出ると思う。』
私が召喚を発動すると、目の前に大きな赤く光る魔方陣が浮かびあがる。
更に、その中心に膨大な量の魔力が集まる。
そして、中心から解き放たれるように、一匹の巨竜が飛び出した。
現れたのはまるでバ○ムートを彷彿とさせるような格好の龍。
全身は黒く、所々が金色に輝く、帝王という名にふさわしい龍だった。
100人乗っても大丈夫そうなサイズで、確かに強者の風格を纏っている。
「凄い格好いいね」
『でしょ?久しぶりの肉体だよ。そういえばこんな感じだったなぁ』
喋り方的にショタ系なんだろうかと思っていたが、女の子だった。僕っ子か。素晴らしいじゃ無いか。格好良くてクールな僕っ子か…良いな。
『今、なんか寒気がしたんだけど…何か考えてた?』
「気のせいじゃ無い?それより、私よりも余裕で強いんだろうなぁ…良いなぁ…」
『……良い勝負じゃ無いかな…もっと自分の強さを理解した方が良いと思うけど…』
「そういえば名前は?黒帝龍だと呼び辛いんだけど」
『ん?あぁ、そうだったね。僕は“ツバキ”って言うんだ。誰に付けて貰った名前か、もう忘れたけどね。』
「親じゃ無いの?」
『僕に親はいないんだよ。よく分からないけど“気づいたらそこに居た”って感じさ。古の時代に君臨した者は皆そうだよ。君だって見方を変えれば、この世界では誰からも生まれてないだろう?』
「よくわかんないや」
『正直、僕もよく分かんないよ』
『僕も実は君みたいに魔人の姿になれるんだよねぇ。久しぶりになってみようかな。』
「凄く興味ある」
どんな子なんだろうか。可愛いんだろうか。それとも格好いいんだろうか。ここ最近私がエロオヤジポジになってる気がするんだが大丈夫なんだろうか。
「ほれ。どんなもん?」
変身した彼女は全裸だった。そういえば私も最初は全裸だったっけ…
顔立ちはまさにクール系美少女って感じ。凄く凜としていてグレイトです。
そして黒目に黒髪のロング。清楚感がヤバイ。
少し下に目をやるとすとーんと、平坦なお胸がそこに。よっしゃ。まな板同盟だ。キリエがBくらいあるせいで少し肩身が狭かったんだ。
「とりあえず私の前の服を貸すね」
魔法の服は、一度形が定着すると元には戻らないようで、脱いでも変わらなかった。
ツバキはすぐにロングコートの人に早変わり。
似合わないなぁ…モーラに行ったらセリアさんに作って貰うか。
「悪いね。いいのかい?」
「別にそのくらい良いよ。ってか、服貸したけど、どのくらい召還されていられるの?」
「ずっとだよ?本来、召喚術は使用者の魔力が持つ限り続くんだけど、君は消費した魔力がその100倍くらいの速度で回復してるから。実質無限だね。」
一瞬言葉を失った。
「……私ってそんな凄いの?」
「だから、君はもっと自分の強さを理解した方が良いよ…控えめに言って化け物だね。」
そうだったんだ…なんか複雑な気分だ…
「おや?お仲間が皆準備完了したみたいだよ?」
ツバキがそう言うと、私達の居た広場に、大きな扉が出来た。
私達が、その扉を開けて出ると、全く同じタイミングで、キリエとエドワードさんが出てくる。
良かった。皆勝ったみたいだ。
「お疲れ様。どうだった?」
「お疲れ様です。私はなんとかなりましたよ。薬も手に入りましたし」
「……あぶなかった」
エドワードさんの服が少し汚れているのに対して、キリエの服は結構汚れている。死闘だったんだろう。
「……だれ?」
キリエがツバキを見てそう言うので、二人に紹介しておいた。
エドワードさんは古代の龍だと聞いて、目をまん丸にしている。キリエはツバキに近づいて、軽くつんつんした後、私に抱きついてきた。
「……こいつに…いじめられた」
「い、いや、それもこのダンジョンの1つなんだし…仕方ないじゃ無いか…君も、乗り越えられたじゃ無いか…」
「ツバキ、少し話し合おうか」
私に抱きつきながら、涙目でツバキを見つめるキリエ。額に青筋を浮かべ、顔に満面の笑みをうかべ、指をバキバキ鳴らすツボミ。その二人の様子におろおろするツバキ。それを蚊帳の外から見つめるのはエドワードさんだった。
「さてさて、そろそろ地上に出ようか。」
キリエからお許しが出たので、ふぅ、と胸をなで下ろしながらそう言うツバキ。
「ほーら、皆、そこの魔方陣にのってね。」
ツバキが指さした先には、紫色の魔方陣があった。
私達がそこに乗ると、魔方陣は輝きだし、多少の浮遊感と共に、私達を地上へと転移させた。
「そういえば、ダンジョンのボスの役割、投げ出してきて良かったの?」
「代わりを置いておいたから。大丈夫じゃ無いかな。」
今私達はカルグルの町がある断崖絶壁の一番上に居た。
下を見ると、おしりの辺りがゾクゾクッと来る高さである。
カルグルを見て回ったりもしたかったが、エドワードさんの娘さんが心配だったので、このままモーラウッドへ帰ることにする。いつでもこれるからね。
帰りも、私の背中に乗っていく事になった。
私的には、是非ツバキの背中に乗ってみたかったのだが、ツバキが、マンティコアに乗りたいと言うので、そうすることになった。
キリエはまたガクガクしていたが、咥えようとすると、決心した顔で自分から乗ってきた。
位置的には、案内役のエドワードさんが一番前で、次にキリエ、一番後ろはツバキ、と言った感じだ。
勿論、帰りも悲鳴が響き渡り、気絶者が出たのは言うまでも無い。