強敵
【ミノタウロス】
Aランク。凶暴なモンスター。大きな斧で攻撃する。
スキルあり。
目の前に現れたのは巨大な牛のようなモンスター。筋骨隆々な体に大きな斧。血走った目に巨大な角。
………ヤバそうなのが来たな…。
ミノタウロスは大きく「ブモオォォッ!」と雄叫びを上げた後、私に向かって突進してくる。
私の中のミノタウロスは脳筋のイメージ。 この突進をよけると、斧の一撃が来ると見た。
まずは横に飛び退いて避ける。 そして、斧の一撃を読んでグレイスオブクイーンに『超化装甲』をかけ、素早く構えた。
私の予想通り、ミノタウロスは振り向くと同時に斧を高く振り上げたので、両手で横に構えたグレイスオブクイーンで、受け止める準備をする。
ミノタウロスの斧が振り下ろされた瞬間、刃と刃がかち合い、周囲の空気が震える。
ここまでは順調に見えるが、実際はそうではない。 私はミノタウロスのパワーを甘く見ていたのだ。
攻撃を受け止めた私の足は衝撃で軽く地面に食い込み、剣を支える手はじんじんと痺れている。
そして、私が動けなくなった隙を突くかの如く、ミノタウロスは斧を横薙ぎに振り回す。
だが私も、一瞬の隙があったとはいえ、まともに食らうようなヘマはしない。
再びグレイスオブクイーンを両手で構え、今度は体の横で縦に受け止めるが、やはり完全な防御は出来ず、軽くふらついてしまう。
またしても受け止めただけで体がダメージを受けてしまっている。 しかし、私のことなどお構いなしにミノタウロスはふたたび斧を振り下ろした。
防御する度に私の体力は削られていく。このままじゃジリ貧だ…。
『防壁』がどこまでの攻撃をはじけるか分からない以上、いつものように迂闊に使うわけにもいかなく、『闘気覚醒』でも削りきれるか分からない。
最終手段はマンティコア。しかし、Aランクも倒せないようじゃ、人間の領地に行ったときに何も出来ないかもしれない。
ここは魔人の姿で倒してみせるッ!
私とミノタウロスの眼光が巻き上がる砂の中で交差した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
単純なパワーだけなら私はミノタウロスには勝てないだろう。 つまり、この状況を打破するにはパワー以外で上回らなければならないわけだ。
こうして考えている間にもミノタウロスの猛攻は私の体力をじわじわと削り落としている。
さらに言うならば、グレイスオブクイーンはロングソードほど長くは無い。ミノタウロスの斧と打ち合いながら、攻撃できる間合いまで詰めていくのは至難の業だ。
やはり機転は『闘気覚醒』か。 だが5秒弱の時間で出来ることは限られている。 バフをかけようにもミノタウロスの猛攻がそれを許さない。
なんとか間合いを離せれば…
ミノタウロスは大ぶりだが素早く重い一撃。ならばそこに同じ程度の一撃を合わせれば、隙は生まれるはずだ。
これは私の推測だ。賭けでしか無い。だが、やるしか無い!
小さな隙を突いて『武装強化』をグレイスオブクイーンにかけ、この限られた時間で出せるだけの渾身の一撃を、勢いよく振り下ろされるミノタウロスの斧に対するように振り上げる。
剣が弧を描き、金属の打ち合う音を産んだ。 ミノタウロスは振り下ろした斧を、それを持つ両手ごと頭の上まで打ち上げられる形となり、一瞬怯む。
だが、それだけだった。
むしろ、打ち上げられた事によって斧に反動がついた事になり、先ほどよりも強力な一撃が振り下ろされる。
だが今回は私の方が一歩早い。
斧が振り下ろされるよりも早く後ろに飛び退いた私は『闘気覚醒』を発動する。 私に与えられた時間は5秒間。この間にミノタウロスの体力を削り切らなければならない。
ここは私に残されたカードの中で一番強力な物を使う時だ。 自分を巻き込まずに発動でき、なおかつ一番強そうな物。『グローリーライト』だろうね。究極の一撃って言うほどだ。相当だろう。
と言うよりはコレしか見当たらないと言うのが正しいし、これも賭けだ。だが二度目の賭けにも勝ってみせる。
今は自分の力を信じよう。
停止しているに等しい世界で『グローリーライト』を発動する。
全身の魔力が刃に集まっていくのを感じると共に、私はミノタウロスに向かって走り出す。
懐に潜り込んだ瞬間、剣に集まった力が解放され、渦巻く魔力を纏う光の刃が生み出された。 視界がその光の色に染まるほどの青白い刃は、絶対的な破壊力を持っていることが本能で感じ取れるようだ。
一瞬のタメを作った後、私が引き出せる全力を乗せて、斜めに切り上げる。
「はあぁぁぁッ!!」
私の叫びと同時にミノタウロスの体を渾身の一撃が一刀両断し、ミノタウロスは光に包まれながら、文字通り“消滅”した。
私を襲ったのは激しい頭痛と嘔吐感、全身の力が抜けるような脱力感だ。 多分『グローリーライト』の反動なんだと思う。 あとは話に聞く「魔力切れ」って奴もあるのかな。
満身創痍はずが、何故か笑ってしまっている私がいた。 ヤバい時に笑ってしまうと言うのもあるが、今感じているのは激しい高揚感。 やっとこの強敵を乗り越えることが出来たという達成感だ。
今回はかなり頑張ったな。いつもの無双とは訳が違った。 かなり良い経験になったと思う。
砂の上に横たわり、勝利に喜ぶ私の頭に聞き慣れた電子音が響く。
【生き物図鑑により、ミノタウロスから『豪撃』『斧系統+2』を習得しました。】
・豪撃『攻撃をはじかれても相手に少量のダメージを与える』
・斧系統+2『斧の扱いに関するスキル』
はぁ、少し休もう。