新たな幕開け
あれから数ヶ月が経った。
怪我人は少なくはないが、後遺症が残ったり、戦えなくなったりするほどの大けがをした者はおらず、死亡者に至ってはゼロ。これもツバキの采配のおかげだろう。
私達は滋養もかねてモーラウッドの家に帰り、今はなんだかよく分からない時間を過ごしている。
それと、あの後、こんな事があった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
戦争が終わり、引き返すために荷物を纏めているときだった。
「やぁ、声だけでゴメンね。どのくらいぶりだったっけ?」
私の一番最初の母であり、この世界に来ることになった元凶。女神。その声を忘れるはずもなかった。
「まぁ別にいつでも良いか。そういえばアイリスのことも自分の事ももう知ってるんだったね。本来ならここで話そうと思っていたんだけど、手間が省けたよ」
周りを見渡しても、この声はやはり私にしか聞こえていないようだ。神託とか言う奴だろうか。
「謝罪と共に?」
「そうだね。謝らなければいけないだろう。木下蕾は私によって殺された。君の人生を終わらせたのは私だから永遠に恨まれても仕方ない。それでも、一応謝罪をね……」
「やめよう。すまないだとかゴメンだとかは無しだ。元々はアイリスが頼んだことだしね」
「……それでも…私は何か埋め合わせをしないとね。一応神様だからそこは譲れない」
無駄に律儀なもんだ。神様のルールとかそういう物でもあるのかね…。
「全く…キミは私を何だと思っているんだい…?」
あれ、これ思考読める奴かな。私もしかしてずっと一人で無駄に喋ってたパターンかな。
「そんなことはどうでも良いんだけどね。率直に聞くけど、キミ、地球に帰りたいかい?」
……帰れるのか。
でも、私は帰りたいだなんて思わない。この世界には危険がいっぱいで、いつどこでどんな風に生きられるかも、明日がどうなるかも分からない。それでも、私はこの世界が好きだ。
よくある異世界転移した主人公が自分の居場所に帰るために旅をするストーリーはけっこう好きだが、今だけはその気持ちが果てしなく理解できない。
こんなにも自由で、こんなにも楽しい毎日が地球で送れるか…?無理だね。無理だ。だからこそ私は、この世界を助けたいと思ったのだから。
「…やっぱりね。そう言うだろうとは思っていたんだ。でもハイそうですかと何もしない訳にもいかない。だからね、一つだけ願いを聞いてあげよう。何でも言ってみてくれたまえ?」
おお太っ腹。でもそんなこと急に言われてもなぁ…。その願い、とっておくことはできないの?本当に必要なときのために確保しておきたいんだけど。
「まぁ、それでも良いかな。それじゃあ私の力が必要になったらいつでも呼んでくれ」
あぁ、そうするよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そんなわけで、ただいま異世界ライフ満喫中…とまでは行かないで、まぁ怠惰を貪っているところだ。
「たっだいまー。」
「ただいま戻ったぞ」
どうやらセリアさんの所に色々取りに行っていた組が戻ってきたようだ。
私だってセリアさんには会いに行きたかったけど、キリエ看護婦が許可をくれず、動き出すことができませんでした。
「……腕ない…無茶しすぎ…あたりまえ……」
コイツら平気で私の思考を読んでくるのなんとかしてくれないか。
「おお、天使、なかなか似合ってるじゃないか」
セリアさんには二つ注文してあり、そのうち一つがコイツの服。デザインを考えている余裕が私にもセリアさんにも無かったので適当な茶色い綿パンにシャツとジャケットだが、まぁ天使らしさは消えた。
「ツボミ、コレであってるかい?」
そしてツバキが差し出したのは棒状に巻かれた長い包帯だ。しかし、勿論ただの包帯では無く、私の毛50%というハイスペック。無くなってしまった腕用だ。
今の包帯は魔力を通しにくく、腕を上げ下げすることすら難しい。しかし、私に近い素材なら本物の腕のように扱えるのではないか…と思ったわけだ。
「なぁツボミ、俺の名前はどうなったんだ?」
ワクワクしている私の他にもワクワクしている男がもう一人。
そういえば天使って呼ぶのも嫌だから、帰ってくるまでに名前考えてあげるよって言ってたな…キリエ見ていて忘れてしまった…。今適当に考えるか。
「……オダマキ、アクイレギアから取ってレギアとかどう?……ごめん流石に冗談だわ」
「どうしてだ?レギア、格好良いじゃ無いか。俺はそれでいいぞ?」
オダマキの花言葉は『愚か』なんだよ…まぁ本人も満足しているし、何より自分の行いを悔いろ的な意味でもバッチリと言えばバッチリか。
「じゃあそれにしよう。お前は今からレギアだぞ」
「あぁ、分かった。この名に恥をかかないようにしないとな」
……その名がむしろ恥だが、本人が知らない方が幸せなこともある。まぁいいか。
そんな事をしている間に新しい包帯の腕は出来上がる。
試しに動かしてみると、最初はぎこちないが、慣れてくるにつれてだんだんと今までの腕のように馴染んでいく。
というかこの腕、ものすっごい性能が良いかもしれない。中に何か仕込もうと思えば何でも仕込めるし、何よりもマンティコアの毛の成分が多いせいで攻撃力がエグい。こっちの腕だけアイリスとくっついていた頃くらいの火力がありそうだ。
「ツボミ、なんだかやけに嬉しそうじゃ無いか。それ不便そうだけどねぇ…?」
「いや、そんなことも無いぞ?確かにお風呂とかは面倒だろうけど、日常生活には支障ないしね。そうだ、後で防水加工でもしとくか」
「まぁキミが良いなら良いんだけどね…僕には痛々しくて…少し目に悪いよ。」
ツバキも変なところで小心だな…まぁ良いけど。
まるで四人家族のような家の中。その時間はとても幸せで、いつまでも続けば良いと思った。
しかしこんな死亡フラグを立ててタダで済む訳も無く、窓の外から轟音が鳴り響く。
なかなか止まない地鳴りと何かが崩れるような音。これが新しい死闘の幕開けだった。
第二章開始です。
更新送れて申し訳ない…プロバイダとの契約が切れてネットに繋がらない&スマホが低速って言う最悪のコンボ喰らってまして…。
投稿自体はなんとかしますが、改稿はネット環境整うまで待ってくれ…ツバキの所まで書きためてあるんだ…。
次回更新は4月4日(水)の20:00以降です。