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魔物で始まる異世界ライフ  作者: 鳥野 肉巻
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キリエ



「おーい、起きるんじゃ。大丈夫かー?」


 その声で意識が引き戻される。 砂の大地に仰向けに寝転んだ私の顔を覗き込んでいたのは、一人の老人だった。


「おお、やっと起きたか。二人とも同時に倒れたからの。ちとびっくりしたぞ」


 ただならぬ風格を纏った老人は私の返答を待たずに続ける。


「それにしても良くウチの子を倒したものじゃ。日が暮れ次第、ワシも加勢しようかと思ったのじゃが、どうやら必要なかったようじゃな」


 声と口調からするに恐らくアルじぃなんだろう。実際はこんな感じの姿だったようだ。


「上を見上げているならもう気づいているじゃろうが、雲が元に戻ったんじゃよ。恐らくこのダンジョンがあの子に何らかの反応を示し、ダンジョン内の強化と共に、目に見える形として中央の雲を晴らしたんじゃろうな」


 ……言われてからやっと気がついたが、差し込んでいた日差しは既に黒い雲に遮られていた。



 未だにフラついている体を無理矢理起き上がらせ、倒れ込む彼女の元へと足を進める。


 天使のような造形の少女は、私が近づくのと同時程度のタイミングでその目をゆっくりと開いた。


「大丈夫?」


 少女は、起き上がると、いきなり私に抱きついてきた。戸惑う私の胸の中で、その少女は口を開く。


「……ありがとう。……私にも…殺せないモノがあるって……バケモノじゃないって……証明してくれて……うれしかった。……はじめて会ったのに…隣を歩くって言ってくれて……嬉しかった。……何で…こんな私を…助けてくれた…の…?」


「まぁ、なんだ。似てたから、かな?昔の私にね。 それよりも、直接的には何にも変わってない気がするんだけど…。我ながらかなりヤケクソだった気もするし…」


「………そんなこと無い。…つぼ…み?……は…私にまた立ち上がる勇気を…くれたから……やり直す覚悟を…くれたから……。……だから私は……ツボミに…救われた…。」


「今、私の名前を…?」


「……ん…。……キリエ。……私の名前。……そう呼んで…欲しい…。」




 名前を呼んでくれる位には信頼して貰えたのかなぁ、と思うと、私もだいぶほっこりしてきたので、キリエを抱きしめ返す。すると、キリエはそのまま不思議そうに私を上目遣いで見上げた。 あ゛~。可愛い。私が男なら間違いなく襲ってたね。断言できる。


「さてさて、お姫様を助けたお礼をくれても良いんだよ?」


 私はいつかの雫のように、ふざけて言った。


 だが私は、帰ってきた言葉に度肝を抜かれる事になった。


「……なら……私を…ツボミの眷属にして欲しい…」


 眷属…?なんだそれ…。


 困った顔をしているのが伝わったのか、キリエは続けて話し出す。


「……眷属…しらない…?……自分が認めたひとに…従うの…ワルキューレの掟……」


 まぁ当然だけど初耳だ。しかし、こんな子が一緒に来てくれるなら嬉しい事この上ない。


「じゃあそうして貰うよ。私としても大歓迎だ」


「……ん…。……私も…うれしい…。……ツボミ…すき……」



 グハァッ。コレはマズい……ド直球な好意はチート過ぎるッッ…!


 ニヤニヤデレデレした顔の私にアルじぃが冷たい目線を向けたので、多少目線を逸らし、誤魔化すように言葉を放つ。


「地の果てまででも連れて行くからね?」


「……ツボミの隣が…私の居場所…。……ずっと…いっしょ……」


 キリエは座ったまま背伸びをすると、私の額に自分の額を重ねた。 同時に現れた光が私たちを包み込み、すぐに消えてゆく。



【眷属が登録されました。生物図鑑により、眷属のスキルを使用できます】



 いきなり額をごっちんされて、萌え死にそうになっていた私は、その強靱な精神力でなんとか我を取り戻す。


 そして、立ち上がると、アルじぃに振り返った。


「さて、娘さんを助けたお礼をしてくれても良いんですよ?」


 純度100%の照れ隠しだが、アルじぃはまんざらでも無いらしく、仕方が無いのぅ、と言いながら砂の地面に手をかざした。 地面が盛り上がり、砂の中からから二つの超豪華な箱が顔を出す。


「片方はダンジョン初踏破報酬じゃ。もう片方はお礼じゃよ」


 再びアルじぃが手をかざすと、箱が開き、中身が浮かび上がってくる。 片方は石ころ。もう片方は綺麗な装飾の施されたロングソードだった。


「そっちは此処への往復可能転移石じゃ。いつでもワシを頼ってくれて構わんぞ。 もう片方は初踏破報酬の【聖剣リゲインハート】じゃ。もの凄く強いぞ。多分」


 見るからに大きく、重そうな剣だ。確かに強そうではあるが、私は速攻型のワンパン型。これを振り回しながら戦うのには無理がある。


 だが、もう片方はかなり素晴らしい。いつでもアルじぃの力を借りられる訳だ。 こんなダンジョンを作り上げる程の力を持った人が見方なんて心強すぎる。



「なぁ、ツボミと言ったか、お主がキリエを連れて行くのは全く問題ないんじゃが、ついでに腹の奴隷紋を解除してやってくれんか。ワシの知り合いにそう言った物に詳しい奴がおるんじゃよ。確か今はモーラウッドで服屋をやっとるはずじゃ。名前はセリア。数少ないサキュバスじゃから、すぐ分かるじゃろ」


 …なん…だと…?セリアさんが…?アルじぃと知り合いだと…? セリアさん一体何者なんだ…。世間は狭すぎる…。


「あぁ、それとな。さっきからお主の通ってきた方角に集団の気配を感じるぞ。お主の通った後じゃから、ボスには遭遇しておらんようじゃがな」


 私の後を着いてくる集団…? 全く心当たりが無いぞ……。




キリエちゃんの名前にはいろいろな意味が籠もっています。

・神話上のワルキューレ「ミスト」から。

 ミスト→霧→キリエ

・「主よ」という意味の「キリエ」という言葉から。

・桐の花言葉は「高尚」

まぁただ色々もじっただけの名前ですが、作者は気に入ってます。


ちなみに砕けた髪飾りの「ラベンダー」ですが、その花言葉は「沈黙」「私に答えてください」「期待」「不信感」「疑惑」です。堕天したキリエにぴったりだなぁと思いました。

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