一時撤退
はぁ…はぁ…。流石の僕も多数同時をこの時間は無理があるねぇ…。大型だけならまだ戦えるけど、ちょこちょこ混ざってくる小型が鬱陶しくて仕方ない。
それよりも、僕たちが倒した数は最初に確認したときの物を遙かに上回っている。にもかかわらずこの量で増えつづけるのは、何かがおかしい。 最初から別の場所に配備してあったか…もしくはラネシエル陣営へ向かわせた勢力を全てこちらに持って来たか…。 いや、それは考えづらいか。
「ツバキ殿、まだ持ちこたえられますかな?」
背中合わせに立つ死神が声をかけてくる。 既に円状に包囲されており、互いに互いの背中をカバーし合う陣形だ。
皇帝は負傷した勇者君を担いで一時離脱中。ここを持ちこたえられるかが今後の展開に大きく関わってくるんだけど…。
「正直、キツいかも知れないねぇ…。僕だってそろっと限界さ。キミは?」
「私も恥ずかしながら残り数発が限界かと」
死神の攻撃は即死攻撃というのか、一撃当てるだけで絶対に対象を機能停止させる鎌の一振りなのだが、その分一撃一撃の消費が重いらしい。対多数向けではないだろう。
正面に立つ大型の腕から放たれたのは一撃の威力が洒落にならない粒子砲。 死神と共に跳躍して着弾を避けると、そのままの勢いで大型の元へと拳を打ち込みに向かう。
しかし、その進路を阻むのは背中のブースターで加速して割り込んだ獣型。急停止と共に腰を落とし、正拳突きをねじ込んで再び走る。 目的の大型の前に迫ったとき、2発目の砲撃が放たれたが、上体を反らし、スレスレで回避して更に前へ。
叩き込んだのは砕牙衝。ヒットすれば大型でさえも確殺する内部破壊の一撃。しかし、これでは終わらない。次がいる。
拳を叩き込んだ機械が炸裂するよりも早く、それを踏み台にして跳躍。隣の大型にも落下の勢いを乗せた崩天脚を落とし、そのまま次へ。
再び割り込む獣型を死神が切り落とし、その先の大型を緋雨六連で葬り、その間に死神が最後の大型を叩き切る。
「む?ツバキ殿、母上から通達です。“私が時間を稼ぐから、全軍を退かせて立て直せ”とのことですが、如何なさいますか?」
「……恥ずかしいもんだねぇ。でも、ここで意地を張るわけにはいかないね。」
伝声の魔術をのせた声を張り上げて一時的な戦略的撤退を呼びかける。
全体的に引き始めた頃、透明な風が通り抜けた。
「ツバキ、御伽噺の英雄ならその姿で鼓舞するのも一つの手かもよ?」
そう言い残した風の向かう先で突如として獣型の首が横にずれ、そのまま転がり落ちる。 その一瞬だけ僕の視界が捕らえたのは黒い稲妻を纏うツボミの姿だった。
そして僕らの足元を更に一匹、影が泳いで通り抜ける。その影が大型の頭部を喰らった瞬間、突如として現れた巨大な蛇がその胴体をかみ砕く。
撤退の時間を稼ぐ、と言う訳か。これまた恥ずかしい物だ。自分の力不足を実感させられる。 ツボミだって長いこと集中力を研ぎ澄ませ、戦場全体に目を配り、危なそうな場所の敵を遠方からの正確な狙撃で打ち抜いていて、だいぶ疲労しているはずなんだけどな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……ツバキ…だいじょう…ぶ?」
沈み気味で座り込んでしまった僕に気がついたのか、キリエが駆け寄ってきてくれた。
「どうも上手くいかないねぇ…。僕も強くなったつもりだったんだけどなぁ…。こりゃ昔一緒に戦ってくれた同胞にも、いまの同胞にも顔向けできないね…。」
それを聞いたキリエは不思議そうに小首をかしげた。
「……ツバキは…できる子…。……でも…たりない物…ある…」
僕に…足りない物…? ……自分で考えても、あんまりわからない物だねぇ、というより、心当たりが多すぎるのかも知れないけど。
「それは?」
「……自信と……思い切り…?」
自信と思い切り…?昔もそんなようなことを言われた気が…。思いの外成長しないもんだねぇ…。
「……ツバキは…みんなの…英雄…。……もっと…自信…持つ……」
僕の頭を撫でながら励ましてくれるキリエ。 この子は本当に優しいね。そして、とても強い子だ。
……僕もマダマダだね。 でも、これで“思い切り”はついた。ここから盛大な逆転劇を見せてやろうじゃないか。
昨日は申し訳ありません…。もう少し早くTwitterの告知を飛ばせればよかったのですが…。
そういえば、バレンタインの時に書き忘れてたので今ここで言いますが、テンパリングってスッゲェ難しいのアレ。 温度計見ながらやってみたんですけど、プロの人はアレを感覚でやるんですかね。 努力したんだろうなぁ…。
次回更新は3月2日(金)の20:00以降です。
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