60話 ツボミごはん
私たちは今、商店街へと繰り出している。
サイドテールに慣れていたせいで、この長さの髪を縛っていないのは些か鬱陶しいが、我慢しよう。
今なんの店を探しているかと言えば、雑貨屋である。
購入するのは食器と、調味料と、調理器具。
私の中の料理したい衝動が溢れだした結果である。
そのことをキリエに伝えると、「…ツボミ…料理…出来るの?」と、脳筋を見る目で見てきたが、私は前世では料理を趣味としていた。腕前も悪くは無いと自負している。
今日はステーキにしよう。お肉が食べたい。
とりあえず、目についた店に入ってみるとしよう。
近場に食器を専門に扱っている店があったので入ってみる。
出迎えてくれたのはさっぱりした感じのドワーフだった。なんとも清潔感のあるイケメンである。
とりあえずキリエに自分の好きな物を選んでくれと言って、私も見て回ることにしよう。
この店にある食器は、全部手作りらしい。
それにしては西洋風の陶磁器のような物や、和風の木製食器など、レパートリーが豊富である。
ちなみに、後で知ったことだが、ここモーラウッドは職人の町と言う別名があるようだ。
その名の通り、被服のセリアさんや、モンスター加工のガリスさんだけで無く、様々な分野の職人が集まっている物作りが盛んな町だ。
この店も、食器作りの職人さんの店らしい。
とりあえず私はなんとなくしっくりきたので、自分用の木製のお椀と、一般的な皿を数枚、あとは大皿やシックな小皿なんかをいくつか選んだ。
キリエは、焼き物がしっくりきたようだ。なんとも渋い少女だ。
大量の食器をお会計に持って行くと、さわやかイケメンはちょっとびっくりしていたが、手際よく会計をしてくれた。
ちなみに30枚程度買ったが、金貨7枚だった。
結構高いなと思うかもしれないが、一枚一枚、デザインも質も素晴らしい上に、手作りだ。かなり安いと思う。
その後も、調味料や鍋や包丁なんかを買ったりして最低限の一式をそろえることが出来た。
食文化は日本にかなり近く、あまり変わらない感じでそろえられて良かった。
出費は食器を抜いて金貨9枚と銀貨4枚。
質の良い物ばかり買ったせいだが、後悔はしていない。
そこでキリエから指摘されて思い出したが、箸とかを買っていなかった。
私は一体何で食べるつもりだったんだ…
と言うことで、購入。
箸なんだが、私は木製の、菊の花が描かれている物にぐっと来てしまい、それにする。
キリエのセンスがよく分からないが、キリエは木製で無地の渋い物だった。
その後も、スプーンやナイフ&フォークなんかを買って銀貨3枚。
やっと揃え終わって見ると、昼はとっくに過ぎていた。キリエもお腹が空いたようなので、宿を探してご飯にしよう。
今回は奮発して貸家を借りた。
お値段は一ヶ月で金貨30枚。なかなか安いね。
まぁ一ヶ月も滞在しないけども。
こんなに奮発したけどまだまだ懐が厚い。お金があると色々やりやすくて良いね。
とりあえず料理に取りかかろうか。なかなかに良いキッチンで、テンションが上がる。
野菜を忘れていたので、キリエに金貨一枚持たせておつかいに出す。
まだ一人は良くないかと思って、私も行こうとしたんだが、
「…おつかいくらい出来る」と言われたので、私はこの間に料理に取りかかろう。
まずはメインディッシュのステーキから。
食材にはサンドブルの肉を使おうと思う。
ダンジョンでのドロップ品だが、良い感じに脂が指していて品質は高めだ。
実は私は脂の無い赤身の方が好きだったりする。そういう人が私だけでは無いと信じたい。
サンドブル肉は、一つでも結構な大きさがあるので、一回では食べ切れなそうだ。
贅沢に厚く切った肉を見ていると、なんか悪いことでもしたような気分になってくる。
今日はステーキとサラダだけにするつもりなので、もう焼いても良いだろうか。
私はインベントリからフライパンを取り出して熱しておく。
ステーキを焼くコツは、最初からフライパンを熱くしておくこと。
良い感じに暖まってきたので、焼き始めよう。今回はミディアムで行く。
最初は私の分だ。私は濃い味が好きなので、塩胡椒を少し強めに振って、焼き始める。
フライパンに乗せると、ジュワーッ、といい音がして、お肉の匂いがしてくる。食欲をそそる良い匂いだ。
美味しく焼くコツ二つ目。裏返すのは一回だけ。そして最初は強火。後半は弱火。
まずは片面を1~2分強火で焼く。なんとなく良い感じになってきたら弱火で同じくらい焼く。
片面が良い感じになったら裏返す。
素早くやることよりも、確実に、しっかり裏返す方がなんとなく良いかもしれない。
裏返した後は、片面の熱が伝わっているので、同じように焼く必要は無い。
ここで強火にする人もいるが、私は中~弱火くらいが良い気がする。
それも長く焼く必要は無い。30秒程度したら弱火に戻す。
ここで、東北の人を始めとした、濃い味信教の人は更に塩胡椒を振っても良いだろう。
後は菜箸でつんつんしてみて少し堅くなったあたりで火を止めて良い。
焼いた後にもコツがある。アルミでくるむか、暖かいところで5分くらい寝かせると良い。
そうすることで肉の旨みを閉じ込めることが出来る。
まぁそんなに執着が無いとか、そのまますぐ食べるならしなくても良い。
そうした場合は食べる前にほんの少し温め直すと良いだろう。
キリエの分を焼き始めたあたりで本人が戻ってきた。
とりあえず座って待っていて貰う。
キリエの分を寝かせている間に、付け合わせだ。
まずはブロッコリーを茹でる。特出することも無いだろう。
あと一品くらい付け合わせが欲しいので、ブロッコリーをサラダに変更しよう。
そうなるとまた物足りないので、タマネギのソテーにしよう。
これは簡単だ。
まずタマネギを食べやすく切って、油を引いたフライパンで炒める。
香り付けに赤ワインなんかを入れたりしても良いだろう。後はしんなりしてきたあたりでバターを入れる。
これだけだ。
こんな簡単でも、付け合わせの一品になるので良い感じだ。
ブロッコリーは一口大に切ったら、レタスと一緒にぶち込んで皿に盛る。
色味が欲しいならゆで卵なんかも良く合うが、今回はタマネギでいいや。
これはドレッシングやからし醤油なんかで食べると良いだろう。
後はステーキを軽く温め直して皿に盛るだけ。
これで本日の夕食の完成である。
キリエは途中から、「…おぉ」とか良いながら興味津々で見ていた。
多分この子料理できないんだろう。
ご飯が欲しいところだが、こんな分厚いステーキだ。食べきれない。
ではいただきます。
とりあえずナイフ&フォークで一口ぱくっと行こう。
サンドブルの肉は、その肉質もあってか、ミディアムで焼いたのに結構とろけていく感じがある。
口に入れた瞬間に広がった肉汁のジューシー感がそのボリュームを引き立てる。
キリエも、にまぁ~っと至福の表情を浮かべている。
この肉、なかなか美味しいぞ。脂が指していたが、全く胸焼けする気配が無い。
と言うか、どこかフレッシュだ。サラダなしでも食べきれる感じ。
キリエと私は一通り食べてその心を一言で吐き出した。
「「…美味しい。」」
自分で作った料理はそんなに美味しいと感じないが、今回はマジで美味しかった。
と言うか肉が美味しかった。
今度は別の用途にも使ってみようかな。
そうして、私たちは至福の夕食を過ごしたのであった。
ちょっと料理ジャンルに出張してしまいました。
作者が料理大好きなので大目に見てください…
ステーキ、良いですよね。
特に赤身が良いです。
霜降りだと、肉の本来の匂いが少し薄いので、作者はあまり好きではありません。あと、胸焼け。
ちなみに肉ならば鶏肉が一番好きです。
どうでも良いことをダラダラとすみません。