優雅なる狐
さて、早速バフォメットのドロップ品を漁るとしよう。まずは宝箱からだ。
【悪魔の布】
服や防具などの素材。
優秀な耐性を持つ。
見た目はただの黒っぽい布だ…。何でバフォメットがこんな物落とすんだろう…。 ついでに宝石のいっぱいついた宝箱自体も貰っとくか。
次は通常ドロップ品。
・バフォメットの巻き角
・バフォメットの鉈×2
こんな鉈どうしろと…。 巨人でもなきゃ、こんなの扱えないぞ…。
回収し終えて先に進もうかと思った所で、私は周囲の異変に気づいた。何か様子がおかしい。前方に全く敵が見えない。
更に言えば、中心部だと思われる所だけ雲が晴れて、日の光が差し込んでいる。 凄く神々しい光景だ。まさかこんなところでこんなに綺麗なものが見れると思わなかった。
違和感を感じながら一歩踏み出すと、私の周りをふたたび壁が取り囲む。 なるほど。ボスラッシュって奴か。 今回はあまり疲れていないし、次の敵もマンティコア無双で行こう。
光と共に現れたのは大きな狐。ただしその尻尾は9本に分かれ、それぞれが炎を纏っている。
【キュウビ】
SSランク。幻術と炎を操る。
闇と炎に絶大な耐性を持つ。
ついにSSランクか…。今までの敵とは全く対峙した感覚が違う。見とれてしまうほど優雅で美しい立ち振る舞いは真の強者のそれだ。
最初から本気で行こう……と言いたい所なんだけど、炎と闇が効かない…?
マンティコアのスキルって炎と闇以外だとそんなに無かった気が…。 たしか、『爪撃』『翼撃』『毒尾』『傀儡ノ糸』位だったと思うぞ。
詰んだかな?とりあえず牽制しながら考えるか。
ここは以前、ひっそりと練習したことのあった『傀儡ノ糸』を使おう。
これは単体で使えるスキルでは無く、まずは地面に『武具作成』を使う。 それによって地面の土や砂を武器のように固めるのだ。
今回は砂で杭状のものを10本程度造り、今度はそれに『傀儡ノ糸』を使用する。
すると、その杭は浮かび上がる。それを弓のように引き絞って打ち出すと言う訳だ。
一見手間がかかるように見えるが、慣れてしまえば多分簡単になってくるだろう。
2本くらい当たってくれることを期待して、10本同時に発射するが、キュウビは杭を全く避けようとしない。
その不可解な行動に少々困惑はしたが、まぁ、結論から言えば、杭はキュウビに届かなかった。
キュウビの手前で杭が炎に包まれ、ドロリと溶け落ちたのだ。
体当たりでも仕掛けていたら私があの杭のようになっていたのだろうか、と思うと、私の背筋を冷たい物が通り抜けていった。
溶け落ちた杭の向こうで、キュウビは全く微動だにせず、じっと私を見つめていた。
吸い込まれそうになるほど美しいその瞳が一瞬輝く。 それに呼応するようにキュウビの前に現れたのは幻想的に揺らめく青い炎。
その炎はゆっくりと降下し、地面に落ちてゆく。
瞬間。地面は美しく輝く、青い炎の海へと変化した。
なんとか間一髪で飛んで避けることが出来たが、私は次に見る光景に驚愕する事になった。
無数の青い炎がキュウビの周りを取り囲んでいた。 その炎は一斉に動き出し、私に向かって飛んでくる。
シューティングゲームも真っ青な量の炎だ。 私のマンティコアの体が大きいことも相まって避けることは不可能。
私はその炎の猛攻を受け、地面に落とされてしまう。 皮膚が熱い。あの量の炎を受けたのだ。当然だろう。
地面の炎は消えていたが、残っていたら今頃焼け死んでいたかもしれない。
だが気づいたことがある。キュウビの尻尾の先の炎が橙から青へと変化しているのだ。
直感を信じてふたたび『傀儡ノ糸』で10本の杭を打ち出すが、その間にも私に向かって青い炎は飛んできている。 そしてその一つ一つが私に激しい痛みとダメージを残していった。
杭は先ほどのようにキュウビに向かって飛んでゆき、目前で消滅するかに見えた。 だが、キュウビは先程とは違って、その身を翻し、杭を避けた。
そして尻尾の炎はふたたび橙へと変化し、飛んできていた炎はいつの間にか消えている。
キュウビは再び、だが今回は身構えるように私を見つめていた。
おそらく私の予想通り。
キュウビは、尻尾の炎が橙の時は身構え、遠距離攻撃や近づくものを焼き尽くすのだろう。 そして青の時は激しい猛攻をしてくるんだと思う。
ただし、それぞれには弱点があることが分かった。 橙の時は攻撃出来ず、青の時は防御が出来ない。今の動きを見ている限りそうだと思う。
私が勝つためにはどうすれば良いか。 今の動きを見た感じでは遠距離攻撃は有効ではなさそうだ。
ならば。 尻尾の炎が青いときに近づいて、そのまま有無を言わせず近距離で倒す。これしか方法が無いだろう。
橙に近づいて焼け死ぬのだけは嫌だからね。 しっかりタイミングを見計らないと。
キュウビは私が攻撃してこないと見ると、尻尾を再び青く燃やし、炎の弾幕を放ってくる。
これの攻略法は一つ。
素早く魔人に変身して、当たり判定を小さくしてしまえば避けられる! 私にはゲームで鍛えた動体視力に加えて、伝家の宝刀『闘気覚醒』がある! 万が一など、無い!!
魔人に切り替わった私は、襲いかかる炎に向かって、脇目も振らずに突進した。
この程度、鬼畜弾幕ゲーの最高難易度に比べればどうと言うことはない。
たまに頬や髪なんかを炎がかすってヒヤッとすることはあったが、結局当たらなければ死なないのだ。全くもって問題ない。
そして、ある程度近づいた時に『闘気覚醒』を発動する。
この状態ならば炎など止まっているも同然。
走りながらグレイスオブクイーンに全力を集中させ、そのままの勢いで懐に潜り込む。
そして私がキュウビにギリギリまで接近した瞬間、渦を巻く青白い光が刃となり、溢れた魔力が目に見えるほど濃く具現化される。 目もくらむほどに輝くその刃は、中腰に溜められた後、一気に斜めに振り上げられた。
私の全力を乗せた一撃は、キュウビの胴体を一刀両断し、光の中で消滅させた。
オエェェェェッ…気持ち悪い…頭がぐわんぐわんする…。
勝者に訪れたのは、激しい脱力感と嘔吐感。そして頭痛。
使う度にこうなるのは痛手だな…。一撃で倒しきれなければ私が死ぬねこれ。
諸刃の剣って奴か…。いや、起死回生の一撃と言うべきか…。
【生物図鑑により、キュウビから『妖炎』『狐火』『炎弾幕』を習得しました】
・妖炎『不可視の炎を纏い、近づく者を焼き尽くす』
・狐火『青白い炎で大地を包む。自分には効果が無い』
・炎弾幕『小炎弾を雨のように放つ』
砂の中に倒れ込んだ私は、顔だけ動かして周囲を確認する。
私の目前にあるのはドロップ品と二つの宝箱、そして日の光が差し込む大地だった。