行き先が決まった
この翼、どう見ても飛べそうな構造してないんだけど、飛べるのかな…。
もうどっちかって言うと、攻撃用と言っても過言では無いくらい鋭いんだが…。
……ううむ、バサバサしてみたが、どうあがいても無理そうだな。これ。
すっぱり諦めるか。
それにしても、見た目も中身も攻撃的過ぎやしないかな…
そんなことよりも、だ。
私がこの世界に無理矢理飛ばされた理由はなんだったのだろうか。
まさか愉悦だろうか。確かに私のような善良な女子高生をこんな姿にして放り投げているわけだし、その説は現実味はあるな…
……そんなことは考えても仕方ないな。それより私はこれから何をすべきだろうか。
だが、私の思考を阻むかの如く、急に轟音が鳴り響き、それと共に目前で土煙が立ち昇った。
その周囲の地面は、まるで隕石でも衝突したかのように、小規模なクレーターが生まれ、その衝撃の大きさを表していた。
短い間に唐突なことが重なりすぎて、この程度ではあまり驚かなくなっていた私は、その場所を観察してみる。
しばらくすると、土煙の中に、人の形をしたシルエットが浮かび上がった。
そのシルエットは、なにやら私の方を向いて座り込み、頭を地面につけて、こう叫んだ。
「申し訳ありませんでしたッ!」
………絶句。
何も言えない。言ってはならない気までしてきた。
全く、一体何だと言うんだ。
土埃が晴れると、そこには青い髪の女の子が土下座していた。 そして、少女の背中には白い羽が。
インパクトが凄い。クレーターのド真ん中で土下座する天使。新聞の一面でも飾れそうだ。都市伝説になるようなクオリティである。
その天使は、頭を上げること無く土下座のまま話し始める。
「アホな上司が失礼を致しました。本来であれば、2時間程度かけてお伝えすることを全キャンセルし、尚且つ貴方の話もよく聞かずに…」
なんとなく察した。つまりあの女神の部下で、尻ぬぐい、もとい私の救済に来たと。
助かった…。ちょうど今、二日目にして軽く積んでいた気がしてたんだ。
「全く問題は無いけど、ちゃんと説明は貰えるの?」
私の問いかけに対して天使ちゃんは「もちろんです」とうなずくと、話を始める。
「まず私たちの仕事についてですが、簡単に言えば死者の転生を行っているのです。 勿論ですが、すべての人を、という訳ではありません。 死者は死亡時に魂となりますが、ほとんどの場合はその形状が崩れ落ち、生前のことを完全に忘却してしまいます。 ですが、希に、死亡時に偶然性格や記憶などを保ったままの魂が存在するのです。そういった魂ならば、再びその人格を保ったまま別の世界へと送ることが出来ます。そしてあなたもその一人だったというわけですね」
ふーむ。分かったような、分かんないような……いや、分かんないんだけども。
「そして、そういった方には、強大な力を与える代わりに、問題が発生している世界へと生まれ変わってもらい、私たちに変わってそれを解決してもらおう。というのが私どもの仕事なんです。 流石に我々が干渉すると世界のバランスが崩れてしまいますからね」
つまりこの世界は問題が発生していて、私はそれを解決しなければいけないわけだ。よーく分かったよ。
「で、私に解決して貰いたい問題って言うのは?」
「ええ。実は、この世界では人間と魔物が対立をしていまして、近いうちにその両者間で戦争が起きそうなので、世界が耐えきれずに崩壊する前に、それをなんとかして欲しいんですよ」
はぁ?と、声に出そうになったが、なんとかこらえる。
「世界が崩壊するって、具体性がなさ過ぎてよく分かんないんだけど…」
「そのままの意味で受け取ってもらってかまいませんよ。 圧倒的な力がぶつかり合い続ければ、その世界にも影響が出ます。 そして、最終的には、天変地異が発生し、大地が裂け、世界が崩壊する。そんな状況になります。そんなわけで、貴方にはどんな形でも良いので、戦争を早めに終わらせて欲しいのです。 魔物側に付いても、人間側に付いても、またその両方を滅ぼしても、未然に防いでもいいので、とにかく早めに終わらせて欲しいんです。 具体的には、総戦力がぶつかり合ってから3ヶ月もすれば世界は確実に終わりますね」
物騒だなぁ…なんてこった…
私が色々考えていると、天使ちゃんが続けて話し始める。
「次は貴方自身の能力について説明させてください。と言っても、私も知らないので、見ながらになりますが」
おお!待ってました!
「まずはステータスを見てみましょう。『ステータス』と、念じてみて下さい」
言われたとおりにしてみる。 すると、私の目の前に、四角い電子パネルのような物が現れた。
――――ステータス――――
〔 名前 〕 ツボミ・キノシタ
〔 分類 〕 魔獣マンティコア LV1
〔 体力 〕 4000
〔 攻撃力 〕 6500
〔 耐久力 〕 6000
〔 素早さ 〕 5000
〔 魔力 〕 4000
スキル
〔固有〕・生物図鑑 ・魔眼
・変身 ・インベントリ
〔分類〕・獄炎 ・飛行 ・毒尾
・翼撃 ・爪撃
・火属性魔法+ ・闇属性魔法+
・硬化魔法+ ・闘気覚醒
――――――――――――――
ふむ。基準が分からんからどんなもんなのか分からんな…。
色々見ていると、横から覗き込んでいた天使ちゃんが口を開く。
「試しに何か使ってみましょうか。 …『魔眼』が良いですかね。 スキルは念じれば発動しますし、魔法系はイメージが重要になってきますよ」
・生物図鑑『倒した生物のスキルを得られる』
・魔眼『何でも解説する』
・インベントリ『物体を保管できる空間』
・ 変身『人型の魔物になる』
おお。凄い。頭の中に解説が流れてくるよ。コレは便利だな。ってか、だいたい全部便利そうだ。色々使えそうだな。
個人的には『変身』が気になっている。
人型になれるんだろ?今より動きやすそうじゃ無いか。
でも魔物なんだね。どうあがいても人間にはなれないのか…
残念そうな顔をしている私を放置して、天使ちゃんが追加の解説を始める。
「固有スキルと言うのは、その個体しか持っていないスキルですね。被ることはありますが、基本的にオリジナルだと思って良いでしょう。 そして、分類スキルは種族毎の、この場合はマンティコアのスキルです。 他のは一般スキルですね。」
ふむ。なるほどな。
そんなことより、今は変身を使ってみたいぞ。
「今、『変身』って使っても大丈夫?」
「かまいませんが、たぶん全裸なので、魔物の町なんかで服を作ってもらってからの方が良いと思いますよ? 世界の危機とは言っても数年後に起こる話ですから。 そんなに急がなくても大丈夫です。」
滅茶苦茶恥ずかしい。 危うく野外で全裸晒す所だったな。
でも時間があるなら、魔物側も、人間側も、様子を見ておいた方が良いかもね。
とりあえず、行き先は決まった。
この後は魔物の町へ行って服の確保、それからはお楽しみの『変身』だね。
……まぁそうは言っても場所すら分からないんだが。
「魔物の町はどこにある?」
「左手に見える山脈を越えると、そのあたりは魔物領ですね。 右手の山脈の向こうは人間領です。 そして、このあたりは中立地帯になっているみたいですね。 人間も魔物も居ないみたいですよ?」
山脈2つと平野を挟むとか、本当に仲が悪いんだなぁ。 じゃあ鹿モドキは何だったんだろうか。
「さっきここで四本角の鹿みたいなのを見たんだけど、アレは魔物じゃ無いの?」
「多分モンスターでしょうね。 モンスターは魔物とは違って、高度な知能を持たないため、いろんな所にいますよ。 基本的には相手を気にせずに襲いかかるため、人間からも魔物からも敵視されているんですが、素材や食料にもなるので家畜なんかになっているモンスターも結構居るんです。 他にもモンスターの素材は色々なことに使えるようで、重宝されているとか。」
なるほどね。どこかの女神とは違ってかなりわかりやすい説明だ。 いや、あいつはそもそも説明すらしていなかったな。
では場所も聞いたし魔物領へ向かおうかな。
「色々とありがとう。本当に助かったよ。私はこれから魔物領に向かう」
「いえいえ、こちらこそ、女神が失礼を致しました。この世界のこと、どうかお願いしますね。 あ、それと、魔物領へ向かうなら、レベルアップや生物図鑑のスキル獲得、素材集めなんかもかねてモンスターを倒しながら行くと良いですよ」
……最後まで優しいな。ぬくもり。
スキルの確認なんかもしたいし、色々やりながら行こう。それがいいね。