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魔物で始まる異世界ライフ  作者: 鳥野 肉巻
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黒い剣


「私が、必ず救い出してみせます」


 私は覚悟を決めてそう言った。 それを聞いたアルじぃは嬉しそうな顔になる。やはり、アルじぃは育ての親でもあるわけだし、心配だったんだろう。


 だが、アルじぃの顔が急に曇る。


「そうはいったんじゃが、彼女、実は堕天しかけててのぉ、「魔装」が常時発動状態なんじゃよなぁ…」


 ワルキューレには堕天と言う物がある。 心に深い闇を抱えたとき、光属性であるはずのワルキューレは闇属性へと変化し、緊急時しか使用できないはずの凶悪な「魔装」が解放されるのだ。


 そして、「魔装」の力は凄まじく、通常時の「神装」よりも遙かに強力である。



「それでも。私は絶対に助け出します。私が過去にそうされたように。暗い闇から強引にでも引きずり出します」


 私の覚悟は揺るがない。 そんな私に何かを感じ取ったように、アルじぃは「ちょっとまっとれ」と言う。



 数分後、砂の中から一つの箱が出てきた。


「お主にそれをやろう。古の時代の遺産じゃ。お主ならばきっと使いこなせる」


 箱を開けてみる。 しっかりとした箱で、砂の侵入を許してはいないようだ。


 そこには布に包まった何かがある。



 布を取ってみると、そこにあったのは一丁の少し大きなハンドガンのような物だった。


 灰色の石のような色をしている。だが、不思議な、神秘的な感じをどことなく漂わせているのが分かる。


「それは魔銃と言ってな。なんと魔力を弾丸にして発射するアーティファクトなんじゃ。しかも杖のような効果もあってな。魔法の威力を増加してくれたり、他にも色々出来る優れものなのじゃ!」


「そんな凄い物頂いて良いんですか?」


「いいんじゃよ。ワシには扱いこなせんしな。これは使用者の魔法の腕によって強さが変わってくる。お主なら大丈夫じゃ」


 そっと手に取ってみたその瞬間、手の中の魔銃が光を放つ。咄嗟に目をつむらなければならないほどの激しい光だった。 そして、手の中の銃が不思議と馴染んでいくのを感じた。



 光が晴れて、手の中の銃を見やると、それはさっきまでの物とは違っていた。 黒を基調として赤と金の装飾が施されている。


「おお、まさかとは思ったが、お主、アーティファクトに認められるとはな…」


 アルじぃは不思議な目で私を見つめている。 とりあえず魔眼使って見ようか。


【カースオブキング】

 主を見つけ、覚醒した古代の武器。

 マンティコアの加護を受けた事で、不壊属性を得、手入れも必要なくなった。

 所有者に呼応し、性能が増していく。

 魔法の補助や、魔法をそのまま打ち出すことも可能。


 持ち主:ツボミ・キノシタ


 使用可能弾

 ・ノーマルバレット:平凡な性能。連射性に優れる。

 ・ショックバレット:気絶効果を持つ弾。

 ・シャインバレット:閃光弾。威力は無い。

 

 ・フレイムバレット:火属性の弾。

 ・シャドウバレット:闇属性の弾。

 ・ホーリーバレット:光属性の弾。



 凄いな…。ってかちゃっかりマンティコアの加護受けてるね。


 「カースオブキング」かぁ。 私の「グレイスオブクイーン」とセットで王と女王が揃っちゃったな…。


 弾は私の使える魔法と連動してるみたい。 でも、それ以外の弾もあるみたいだね。



 試し打ちした方が良いかな。反動とかも把握しておいた方が良い。 と言うか、機構が無いんだけどどうやってリロードするんだこれ…。


 魔力込めてもあんまり何も感じないしどうなってんだ?



―数分後―


 やっと分かった。魔力込めながら引き金。 これでノーマルバレットが出る。


 で、魔法使うときと同じ感覚で使いたい弾をイメージすると、それに切り替わる感じ。 反動はほぼ無いに等しい。


 なぜか火薬を使っていないのに射撃音はしっかりする。 実銃に例えるなら射撃音はデザートイーグルで、反動はエアガンかな。


 連射性能もチェックしないとね。


 

―更に数分後―


 ・ショックバレット:連射間隔はほぼ無し。12発毎にリロード

 ・シャインバレット:5秒に一発。一発毎にリロード

 ・属性弾:連射間隔はほぼ無し。6発毎にリロード


 ・ノーマルバレット:未知数。



 超疲れた…。


 どうやら例外を除いて、魔力の流しっぱなしでは駄目らしく、数発毎に魔力を込め直さないといけないみたい。


 その例外はノーマルバレット。


 この弾だけはヤバかった。連射間隔は、「通常時」においてほぼ無し。なんだけど、ノーマルバレットだけは、『闘気覚醒』を使っても連射の底が見えなかった。しかも流しっぱなしでリロードいらず。


 ハンドガンの見た目で、反動の無いマシンガンを撃ってる気分だった。



 弾速は普通の銃と変わらないね。 いやぁ、良い物を手に入れてしまった。



 と言うか今考えると、ワルキューレちゃん助けるためにこれをくれたって事は肉体言語を使えって事なんだね…。


 もうそうでもしないといけないレベルまで行ってるって事なのかな。 ……絶対、私が助けるから。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 助けるとは言ったものの、一体何からすれば良いんだろうか。


 出来るだけ温和にいきたいよね…。 肉体言語は最終手段で。


「今更じゃが、無理だと思ったら引き返すんじゃぞ。このダンジョンを作ったとき、踏破可能目安をSSランク100人に設定したワシが言うのもなんじゃが、今のあの子は「魔装」をフルに使える状態じゃ。あの子の意思にかかわらず、本気で殺しに来るじゃろう。気をつけるんじゃ」


 アルじぃがそう声をかけてくれた。 この鬼畜じいさんめ…。 ってか単純に考えるならアルじぃもSSランク100人相手に出来る位強いのか…。


 確かSSランクは伝説レベルの強さを持つとギルドで聞いたなぁ。 そんなじいさんが勝てない相手に私は勝てるんだろうか。 うん。戦闘は最終手段にしよう。



 小屋に近づくと、後ろではアルじぃが「ウチの子をよろしく頼む」とか言っているのが聞こえた。


 私が小屋の入り口の扉に手をかけたときだった。


「…近づかないで…私は…もう誰も傷つけたくない…」


 か細い声が聞こえてきた。



 どうやって私の接近を知ったのかは置いておくが、相当に精神が疲弊しているらしい。かなり自分を追い込んでいるようだ。


 私は覚悟をより強固なものにして「開けるよ」と言って扉を開けた。



 そこに居たのは、日の当たらない部屋の隅でうずくまっている少女。


 ほんの少し顔を上げて私を見つめていたのは、天使と形容するのが等しい超絶美少女だった。 不謹慎だが、少しやつれた表情が美しさをましているような、そんな気がした。


 髪は黒みがかった白のショート。ラベンダーを模したような髪飾りをつけている。



 だが、その体からは闇属性の魔力が溢れだしており、禍々しいオーラに包まれているようだ。


「…だれ?」


 少女がつぶやく。


「私はツボミ。貴方を助けに来たよ」


 私は雫のように長々とは語れない。 だからこそ、ストレートに身の丈を伝えるのだ。


 少女の深淵を見つめるような目に一瞬光が宿った気がした。



 だが、それは突然だった。 何かが私を襲う。


 咄嗟に横に飛び退くが、頬が薄く切り裂かれ、血が滴ってくる。私の足下には数本の白銀の毛がはらりと落ちている。


 黒い剣。それは禍々しいオーラを放ちながら宙に浮いていた。 少女が「ひっ」と声を上げ、再び絶望に満ちた目に変わる。


「……駄目…逃げて…」


 少女は引きつったような声で告げる。が、その剣は再び私に矛先を向けた。


「…嫌……嫌ぁぁぁぁっ!」


 少女の悲鳴と共に、その剣は再び私に襲いかかる。 速い。今まで見た攻撃とは比べものにならない速度だ。だが、


「この私が、一度見た攻撃をそう易々と食らってたまるかッ!」


 私はそう叫んでグレイスオブクイーンを抜刀。更にマンティコアの加護の影響で魔法の発動が速くなっているのを利用し、『超化装甲』を発動すると、飛んでくる剣を受け止める。



 ガチィィン!と、金属のぶつかる音がする。


 流石は私の反射神経と動体視力。高速で飛んでくる剣の真横を捕らえてまっすぐにグレイスオブクイーンを振り下ろす。 黒い剣は跳ね飛ばされて、そのまま小屋の壁に突き刺さった。



 少女は動揺を隠せないようだった。


 それもそのはず。 一切の抵抗を許さずに大量虐殺を行ったその黒い剣を、目の前の人物は無傷で撥ねのけたのだから。


 が、再び少女は絶望することとなる。 それは私が心からヤバイと感じるのと同時だった。


 少女の周りに出現したのは六本の黒い武器。


 大剣や斧、更には鎌まで含まれたそこに先ほどの黒い剣が加わり、七本の黒い武器が彼女の周りを取り囲む。


 円を描くように集まったその武器は彼女を中心に回転を始めた。 そして、そこへ濃密な闇の魔力が集まってゆく。


 本能がマズいと警鐘を鳴らしているような感覚を覚えた私はすぐさまマンティコアの姿へと変身する。


 更に『防壁』と『超化装甲』、『不動』をフルパワーで発動。 それに加えて『武具作成』と『傀儡ノ糸』の合わせ技で厚く固めた砂の防壁を築いた。



 私が最大の防御態勢を整えたとき、彼女に集まった魔力が弾けた。 それは周囲を暴力的に滅ぼす波動となり、放たれる。


 私は加えて体から魔力を放出し、その魔力の波動に備えた。


 視界を黒みがかった白へと染め上げるそれは、私の化け物ステータスでなんとか受けきる事は出来たものの、私に決して少なくないダメージを残す。


 激しい衝撃に「うっ」と私の口からうめき声が漏れた。



 周囲を焼き尽くすような黒い光が収まったとき、小屋は跡形も亡くなっていた。


 そこに居たのは七つの武器を従え、黒いオーラを放ちながら宙に浮かんでいる彼女だった。 七つの武器は先ほどとは異なり、それぞれが邪悪なオーラを放っている。


 それは「魔装」が目覚めたことを意味していた。



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