59話 セリアさん再び
モーラウッドに着いた。唐突だが、着いたんだ。
と言ってもマンティコアでは限界があるので近くまで来た、と言うだけだが。
キリエはスピードには慣れていると思ったんだが、どうやらそんなことは無かったようだ。
早々に意識を手放して、全く起きる気配が無いのでおんぶしていくことにする。
試しに全力で走ってみたら、何かの壁を突破したように白い衝撃波が空中に生まれて、音を置き去りにした気がするが、きっと気のせいだろう。
朝にアシトラを出て、まだ日が昇りきっていないのを見れば、もの凄いスピードだったのは分かるが、気にしない。
大丈夫。キリエが気絶しているのは、きっと私のせいでは無いんだ。反省なんてしない。
前回は門番からスニークした気がするが、今回は正面から入る。
ちなみにこの町の出入りには、ギルドカードの提示か、銅貨1枚が必要らしい。
前回のばっくれた時の分を払ってなかったな。後で金貨1枚くらい渡しておこう。ワイロジャナイヨ?
私が気絶しているキリエをおぶって、正門に向かうと、門番さんが「怪我人ですか!?」と言って近づいてきたので、笑顔で金貨1枚を渡しておく。
「賄賂です。」と真顔で伝えた私に不審そうな眼差しを向けていたが、「ギルドカードの提示をお願いします」と、仕事に戻った。
ここで考える事がある。フィリップさんがなんか言ってたが、SSランクは皆の憧れらしい。
このままギルドカードをみせると色々騒ぎになりそうだ。
出来るだけ騒ぎは回避したいので何とかしよう。
とりあえず、視線で騒いだら殺すと訴えながら渋々黒いそのカードを見せる。
門番は一瞬驚いた顔で叫びかけたが、私の熱い視線(殺意)に気がついたのか、頑張ってその声を抑えた。
それにしても出会い頭で賄賂を渡してくるSSランクってどうなんだろうか。
もしかして夢を壊してしまっただろうか。いや、アレは賄賂じゃ無いんだ。そうなんだ。
とりあえず通して貰ったのでセリアさんの元へ向かう事にする。
途中でキリエが目を覚まして、「…ツボミの馬鹿」とかぶつぶつ言ってるが気にしない。
そうしている内に見覚えのある店の前へとやってきた。
私は「こんにちはー」と言ってドアを開ける。
「いらっしゃーい」と、聞き覚えのある声が出迎えてくれる。
だが、その人影が私へと視線を向けた瞬間。私はセリアさんに抱きつかれていた。
私の感覚神経をして認識できない速度だと…?化け物か…?
「ツボミちゃーん!待ってたわ!早速だけど毛を切らせて貰える!?」
この人は…いや、何も言うまい。キリエは置いてけぼりになっているが気にしない。
セリアさんが私の毛刈りを行って、狂乱モードから、お姉さんモードへと戻る。
毛刈りって嫌な響きだな…
すると、やっと私の近くにいたキリエに気づいたようだ。
「ツボミちゃん!?この天使のような少女は誰なの!?」
また狂乱モードになったセリアさんを鎮めながらアシトラでの事を説明した。
キリエは「…あう…あう」とか言いながらセリアさんに抱きしめられてる。
なんかキリエが可哀想になってきた。今日キリエを襲った理不尽の半分は私だけど気にしない。
すると、真面目モードになったセリアさんがキリエの服を「ちょっとみせてね」と言ってまくり上げる。
「ふむ。これならすぐにでも解除出来るわ。私に任せて。アルフからも頼まれてるみたいだしね。何よりも天使二人にお願いされて断ったら、私は自害するわ。」
良かった。なんとかなるみたいだ。後半は聞こえなかった。
「じゃぁちょっとキリエちゃん借りてくわねー」と言って、セリアさんはキリエと共に店の奥へと消えていった。
ちなみに、セリアさんとアルじぃの関係について訪ねたら、昔の冒険者仲間よ。と言われた。
何歳なんだ…とか思ったそこの貴方。女性に年齢を尋ねるのは深淵に手を突っ込むようなものだ。とだけ言っておこう。
10分位すると、二人が戻ってきた。
キリエはにこにこしながら腹部をめくって見せてきた。そこにはさっきまであった魔方陣は無く、私は安堵すると共に、キリエに恥じらいについて色々教える必要があると思った。
私たちがお礼をすると、セリアさんは「良いのよ~、ツボミちゃんの毛と二人の天使の笑顔が報酬だわ」と言っている。
もう手遅れなんだろう。
私がここを訪れた理由は他にもあった。服の新調である。
と言うのも、私の服は既にぼろっちいし、キリエの服も結構くたくただ。
私はモーラを出る前にセリアさんと約束していた通り、未開の砂漠で手に入れた素材をセリアさんに見せる。
沢山あった品だが、セリアさんはある物に目をつけた。
「これ…悪魔の布じゃない…何処で手に入れたの?」
そう、セリアさんの手に持つそれは、バフォメットが落とした布だった。
「バフォメットをワンパンしたら落としました」
と、素直に答えると、「ツボミちゃんに常識は通用しないか」と諦めた顔をしていた。
そしてキリエの分と、ついでに私の髪を縛るゴムも頼むと、色々と素材を吟味した後、最終的にいくつかの素材を手に取った。
「それじゃぁ悪魔の布と、キュウビの毛皮、後はグレートジャッカルの毛皮4枚と、ツボミちゃんが今つけてるトレントの繊維を貰うわ。お代は品物で良いかしら?」
この人どんだけ太っ腹なんだ…
申し訳なかったので、お金を払おうとしたが、セリアさんは断固として受け取らなかったので、引き下がることにした。
服は今日中に頑張って作ってくれるらしい。
ここで、色々セリアさんについて解説しておく。
セリアさんは呪術や幻惑、妖術に長けたサキュバスの中でもトップクラスの実力を持つ。キリエの奴隷紋はかなり高度な物で、普通ならプロの魔術師が10人がかりくらいで2日程度かけて解く物だが、単身10分で解いてしまうほどだ。その実力は圧倒的だろう。
ちなみに、冒険者時代はSSランクだったらしい。本当の意味での化け物だ。
更に言えば、モーラのマスター、骨の紳士のエドワードさんもSSらしい。この町はヤバイ。
後、セリアさんはサキュバスだが男性が苦手なようだ。
そしてその頭の中は百合の花で埋め尽くされている模様。
ちょっと身の、特に貞操の危険を感じたが多分大丈夫だろう。
そして、今は被服において有名なセリアブランドの頭だ。
なんとも凄い人物だった。
私たちの前ではちょっと残念な人だったけどね。