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魔物で始まる異世界ライフ  作者: 鳥野 肉巻
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1人のワルキューレの話


 てっきり雲の晴れた大地に入った瞬間にボスが来ると思っていたが、そんなことは無いらしく、全く何も起きない。


 中央部には何も無いのか?


 だが、それは私が油断しかけた所に、唐突に現れた。


「良く来たのぉ。ここまでやってきたのはお主で二人目じゃ」


 私が戸惑っていると、再び足元から声が響く


「いやぁ。すまんのぉ。ワシがこのダンジョンのヌシなんじゃが、ちょっと事情があって出て行けないんじゃよ」


 ヌシ…?って事はこの人(?)がラスボスなのか。 しかし、出てこれないらしいぞ。


「お主、単身でここまでたどり着くとは、なかなかのの規格外と見える。 お主ならばもしかしたらあやつを救えるかもしれん」


 ……さすがに理解が追いつかない。 しかし、声の主は私が問うよりも早く、再び声を上げた。


「おお、すまんのぉ。そうじゃった。ワシは死霊龍のアルフと言うんじゃ。アルじぃと呼んでくれてかまわんぞ」


「はぁ、それでアルじぃは今何をしてるんですか?」


「今は砂の中じゃ。ここは日が差してるせいで出て行けないんじゃよ。 ワシは日の光に弱いんじゃ。ゾンビじゃからな」


 ……どうやらアルじぃは出てこれないみたいだ。


「それで、さっき言ってたのは何の話ですか?」


「あぁ。じつはな。十年前にここに来てからずっとあの小屋に引きこもって居るワシの家族がいるんじゃ」


 そう言ってアルじぃは話してくれた。


 まとめると、あの小屋に引きこもって居るのは、小さい頃にアルじぃに拾われた捨て子らしい。


 その子の種族はワルキューレ。 戦神の使いと呼ばれる事もあるほどの種族で、アルじぃはもうその子には勝てないって言ってた。


 引きこもった原因だけを言うなら「心の傷」と「トラウマ」なんだとか。


 正直、かなり重い話だった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 そのワルキューレの娘はあるとき、人間領へと向かった。


 彼女は人間との調和を強く望んでおり、人間の国を見たかった。勿論、魔物に対して友好的な国に赴き、尚且つ魔物であることを隠して行ったのだ。


 魔人やワルキューレなんかは基本的に人間と同じような外見をしており、外見上の判断は至難の業だと言われている。


 そのため、人間の国で暮らしている魔人は結構居るらしい。 彼女はそう言った人々に会いに行ったんだとか。


 だが、ワルキューレという希少種族は、単体で破格の戦力を保持しており、やっぱりそう言った者を利用しようとする輩は少なからずいるわけで、彼女はそう言った連中に目をつけられていたらしい。


 更にワルキューレの弱点として、全く状態異常耐性が無いと言うものがある。 今回はそこを利用されたらしい。



 流れはこうだ。


 まず、彼女が泊まった宿の厨房に忍び込んだ連中が、彼女の食事に強力な麻痺毒を仕込む。


 常人ならば、一舐めで即死と言われる毒だが、強靱なワルキューレはその程度では死なない。


 だが、耐性を持たないワルキューレは、完全に体の機能を奪われてしまう。 その間に連中は彼女をアジトへと連れ去った。


 朦朧とした意識の中だが、彼女は強い絶望感を覚えた事だろう。



 連中の目的は彼女の戦闘能力のみ。 要は逆らわないようにしてしまえば良いのだ。


 そのため使用されたのは「奴隷紋」と呼ばれる術式だ。 それもかなり強力なもので、主人に対する絶対的服従を強要され、反逆も出来なくなる。というものだった。



 だが、連中は知らなかった。 ワルキューレには2種類の武器が存在することを。


 一つは「神装」と呼ばれるもので、ワルキューレが一般に使用する武器がこれに当たる。


 もう一つは「魔装」と呼ばれる。こちらは身の危険が迫った、と本能が察知した時に自動で発動し、本人の意思とは関係なく辺りを攻撃する。というものだ。


 連中が彼女に主人の設定を行おうとした瞬間、「魔装」が発動し、解き放たれた「魔装」は彼女の意思とは関係なく、辺りを蹂躙し始める。


 結果的にはアジト内に居た100人近くの人間が一人残らず死亡した。



 心優しい彼女はその光景を見て、自分がしたことを思うと、かなりの恐怖感に襲われたようだ。


 だが、彼女の心には、あんなに仲良くしようとしていた人間に捕らえられ、酷いことをされそうになったという絶望感があった。


 彼女の心は罪悪感と絶望で擦り切れてしまったのかも知れない。 



 魔物領へと逃げ帰ってから、彼女は「誰も傷つけたくないし傷つけられたくない」と、引きこもってしまっているらしい。


 彼女の腹部にはまだ主人の登録されていない「奴隷紋」が残っている。それが彼女に更なる恐怖感を与えてしまっているのかも知れない。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



「こういうことなんじゃが、お主、彼女をどうにか助けてやれんか?」


 想像以上に重い話で、私は複雑な気分になってしまった。


 これは酷いな…人間というのは私欲のためにここまでするのか。 私は彼女の力になりたいと心から思ってしまった。



 私が中学生だった時もそうだった。


 学校にもカースト制度のようなものは存在し、上位の輩は私のような地味な子を見下し、まるで自分が神になったかのように誹謗中傷の言葉を吐き散らす。


 私たちからしてみれば、あんなに派手に遊び回るくらいなら大人しくゲームしていたい。といった思いはあるが、そんなものは雑音にかき消されてしまうのだ。


 結局人間というものは自分が強者だと思うと傲慢になるのだ。 自分が勝手に弱者と決めつけた者を見下し、淘汰し、奪い取る。


 自己中心的で身勝手な愚者はどの世界にも存在するんだ。


 私は彼女の力になりたい。 私も彼女も、愚者によって踏みにじられたのは同じなのだから。



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