異世界に降り立つ
眩い光が晴れた後、目の前には森が広がっていた。
見覚えのある植物もあれば、全く見たことが無いような植物もある。
本当に異世界に来たのか…
私は足下の地面を踏みしめるように確認する。
四本足で。
……一体どうしてこうなった。
辺りを見渡すと、小さな湖のような場所があったので、そこまで行って自分の姿を確認してみるとしよう。
4足歩行は歩きにくい事この上ないが、なんとか湖までたどり着いて覗き込む。
そこに写った私の姿は、原型はどこに行ったんだよと言いたいほどに変わり果てていた。
ライオンのような顔、鋭い牙と爪、背中に生える黒い翼、サソリのような尻尾。そして白銀の毛並み。
マジでゲームに出てくるような魔物なのか。
そういえばマンティコアがどうとか言っていたな。 …ちょっとキメラと混ざってる気もするが気にしない方が良さそうだな。
伝承なんかは地域で異なってくる物だし、人面に赤毛という本来の物よりは、ゲームに出てくるような凶暴な奴に近いんだろう。
そういえば翼があるな…。
飛べるかどうかも後々試してみることにしよう。
それよりも四本足とか尻尾とかに慣れるのが先だ。
体の重心が人間とは違うようで、しっかり動けるようになるまでは時間がかかりそうである。
まぁそんな感じでいろいろ思うことはあるが、なんだか考える気にもならない。
これが世の男性が口にする賢者タイムってやつなのだろうか…。いや、萎えていると言った方が良いのかも知れないな。
今考えていることはたった一つだけ。
あの女神は絶対許さねぇ…。
何でこんな適当に放り投げるのかなぁ…
私女なのに…もっとなんかあっただろ…
他のことは考える気にもならないが、愚痴ばかりは浮かんでくる。
もう寝よう。洞窟でも探すかな…
私は辺りの散策のために走り出す。
しかし、その瞬間、私の眠気が一気に吹き飛ぶ。
なんたって速い。凄く速い。まるで風にでもなったかのようだ。
更にに私自身の能力もヤバイみたいだ。
森の中なので、猛スピードで走る私の顔には当然のように木がぶつかってくるが、私は全く痛みを感じない。
それどころか、ぶつかってくる木は1本の例外なくポキポキ折れ、はじき飛ばされている。
しばらく探し回った後に、少し離れた場所にあった洞窟を見つけてそこで横になる。
そして私は思った。 確かに異世界で無双はしている。だが…
「コレジャナイ感が凄い」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
おはようございます。異世界2日目の朝だ。
流石にこのまま寝ていてもどうにもならないだろうと思い、外の探索をすることにした。
今寝ていたのは石壁に穴が開いたような小さい横穴で、入り口から真っ直ぐ進むと湖に出るような感じだ。
湖までは、昨日私が木々をなぎ倒したせいで綺麗な道が出来ており、楽に行き来が出来そうである。
マンティコアって凄いな。道の整備や森の開拓も出来るのか。…まぁ皮肉なんだが。
体を動かすことにはまだあまり慣れてはいないが、なんとか湖までやって来る。
湖に近づいた時、私はそこに、何らかの気配がある事に気づいた。
昨日は何も感じなかったが、今は何らかの気配がする。
野生の勘でも鋭くなっているのだろうか。
まぁとにかく茂みに隠れて様子をうかがうとしよう。
そこでは、4本角の鹿みたいなのが6匹の群れで水を飲んでいた。
是非とも仲間に入りたいところだが、この姿で出て行ったら驚かせそうなのでじっと我慢。
私は相当ヤバそうな姿だし、そこそこのサイズがあるが、私の気配には気づかないのだろうか。
それとも、私が鋭いだけだろうか。
いろいろ疑問に思ったことはあるが、鹿モドキがどこかに行ったので私も水を飲むことにしよう。
のどの渇きや空腹感は全くないが、まぁ様式美だ。
……飲んでから思ったが、飲んで大丈夫だったかな? お腹壊したりしないかな?
……それにしてもすることが無いな。 このままのんびりとスローライフを過ごしているだけで良いのだろうか。
そうだな…羽もあるし、ちょっと飛んでみるか。