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魔物で始まる異世界ライフ  作者: 鳥野 肉巻
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58話 再びモーラウッドへ

 フィリップは戦慄の表情を浮かべていた。

 ミノタウロス、バフォメットは制限時間ぎりぎりで切り抜けてこれたのだ。だが、運が我々を見放したようだ。

 ここに来てボス復活までのスパンが短くなっているとは思って居なかった。

 いや、違うな。バフォメットを倒した何者かが此処でやられたと考えるのが妥当か。

 それにしても、バフォメットを倒すとは、一体何者だ…

 

 フィリップを先頭とした数百人の冒険者の前には、燃え上がる9本の尾を持つ、美しい狐が居た。

 ちなみにフィリップの予想は前者が正解だ。

 アルじぃの配慮(嫌がらせ)で、最後の砦であるキュウビだけは復活までの時間が短くなっている。

 そして、その後にはボスたるアルじぃが待ち受けているのだが、ツボミの場合はキリエを倒した事で、アルじぃがクリアを認めたようだ。

 と言うより、あの理不尽な強さの堕天キリエを切り飛ばした光の刃に対して、光に弱いアルじぃがのっぴきならないくらいビビったと言うのが正しいのだが。


 フィリップ達の中には、目前に佇む狐を恐れ、発狂しかけている者も居る。

「クソッ、此処までか…」

 サラマンダーであり、Sランク冒険者でもあるフィリップをして、戦う前から無理だと本能で悟らせるほど、その狐は妖艶で、それでいて絶対的強者の風格を漂わせていた。

「怯むな!最後まであがけ!水魔法だ!」

 フィリップの勇敢な呼びかけに反応し、杖を持った数人が詠唱を始める。


 此処で解説を挟んでおくが、通常、魔法はツボミのように何も唱えずにポンポン使える物では無いのだ。

 魔法を発動するまでにはいくつかのプロセスが必要となっている。

 まずは魔方陣の構築。魔力でその魔法に見合った陣を作り上げるのだ。これは杖にあらかじめ魔方陣を覚え込ませておく事で、省くことが出来る。勿論、杖のスペックに左右され、良い杖ほど強力で、多数の魔法陣を記憶しておくことが出来る。だが、全てを記憶できるわけでは無いので、杖には自分の得意な術を記憶させておくのがおすすめされている。ともかく、このことから杖は魔道士をはじめとした魔法系職には必須とされている。

 また、自分の使えない魔法は、そもそも陣すら描けないので、魔法の勉強をする者はまずその魔方陣を描けるようになるまで努力するという。

 次に詠唱。魔法を発動するには、できあがった魔方陣に魔力を注ぎながら、発動に必要な言葉を紡ぐ必要がある。その言葉は魔法毎に定まっているが、経験や技量によって、一部、または全て省略が可能となっている。魔法に長けた者は、ほとんどを無詠唱で扱うと言われている。

 そして、発動までの待機時間だ。陣を描き、詠唱を行ってから、魔法が発動するまでは、魔法にもよるが、少々の待機時間が生まれる。普通ならば下級魔法ならばほとんど無く、上級魔法ならば約30秒ほど必要だ。

 ちなみにマンティコアの加護に含まれている『瞬間詠唱』は、実は詠唱時間では無く、この詠唱後の待機時間を短縮する物となっている。紛らわしい話だ。


 このように、魔法は、魔方陣→詠唱→待機、と言うプロセスをこなして発動する。

 だが、某マンティコアは与えられたチートによって魔法陣と、詠唱をすっ飛ばし、待機時間すら縮める。

 傍から見れば良い化け物だ。


 話を戻すが、数人の放った水魔法は、例の如く、キュウビには届かずに蒸発する。

 フィリップ達は手前で消滅した魔法に驚いた様子だったが、眼前で尻尾の炎が青く染まるのを見ると、その顔を驚愕から恐怖へと変えてゆく。

 突如、キュウビの周りに無数の青い炎弾が現れる。 

 フィリップは察する。この場の誰一人として、この無数の弾。その一発も受け止める事は出来ないだろう。

「まさかこんな事になるなんてな…俺の失態だ。」

 そうつぶやくとフィリップは目を閉じる。潔く死を受け入れようというのだろう。

 その直後だった。


ズバァァン!


 大気を振るわせるような音が響く。

 炎弾が到達しないことを疑問に思ったフィリップがその顔をおそるおそる上げる。

 そこにはキュウビの姿は無く、白銀の髪をサイドテールに纏めた黒いコートの少女が居た。そして、その傍らには一本の剣を持つ乳白色の髪の少女が、その剣を納刀していた。

 まるで女神のようだ…と、その場に居た誰もが思ったのであった。


 時間は少しさかのぼる。

 ツボミは、自分を追ってきていた者の話をしっかり聞いた上でガン無視し、おもむろに銃をぶっ放していた。

 狂ったわけじゃ無いんだ。聖刻弾はホーリーバレットを使い込むことで発現した。ならば他の属性弾ではどうか。というのを試していただけなんだ。

 実際、それは成功していた。

 フレイムバレットからは「紅蓮弾」、シャドウバレットからは「死影弾」がそれぞれ派生した。

 

 撃ってみた感覚だと、なんとなく聖刻弾よりも、他二つの方が威力が高い気がする。

 そういえば私が最初から持ってたスキルも炎系と、闇系が多かったし、マンティコアの適正なんだろう。と勝手に理解しておく。

 ちなみに、聖剣はキリエにあげた。私が持ってても意味ないしね。

 もの凄く嬉しそうな顔をしていたので、こっちまでほっこりした。

 ちなみに、ご褒美と称して、アルじぃがご飯をごちそうしてくれた。

 なんとなく美味しかったのは分かるけど、長いことご飯を食べてなかった私はかなりの速度で食べてしまったため、あまり覚えていない。

 これは一生反省しよう。料理を味わわないなど食材に対する冒涜だ。

 

 その時、追っ手だろうか、私が来た方がなんとなく騒がしくなってきた。

 私はついでに帰ろうと、アルじぃに別れを告げる。

「色々お世話になりました。私はこの辺で帰りますね」

「おう、また来るんじゃぞ」

 そんな会話をすると、キリエも口を開く。

「…おじいちゃん、いってきます。」

「おうおう、いってくるんじゃぞー」

 なんかキリエには優しげな声だった。私は気にしないぞ。


 とりあえず、来た道を引き返すと、キュウビの後ろ姿が目に入る。

 奥には襲われている人たち。

 私は瞬発的にカースオブキングを引き抜く。いちいちインベントリから出すのは面倒だと思いつつ、キュウビには闇と火が効かないことを思い出して聖刻弾を装填する。

 ちなみに、乱射しているときに気づいたんだが、この属性弾派生の単発弾は装填中に他の行動を行うと、装填が最初からになってしまうようだ。つまり、撃つには最低でも2秒、無防備にならざるを得ず、一瞬で勝負がついてしまうような場面では使用できない。

 だが、今はキリエが援護してくれるだろうし、大丈夫だろう。


 そんな私に無言で答えるかのように、キリエは聖剣を抜くと、『斬撃波』を放つ。

 どうやらキリエも『斬撃波』が使えるようだ。

 放たれた刃は、『炎弾幕』を放っているキュウビに命中し、一瞬だが、その炎を揺らめかせる。

 その間に装填が完了した聖刻弾がキュウビを貫く。

 背中から頭まで貫通したその弾丸は、キュウビを文字通り“内側から”吹き飛ばす。

 我ながら恐ろしい威力だ…そしてなんとおぞましい光景だ…


 とりあえず私はそこに居た人たちに駆け寄って「大丈夫ですか?」と尋ねる。

 幸い、怪我人はいないようだ。

「君たちはは…一体何者なんだ…」

 と、リーダーのような人が問いかけてくる。

 なんて答えたら良いのか分からなかったので、とりあえず

「冒険者のツボミです。」

 と答えておいた。キリエも便乗して「…キリエ」って答えてた。

「まさか…未開の砂漠を2人で踏破したのか…?」

 と、驚いた顔で再び問うおじさん。そりゃ中央部から来ればそう思われるか。

 でも踏破になるのかな…?ボスはアルじぃなんだろうけど…私が倒したのはキリエだしなぁ…

 

 私はとりあえずあったことを正直に説明する。

 おじさんは話を聞いている内にだんだん引きつった顔になっていった。

「冗談だろう?バフォメットやキュウビを単騎で討伐し、更には堕天したワルキューレまで?信じがたい…だが、先ほどのキュウビを一撃で葬った攻撃を見れば、信じる気にもなってくる。君は数少ないSSランク冒険者の名簿にも載っていないし…本当に何者なんだ…?」

 私はとりあえずギルドカードを差し出す。

「Cランクゥ!?何故…!?ええ!?Cランクゥ!?」

 なんか目の前のおじさんが壊れ始めたので「先日登録したばかりなんですよ」といっておく。

「よし。未開の砂漠初踏破の功績を認めて、アシトラに戻ったらSSランクまで君を上げよう。そっちのワルキューレさんもだ。私のギルマス権限でどうにかするさ。」

 と、色々吹っ切れたおじさんが言う。どうやらギルドマスターだったらしい。

「ありがとうございます」と言っておく。



 そのままアシトラへと戻った私たちは、ギルドマスターのフィリップさんの部屋にいた。

 ギルドカードの受け渡しと、未開の砂漠の深部について詳しく聞きたいと言うことだった。

 ちなみに、雲で分からなかったが、外に出ると朝だった。体感では二日くらいダンジョンに居たのだろうか。

 そのことをフィリップさんに伝えると、

「二日ァ!?もうここまでくると頭おかしいんじゃ無いか疑うぞ…いや、単騎踏破した時点でかなり狂ってるみたいだから今更か。もういいや」

 と、なんとなく諦めた感じになっていた。


 私達はSSランクと書かれた黒いギルドカードを受け取って、色々話をした後、今日中にモーラウッドに戻りたい旨を伝えてギルドを出た。

 セリアさんを訪ねるのは、出来るだけ速いほうが良いだろう。

 キリエのためだ。急ごう。

 ちなみに今日中にモーラに行くと伝えると、

「…私…そんなに速く走れない…ツボミは出来るの?」

 としょぼん顔できいてきたので、とりあえず背中に乗せて走っていこう。


 そんなこんなで、私たちはあっさりとアシトラを後にした。

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