不死鳥の再臨
ええ…マジか…出来ちゃったよ…。
私の目前には、拳をむすんだりひらいたりして体の具合を確かめるアイリスがいた。
「ほら、言ったじゃん? 完成度が低すぎて数時間で朽ち果てる気がするけどね。私が宿ってる間は不死力で無理矢理なんとかするから大丈夫」
「これ、ホントに人体なの?」
髪を触ってみたり、ほっぺをむにむにしたりしても、そこから伝わってくるのはまごう事なき人の体の感覚だ。
「ほれ。お胸もバッチシ」
あ。ずるくね? 前世はすとーんきゅっきゅっだったのに。
「そのお胸ふにふに止めろ腹が立つ。 それにしても人体錬成したのか…。腕1本くらい持ってかれそうだな…」
「まぁ君は魔力流しただけだけどね。体の構築とか形成は全部私がやったし」
それでそんな体型なんですね、分かりません。
「でも、アイリスは体を得てどうする気なの?またアレに侵食されたりするんじゃないの?」
「それについては大丈夫。この体は神の代行者では無いからね。 まぁ、世界を見て回るよ。ぶらぶらとね」
「今回の件、手伝ってくれたりは?」
「しないね。前回は私。今回は君だ。頑張ってくれたまえよ。 あぁ、そうだ。旅立つ前に1つ助言をしていこう」
助言、というか、もう旅立つ気か。ツバキに顔くらい見せていったら良いのに。
まぁ、なんとなくその気持ちは分かる。恥ずかしいというのは別として、私でもそうするかな。 なんだか性に合わない気がするんだ。
「君は完全に見ていたわけでは無いから、大戦が始まる前のことは知らないだろう。 人間の動きが似ている。急に軍備を始める場所や、内乱の予兆。募る不安。そして例の計画。全てアイツのやり口に似ているんだ。 もし、この裏に奴がいるなら、今度こそ一発ぶん殴ってやってくれ」
「アイリスってば、アイツのこと、結構気にしてるんじゃん」
「まぁ、同じく神様に産み出された存在だからね。親近感は湧くよ。でも、それ以上は行かないかな。なんか惚れたとかなんとか言ってたけど、生憎私はタイプじゃないし、勘弁して欲しいもんだね」
うっわ。本人がいないところでフりやがった。これはこれでかわいそう…。
……助言のことをすっかり忘れていた。
堕天使君に似ているやり口だと? でも、堕天使君はアイリスが封印していたはずだ。 ならば誰が……
「それじゃあ、私はもう行くよ。ツバキによろしく。 あ、そうだ。私が出て行くからには、君の中に少しだけ残ってしまった意思は全て貰っていく。 ……教会の時は悪いことをしたね。私と、その中に残った意思が暴れてしまったせいで、仲間を傷つけさせてしまった。 なに、この程度、私だけなら完全に無に帰してやるからさ」
意思が残っていた? 教会の時?
あぁ、あのときの、意識がぼーっとして自分が自分じゃなくなる感じ。あの恐ろしさ。 アレが意思という呪いなのか。 じゃあ、堕天使も、ひいてはアイリスもあんな感覚を味わったんだろうか。
ひらひらと手を振りながら歩いて行くアイリス。 その足は魔物達の方へと向かって行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
まぁ、そろそろ封印も解ける頃だろうからね。 その後どうするのかと思えば、また同じ事の繰り返しかい。 全く、いつになってもダメな奴だな。
それでも今回、私は行ってあげないからね。その代わりにもっと優しそうな奴がお前の所に行くだろうよ。
彼女がどうするかは分からない。 お前も何度も悩んで、何度も悔やむと良い。 その先に答えが見えたなら、きっとそれが正しいんだろうさ。
私は絶対にお前の物にはならないけど、彼女は案外行けるかもね。真っ直ぐな好意に弱そうだし。
さて、私は煽りもかねてツバキの墓参りにでも向かうとしようかな。
さて、次回からは通常のストーリーに戻っていきますよ!
長かったねぇ。長かったよアイリス編。
でも書いていて楽しかった気がします。アイリスもツバキ(旧)も、個人的に結構気に入ってるんですよ。
次回更新は1月11日(木)の20:00予定です。