次の目的地
「そういえば、これを渡しておりませんでしたな」
エドワードさんが取り出したのは銀色のプレート。そこには私の名前とCランクの文字が。
お礼を言って受け取り、食事代としてそれぞれ銀貨1枚を支払った後、店を出る。
「今日は色々とありがとうございました。是非またご一緒させて下さい」
「いえいえ。私の方こそ、なかなか面白い体験でしたよ。では」
エドワードさんと分かれた後は、ギルドの近くの宿屋へ向かう。 冒険者達が沢山居て、少々物々しい雰囲気はあるが、別に悪いところでは無い。
その宿屋で1泊銅貨5枚の小さな部屋を二日分借りて、今後の予定について考える事にした。
ここモーラウッドにはあまり強いモンスターは出現しないみたいで、レベル上げなら別の町に向かうべきだろう。
……別の町ってどこだ……。…まぁその辺は適当な誰かに聞きますか。
明日は朝一でプチボアの依頼の報告をして、その後はガリスさんの工房に。その後はどうしようかなぁ。
セリアさんとの約束もあるし明後日まではこの町に留まらなければならない。まぁそんなに急ぐような事でも無いんだが。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
……おはよう。良い朝だ。
まずは報告のためにギルドに向かおうじゃないか。
そんなこんなで宿を出ると、降り口の近くにあった屋台から、ふわりと良い匂いが漂ってきた。
串カツ…か…。なんか肉続きだけど美味しそうだしいいや。これで朝ご飯済ませよう。
屋台のおじさんに2本注文すると、その場で揚げ始めてくれた。 揚げたてとは素晴らしいな。 まぁ私猫舌なんだけども。
しばらくして醤油のようなタレがたっぷりかかった熱々のカツが差し出される。
串カツと言えばソースというのが定番だが、醤油も肉の旨みが引き立ってなかなかに美味しいのだ。
代金として銅貨1枚を支払い、下品に歩きながら頬張る。
うむ。無難だ。無難に美味しい。困ったらこれ食っとけ!くらいにはいけるぞ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私がギルドに着くと昨日とは違う受付のお姉さんがいた。
「依頼の完了報告に来ました。これでいいですか?」
あらかじめ用意しておいた、袋入りのプチボアを渡す。 ちなみにこの袋は依頼を受けたときに支給された物だ。
「お疲れ様でした。報酬とプチボアの買い取りで合計銀貨2枚です」
安いなぁ…。まぁ最低ランクの依頼だしこんなもんか。
報酬を受け取り、ギルドの裏の通りへと足を進める。
どんな武器にしてもらおうかな。やっぱり剣が良いかもしれない。 私はミリタリー系を結構やっていたんだが、ファンタジー物の時は剣特化だったんだ。
そうして教えて貰った店の前までやってきた。誰も見えないけど武器とか売っているので間違っては以内だろう。
誰もいないのだろうか、と思い呼びかけてみると、奥の方から「待ってろ」的な声が聞こえた。
先程からカンカン聞こえるし、何かを作っているんだろうな。
それにしても無防備すぎるな…。売り物を出しっぱなしで店を開けるとか、盗んでくださいと言っているようなものじゃないか。
少しして現れたのはゴツいドワーフのおじさん?お爺さん? ……まぁそんな感じの人だ。
「嬢ちゃん、何がご所望だ?」
「剣を作って欲しいんですが、素材はコレでお願いできますか?」
アームドマンティスの素材を取り出し、卓上に並べる。
「おお!こりゃ珍しい。嬢ちゃんかなり腕が立つみてぇだな。だがオーダーメイドはちょっくら高ぇぞ? 金貨10枚だが大丈夫か?」
あぁ。払えるわ。現金でぽんと出せるわ。
とりあえず無言で金貨10枚を取り出し、再び卓上に。
「いやぁ。こりゃ参った。金貨10枚をそんな簡単にだせるとはな。そんで、どんな剣が良いんだ?剣って言っても色々あるぞ?大剣だの長剣だの短剣だの…」
ふむ、そうだなぁ…。片手で振れた方が取り回しやすくて良いかな?
「私の肩から指先くらいまでの長さの剣ってできますか? 叩き切るんじゃなくて、しっかり切る感じの、しっかり刃が付いてる奴が良いです」
「おう。分かった。任せときな。ちょっと採寸するぞ」
そう言ってガリスさんは奥から機材を持ってくる。
なんでも使用者にとって一番使いやすい物を使う主義なんだとか、手のサイズや腕のサイズなどを色々と計られた。 そりゃ高いわ。納得した。
「俺の腕がありゃ5時間もあれば余裕で作れるぜ。その辺見て回って来な」
5時間でいけんの!? ……何者だこのおっさん…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
剣を作ってもらっている間に、残ってたネプトディアーを解体して貰おうと、解体所にやってきた。
暇そうにしていたリカルドさんは、興味津々と言った表情で出迎えてくれる。
「よぉ、姉ちゃん、今度は何を持って来たんだ?」
私からすると少々ショッキングな解体だが、リカルドさんからしてみると、もの凄く楽しんだろうなぁ、と感じさせるような表情だった。
「ネプトディアーをお願いします」
インベントリからゴロンと取り出す。
「オイオイ姉ちゃん、俺昨日のアームドマンティスもそうだが、ネプトディアーなんて初めて見たぜ? 多分解体はできるけどなぁ…。こんなの何処で倒してくるんだよ…」
この辺りは強いモンスターが出ないと聞いているし、それもそうか。
もしかすると中立区と魔物側では出現するモンスターが違うのかもしれないな。
先に解体費の銅貨3枚を渡しておいて、見学していくことにした。
「マスターがよ、もうアームドマンティスの甲殻が売れたって言って大喜びしてたぜ。あれだけのもんだ。相当利益も出てるんだろうよ」
さっき、剣の素材としてガリスさんが選んだ“鎌”は、切れ味や魔力伝導率がハンパなく高く、もの凄く優秀な武器が出来上がるんだとか。
魔力伝導率と言うのはその名の通り魔力の通りやすさらしい。 “魔力”の詳細を知らないから良くは分からないが、ゲームで良くある奴っていう認識で良いのかもしれない。
「そういえば聞きたいことあるんですけど良いですか?」
「ん? まぁ俺に答えられることならいいぞ?」
この流れで例のレベル上げ場所についても聞いておくことにする。
「この辺りじゃなくても良いので、効率の良いレベル上げ場所ってありますか?」
「そうだな…難易度を加味しないなら『未開の砂漠』が良いかもしれんなぁ。 いや、でも姉ちゃんの実力なら問題は無さそうか…」
「その『未開の砂漠』ってのはどこにあるんですか?」
「このモーラウッドから西にまっすぐ行った所にある『アシトラ』と言う町のすぐ側にあるフィールドダンジョンだぜ? あ、でも、もし行くとしても絶対奥には行くなよ?あそこはヤベぇからな」
その後で聞いた話だが、この世界のダンジョンと言うのは、大半が生きた空間で、モンスターを沸かせたり、宝箱を配置したりを定期的に行うらしい。
そして、入ってきた生物が、罠やモンスターによって死ぬとそれを糧に成長するようだ。
また、ダンジョンのモンスターは倒すとドロップアイテムとして素材や武器を落として消えるらしい。RPGみたいだな。
『未開の砂漠』のようなフィールドダンジョンは階層制になっている一般の物とは違い、広大に広がる一層のみのダンジョンだ。中心に進むにつれ、難易度が上がっていくが、大半は飛べば攻略できると言う。
しかし、『未開の砂漠』は空のモンスターも強すぎて誰も奥へ進めずに、なんと今まで踏破した者が居ないと言う。 まさに名前通りというわけだ。
だが、入ってすぐの場所は中級者辺りでも倒せるような敵ばかりで、レベル上げに良いんだとか。
まだまだ聞きたいことがあったが、解体が終了したので、そこで話を切り上げる。 今回は後の資金難に備えて、全て貰っておいた。
そろそろ時間になるだろうし、剣を取りに行っても良いかもしれないな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
再びガリスさんの店にやって来ると、前回とは違って店頭でガリスさんが出迎えてくれた。
「おう。嬢ちゃん、できてるぜ。今回はやけに調子が良かった」
そう言って、布に包まった棒きれを私の前に差し出した。
お礼を言って受け取ると、その包みを開いてみる。
そこにあったのは眩い輝きを放つ白銀の剣。柄の部分は飾り気の無い暗い白で、私の手に驚くほどフィットする。
刃の部分は根元に少し文字のような物が刻み込まれていて、色は私の髪の毛にそっくりの白銀だ。
…そういえば採寸の時に髪の毛一本抜かれたな。なんでも使用者に出来るだけ適合させるためだとか言ってたな。 それが関係あるのだろうか。
「いつも通りに髪を入れたら刃が白く光ってよ。普通のアームドマンティスの剣は暗い白なんだが、こんな色になったのは初めてだぜ」
では、魔眼先輩の解析フェイズです。
【グレイスオブクイーン】
優秀な素材、マンティコアの因子、匠の腕が合わさる事で生まれた奇跡の剣。
驚くほどに高い切れ味と魔力伝導率に加え、常に刃を覆う力が劣化などから守ってくれるが、破壊されないわけでは無いので注意が必要。
使用者:ツボミ・キノシタ
スキルあり。
……なんかヤバイ物見た気がする。 手入れいらずでぶっ壊れ性能ってか。どんなチートだよ。
この使用者って奴は何なんだろうか。スキルってのも気になるな。 ……まぁそれはおいおいで良いか。
「どんなもんだ?調整が必要か?」
「いえ、バッチリですよ。ありがとうございました」
さて、それでは『未開の砂漠』を目指そうか。と思ったが、まだ町を離れるわけには行かない。
それに、もう夕方になってしまった。 結局武器の練習は出来なかったな。 『未開の砂漠』でするとしようか。
明日はマフラーもらった後、アシトラに向けて出発だね。