義手
とぐろを巻く首に近づくと、八岐大蛇はその一部を持ち上げ、私を中へと通した。
「っ!?」
そこには赤い水たまりの上に横たわるツボミの姿があった。
「……ツ…ボミ……?」
魔法での診察など必要なく、その容態は近づくだけで判明できた。 右腕が失われ、そこから血が流れ出しているのだ。
普通ならば出血多量で既に死んでいるような血液を流しているにもかかわらず、ツボミはこちらに気づくとその口を開いた。
「キリエ…?いやぁ、ちょっとミスっちゃったよ。 全く、不便なのか便利なのか分からない体だよね。どんだけ血を流しても死なないけど、この激痛の中で意識を失うこともできないなんて」
自嘲気味に笑うその口振りからも痛みが伝わってくるかのような荒い息づかい。
急いで駆け寄って治癒を行うが、失われた腕の復元などはできるはずも無い。今の私にできることはツボミを襲う激痛を少しでも癒やしてあげることくらいだ…。
「はぁ、はぁ、キリエ、速すぎるよ……!?蕾ちゃん!?」
遅れて駆けつけた雫もその状況を一瞬で把握したようで、すぐに駆け寄ると私の隣に座り込んだ。
「痛み止めとか…包帯とかならあるけど……そんなレベルじゃないよねコレ…」
それを聞いてぴくっと動くツボミ。
「その包帯、どのくらい長さある?」
「切って使う奴だから超あるよ…?私の次元収納の中にしまってあるけど…」
無言でよこせと訴えかけるツボミに大量に巻かれた包帯を渡す雫。ツボミは一体何をするつもりなのだろう。
ツボミが包帯に触れると、赤黒いスパークが飛び散り、スルスルとほどけた後、白い山を作ったかと思うと、今度はツボミの右腕へと伸びていく。
根元から巻き付くようにクルクルと虚空を巻く包帯は徐々にその部位の元々の形を形成し、最終的に右腕となった。
「蕾ちゃん…?何したのソレ…」
「私のスキルは便利だよね。万物を作り替えるこのスキルによればただの包帯だって長さがあれば義手になるのさ。流石にこんなのじゃ剣は振れないし魔法も使えないし銃も撃てないけどね。無いよりマシでしょ」
流石ツボミ…。そのどう転んでも立ち上がろうとする姿…かっこいい…すき…。
雫はよく分からなくて考えることを止めたような表情をしているがまぁいいだろう。
「でも利き手が死んだからもう人の姿じゃロクに戦えないんだよなぁ…。マンティコアに頼りますかね」
ツボミはそう言いながら白銀の獅子にその姿を変え、戦場に再び出向こうとする。
「……さすがに…ダメ……。……もうちょっと…休む……」
体のバランスが戻ってもダメージは癒えていない。そんな体の人を戦いのド真ん中に向かわせるわけには行かない。
ツボミは何事か文句を言っているが、今回ばかりは私も引けない。雫にツバキへの伝達役を頼み、ツボミをその場に寝かせる。
大変な戦況だが、ツボミが再び参戦するのはもう少し先になりそうだ。
はい。厨二病の定番義手&包帯です。やったぜ。
次回更新は3月7日(水)の20:00以降です。
Twitterのアカウントを作成しました。
告知や報告などもそちらで行いますので、フォローして頂けると涙を流して喜びます。
「@torinonikumaki」で登録してあります。どうかよろしくお願い致します。