一掃と無双とおにぎりと
コレはマズいことになった。
罠か何かを踏んだのかもしれないが、モンスターに完全包囲されてしまった。
ご飯を食べようかと思い、平らな場所に向かって歩いていたら、黒い煙と共に周りにモンスターの大群が現れた。良くあるモンスターハウスとかそんな感じだろうか。
『光長剣』とかは大剣で薙ぎ払うスキルだし、前方は攻撃できても、その間に後ろから攻撃されそうだ。
こんなところで弱点に気づかされるとは思わなかったな。 私には、範囲攻撃はあっても周囲攻撃が無い。ここで『ダークネス』とかぶっ放したら私までお陀仏しそうだ。
どうしたものか、と考えている間にも、周りの奴らはじりじりと近寄ってきている。時間はなさそうだ。一か八かの手に出よう。
作戦はこうだ。
まずは闘気覚醒で一点を狙って突撃し、この包囲網を突破する。 そして、後ろに敵が居なくなった時点で『炎剣』を使って一掃する。
まだ『闘気覚醒』に慣れていないのもあって、上手くいくかは分からない。 でも、ここはやるしか無いだろう。
『闘気覚醒』を発動すると、前回のように、世界がゆっくりになる。
敵の数が少なそうな場所に向かって突進しながら『武装強化』を纏わせたグレイスオブクイーンを振り抜く。 一閃、二閃、と剣が振るわれる度に、一体、二体と死体が生まれる。
なんとか包囲網を抜けた。が、『闘気覚醒』には制限時間があるようだ。 急に世界が元の早さに戻り、私が倒したモンスター達が一気に光となって消滅する。
体感で5秒くらいだろうか。『闘気覚醒』はその程度しか使えないらしい。いや、そんなに使える、と言うべきだろうか。
効果こそ切れたものの、既に包囲網は抜け、距離も確保した。 こちらに向かって振り向くモンスター達は既に手遅れだ。
『炎剣』を発動すると、炎がグレイスオブクイーンを包み込み、次第に広がりながら剣の形を形成する。 持ち手の部分も炎に包まれているが、熱くはない。
しかし、発動に時間がかかりすぎている。他の魔法より圧倒的に遅い。 私が炎の剣を展開している間にも、モンスター達はじりじりと近寄ってくる。
しかし、モンスター達のその行動は遅すぎた。 私に距離を離された時点で逃げ出していれば助かったかも知れないが、判断ミスというものだろう。
私の体の7~8倍にもなった炎の剣がモンスターの群れを薙ぎ払う。 その炎の威力は理不尽なほどに強力で、モンスター達は一体残らず蒸発し、地面の砂は所々ガラス質になっているのが分かる。
とりあえず、辺りに散らばった素材を回収しておくとしよう。 モンスターの量が量だけに、素材の数も膨大だ。
回収が終わったら、今度こそ昼食と行こう。もう腹ぺこだよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
おにぎりは葉っぱに乗っていて、丸、三角、四角の三種類がある。 海苔がそれぞれに巻いてあって、見えているお米の部分を際立たせていた。
おにぎりの、シンプルなのに美味しい所は素晴らしいと思う。
丸から食べようか。
はむっと食いつくと、ちょうど良い塩気が広がり、甘塩っぱい佃煮の味が後から追いついてくる。
昆布だ。美味しいね。昆布の佃煮にも卵と絡まってる奴とか色々あるけど、コレは全く飾られていない質素な味。 日本食はやっぱり質素なのが一番だとおもうんだ。飾られた味はあまり似合わない気がする。
次は三角。
がぶっとかじる。酸っぱい。梅だ。 おにぎりの独自の塩気と梅の塩気と酸味がちょうど良いバランスに保たれている。
私梅干し好きなんだよねぇ。 自分で作ったこともあるけど、紫蘇を控えめにして、塩を増やした、暴力的な酸っぱさの方が甘い奴より好きかな。
次は四角。
ぱくっとかぶりつく。魚の味がする。鮭だね。
焼き鮭の塩気と魚の風味が白米や海苔とマッチしている。鮭おにぎりは食が進むよね。
魚と言えば、釣りたての物を刺身にするともう他の魚が食べたくなくなるくらい美味しいよね。
……完食。 ごちそうさまでした。
周囲を見渡してみると、人がもうほとんど見えなくなっており、来た方向を振り向いても、もう何も見えない。
だいぶ奥まで来たみたいだな。今この辺りに居るのは、だいぶ強い人達だと言うことだな。 勿論、チート武器とスキルで無双してる私は除く。
魔人の姿での戦闘にも慣れてきたし、軽くいなしながら進んで行くとしよう。 なるべく早く奥まで言ってマンティコア無双した方が効率良さそうだしね。
素材も、奥の奴の方が質は良いだろうし無視で行こう。スキル使って駆け抜けるか。
使っていないスキルも使ってみようと、『光長剣』を発動する。『炎剣』のような感じを想像していたのだが、少し違った。
光が刀身を包んで長めに伸び、片刃の太刀を少し短くしたような感じの剣になった。 日本刀よりは、ちょいと長い感じ。 きっと「元々から比べて」長射程と言うことなのだろう。
ぶっ壊れステータスに任せて走り出し、途中で出会う魔物は『武装強化』をのせた『光長剣』でなぎ倒していく。 勿論斬撃時にも足は止めない。 走りながらの一閃だ。
体に当たる風が疾走感を感じさせ、本当に無双している気分になってくる。
私がかなり走った頃、また紫色の壁が立ちはだかった。今回は前回より二倍くらいの広さがある。
第三のボス部屋だ。今回はボス部屋まで結構長かったな。 一体どんな奴が出てくるのだろうか。
※注 作者は魚アレルギーなので、鮭や刺身については実際どうなのか分かりません。友人から聞いた話を元にしております。