過去編:狂戦士
迫り来る獣の軍勢。待ち受けるのは気高き魔物の同盟軍。その最前線に立つ、2人の少女……少女(?)がいた。 とは言っても、片方は原形をとどめておらず、紅蓮の火炎を放つ黒き竜となっているが。
無尽蔵にその数を増すモンスターの軍勢。ツバキと私だけで、討伐数は既に5桁に届こうとしていたが、一向に減少の兆しが見えない。 こちらの被害は増え続け、次第に総戦力が低下している。
しかし、私やツバキはともかく、他の魔物達は引くわけにはいかない。 なぜなら、我々の背には、それぞれの故郷があるからだ。
龍族の里は一番中央、モンスター達が湧きだしている地帯に近く、既にモンスターの軍勢に飲まれただろう。 己が種族を見殺しにしたツバキは、その時何を考えていたのだろうか。
とにかく、今はツバキが空中の敵を、私が地上の敵を一掃しているところだ。 私の弱点として挙げられるのが、魔力は全快しないと言うことである。体力はどれだけ回復しても、魔力が足りなくては魔法もスキルもロクに使えない。
そう言う点もあって、実は私は集団戦が苦手だ。 つまり、全部潰してやる、だとか啖呵を切ったは良いが、持続力がなさ過ぎてどうにもならないのである。
なお、絶賛魔力枯渇中。 こうなってしまっては、白夜極夜に魔力を回す分には回復量で補って余りあるが、断界奥義の使用は不可能。大切断のような低消費の技さえ使用することが出来ない。
要するにピンチである。
「ツバキ!私を助けてくれ!!」
「ハァ!?僕にもそんな余裕無いよ!死なないんだから死ぬまで死にかければ良いでしょ!?」
無様な救援要請すら無情に切り捨てられてしまった。
こういう場合、一見詰みに見えるが、私には秘策がある。
昔戦った相手からパクったスキルに、“狂戦士の魂”と言う物がある。 体力か魔力が限界の時に発動でき、一定時間だが、自身を超強化するのである。勿論、文字通りに理性は消し飛ぶが、回復力が異常な物となり、魔力枯渇も補えるのだ。
恥ずかしいから、出来ることならば是非使いたくない。 しかし、押されている現状、使わざるを得ないのは自明の理。 恥ずかしさと共に押し切らせて貰おう。
「うおおおおおおおおおおっ!!」
必死にこらえようとしたせいで、微妙な雄叫びになったが、この雄叫びを皮切りに、私はバーサーカーと化す訳だ。
もはや視界に映り込むのは敵の軍勢のみ。手にした武器など必要ない。特攻あるのみだ。
素手で走り出す私が通った後には、爆発系の魔法にも匹敵する威力の拳や脚撃によって飛び散った肉片のみ。前方にはまだまだ大量の肉塊が残っている。
「大覇拳!!」
深く引いた拳に、崩壊を元にして様々な効果を練り込んだ魔力を纏わせ、一撃の元に打ち出す。
大切断と対をなすこの奥義は、一撃の破壊力こそ劣るものの、制圧範囲としては数倍を誇る。
バーサーカー化の影響もあって、モンスターが耐えられる要因は、無い。
ぱんぱんに膨らんだ風船に針を突き刺したかの如く、前方広範囲の集団が弾け飛び、肉片が宙を舞い、辺りに赤い雨を降らせた。
吐き気を催すような光景の中、次の玩具を求めて不敵な笑みを湛える様は、まごう事なき狂戦士。
その狂戦士は、穴を埋めていくモンスターの数を見て、喜びを感じた。 あぁ、動かなくても向こうから死にに来てくれるのか、と。
傍から見ると、いや、見なくても分かるとおりの厨二……とても格好いいシーンだが、本人が一番それを感じているのであった。
残った数少ない理性が考えること。 あぁ、使わなきゃ良かった…。 痛い痛い痛い…。 ア゛ア゛アアアアア…。
年内に過去編終わりませんでしたね。もうちょっと続くんじゃ。
次回は1回お休みして、1月1日の更新とさせて頂きます。
少し早いですが、皆様、よいお年を。