過去編:堕天使
敵の軍勢は底をつきようとしていた。
こちらも残っているのは少数。
まさに死闘と言える戦いであった。
既に狂化は解けており、まともな思考が出来るようになっている。 ツバキは後半になるとちょくちょく回復のための時間を挟みながら戦っており、まだまだピンピンしている。
と言うのも、数で負けている魔物達だが、単体の強さはまだまだ勝っているようで、交代交代に休憩を挟みながら戦う事で、殲滅力を保っていた。
「ツバキ、そろそろ良いだろ? 私はあそこに行ってくる」
指さす先は空中に浮かぶ扉。既にモンスターは出てきておらず、先の見えない扉が大きく口を開けていた。
「……うん。こっちは大丈夫。…アイリス、絶対帰って来てね。」
「大丈夫さ。行ってくるよ」
帰ってこい、か。 帰って来たときにはどうなっているかは分からないが、ご期待には応えるとしよう。
炎の翼を一層燃え上がらせて急上昇し、天を駆けるかの如く扉へと一直線に突き進む。 噴き出す炎は空気を切り裂き、空に赤い2本の軌跡を描いた。
扉は接近してもその先に続く景色が見えず、白い水面のように揺らめいていた。
「はぁ、実はこれが初対面だったりするんだよね…」
私が扉の波打つ面に触れると、青白いスパークが散り、腕がその先へとすり抜けた。
扉をくぐると、そこにあったのは荒れ果てた別世界。
廃虚の遺跡のような、砕け、風化し、苔むした石柱や石畳達が無残に散らばった、どこか退廃的な空間が永遠に続いていた。
さて、お目当ての子は何処に居るのだろうか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
しばらく進むと、瓦礫の払われた広場状になっている場所が現れた。
「……ほら、出てきなよ。…こんな事、お前も望んじゃ居ないだろう」
応えるように空間に電流が走り、そこに生まれた亀裂から1人の男が現れた。
頭上の輪はボロボロに崩れ落ち、純白だったであろう羽は黒く穢れ、両目を血のように赤黒く染め上げ、幽鬼のような表情で佇む堕天使だ。
「不死鳥よ。このような局面になっても、俺はこの世界を終わらせなければならない」
「それは本当にお前の感情か?いや、断言してやろう。それは世界の意思であってお前の物では無い。誰の受け売りでもなく、己の物でも無い信念で世界を語るな。この世界はその程度の物に蹂躙されて良いほど落ちぶれては居ない」
「不死鳥。貴方も苦しむ者達の声を聞いたはずだ。俺たちや神に助けを求める、蹂躙されし者達の声を。 俺はそれに応えなければならない。たとえ今、この感情が俺の物で無かったとしても、いずれ俺が抱くことになる物だ。 争いの根絶。恒久的平和のために、今は悪を蹂躙しなければならない」
「聞いたさ。しかし、その声はほぼ全てが人間の物だ。奴らは魔物達よりも強欲で愚かしい。それを正しく導くのがお前の役目ではないのか? ……いまお前がやろうとしていることは悪の根絶ではない。ただのリセットだ。やり直してもこの先は必ず同じ事が起こるだろう。 何故なら、まず目標が間違っているからだ。争いの無い世界だと? そんな物はディストピアに過ぎない。 そんな物は狂っている」
「……どうしてもわかり合えないか。ならば、力を持って俺の正しさを証明してやる……!」
堕天使から強烈なプレッシャーが放たれる。
しかし、私は身構えない。
「どうした不死鳥よ。貴方も己が信念を貫き通すのではないのか?」
「……戦う気が失せた。お前のせいでな」
次回で過去編が終わります。 滅茶苦茶長引いたな…。
クッソどうでもいい話ですが、私、うどんが好きなんです。
でも、理想が高すぎて自分の作ったうどんで満足できないんですよ。
ぜったい皆さんもこういうジレンマ的な奴感じてるよね。
次回更新は1月5日(金)の20:00予定です。