対話
「久しぶりだね、お母さん?」
「お母さん、か。そうだね。そうかも知れないね。 じゃあアイリス、私の娘は次に何を望む?」
「私を別の世界に転生させてくれ。勿論、私としてではなく、他の誰かとして。 願わくは一般人が武器を取ることなく、争いに加担する必要も無い、そんな世界に」
女神はちょこんと首をかしげ、意外そうに口を開いた。
「おやおや。君のことだから、あの世界を頼む、だとか、そんなことを言うんだと思っていたよ」
「いいや、あの世界はもう大丈夫だ。私の親友が引き継いでくれたからね。 それと、私自身もう疲れてしまったんだよ。早く休みたいもんだ」
「いいよ。分かった。君の頼みは聞き届けよう。 他には何かあるかな?」
「もし、あの世界が本当にヤバくなりそうなら、もう一回私を呼んで欲しい。 その時は、新しい私には悪いけど、世界のために無理矢理奔走して貰うとしよう」
「……分かったよ。 あ、ちなみに、新しく生まれ変わらせるのにはかなりの時間がかかりそうだよ。まぁ、気にすることじゃないかも知れないけど、一応ね」
そこでやっと、私は女神が少しさみしそうな表情をしている事に気がついた。
「私がいなくなると悲しい?」
「まぁ君は、私の最初の娘だからね。そりゃぁしんみりもするさ」
「大丈夫だよ。どうせすぐに慣れるさ。元々私と直に会って話していたわけじゃないんだし」
「それでも、たまに話し相手になってくれたりしていたじゃないか。 神託の悪用だけどね」
自分で言いよったぞコイツ。
「まぁ、それじゃあ、新しい私のことも頼むよ。適当に扱って貰って大丈夫だから」
「うん。そうさせて貰うよ。 じゃあ、お休み。我が子よ」
女神が私の頭に手を置くと、私はすぐに深い眠りに誘われていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
……戻って、来たのか。
なるほど、私はこんな存在だったんだな。 これなら女神がクソ適当だったのも頷ける。
まぁ、結局アイリスは消えずに私の中に残ってしまっていたわけだが…どんだけ強力なんだよ不死力ってのは。 いや、女神が意図して残したのかも知れないけどね。
「で? 私と同化する的なこと言って、力と一部の記憶だけ渡して隠れ潜んでる不死鳥サンは、自分の過去を見返してどう思った?」
私が問いを投げかけると、体から赤い魔力の塊が飛び出し、人の形を形成したかと思うと、みるみるうちに赤髪赤目の女性へと変わっていった。
「アレ?バレてたの?なんだぁ、恥ずかしいな。 過去も合せてダブルで恥ずかしいわ」
「しかも実体化まで出来るの?もうこれアイリスだけで良いんじゃないかな」
「いやいや、今は君の魔力をごっそり使って無理矢理出てきてるだけ。この体じゃ物にも触れないよ」
私がさっきまで座っていた椅子にアイリスが触れようとするが、その手は椅子をすり抜けて行った。
……どうりで一気に体がだるくなった訳だよ。
「そうだ。ツボミよ。私を受肉させるというのはどうだい? そうすれば、君と私は完全に切り離され、君は完全な木下蕾になる。 力の一部は貸しとくからさ」
「どうしろっての。体を作れとかは無理だぞ?女神様にでも頼んでおきな?」
アイリスは1本立てた指を左右に振ってチッチッチ、とちょっとウザい動作を取る。
「それが出来るんだよ。お母さんも想定してたのかな。 君の体にはとてつもない正の魔力が眠っている。そして私がいるから、負の魔力も同時に持っている。 その2つをとんでもない出力でぶつけ合うとどうなると思う?」
「え?普通に中和されるんじゃないの?」
「はぁ、君は魔力について勉強不足と見える。負の魔力は属性を打ち消すだけなんだよ。でも、君の体には属性持ちの魔力他に、属性を持っていない純粋な正の魔力も仕込まれている。 その2つをぶつけると、とんでもない相乗効果が生まれて、奇跡と言ってもおかしくないほどの現象を引き起こす事も出来るような“力”を産み出すんだ」
……ごめんよく分かんなかったよ。
「何?じゃあ頑張ればアイリスを自由にしてあげられるの?」
「おや、そう言う考え方をするのか。 まぁ、それは良いとして、どうなるかは分からない。やったことないからね。 でも出来るんじゃ無い?いや、多分出来るよ。やってみよう。きっとだいじょうぶさ!」
オイオイ本当に大丈夫かよ…。なんかヤケクソになってないかこの子。
「まぁ、やってみるか。私はどうしたら良いの?」
「私が負の魔力を頑張るから、君は正の魔力が頑張って絞り出して。 頑張ればなんとかなると思うよ?」
あっ、これ無理な奴ですわ。
冬は鍋が美味しいですね。 皆さん、鍋って凄いんですよ。 余ったらいろんな料理にまかなえるんです。 なんて言っても具材のだしがこれでもかってくらい出てますからね。 ただのだし代わりに使うのでも十分すぎるんです。 急に何の話を始めてるんだ私は。
次回更新は1月9日(火)の20:00予定です。