過去編:決戦の火蓋
元凶の元へ乗り込むとは言ったが、実は少し悩みどころなのだ。
奴が引きこもって居るのは、監視者のみがアクセスできる次元の狭間だ。 私であれば突撃する事も出来るのだが、世界への影響が大きすぎる。 世界を守ると決めたのだ。自分から壊しに行くような行動は出来ない。
だが、奴が狭間からモンスターを解き放つためにこの世界にアクセスするときも、同程度の衝撃が発生することを考えれば、奇襲をするのもアリだろう。
ちなみに、私が乗り込むと、人間とモンスターが一気に大地を蹂躙し始めるはずだ。 人間とモンスターも敵同士なので、この表現は適切ではないかも知れないが、とにかく頼れるのは例の同盟のみだ。
口下手なせいであまり良い軌道に乗せられなかった事を考えると、その中でも頼れるのは、某3人とツバキのみ。 あの3人は種族代表だが、ツバキは今、どういう立場になっているのかもよく分かっていない状況だ。
更に言えば、敵の実力は未知数。 勝てるかどうかも分からない。
……ちょっと早まったか?
いや、時間が無かったから仕方の無いことだ。 最初は私も滅ぼすつもりだったし、行動に移り始めるのが遅かったというか…。 まぁ、いいや。 どうしても無理だったら、私が責任を持ってやってしまおう。
どうせそんなことにはならないだろうけどね。 何よりも、一番ツバキたちを信じているのは私なんだから。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
……やられたぜ…。
空はかつて無いほどに淀み、イバラのような、みみず腫れのような不気味な模様が浮かび上がっている。
そして、突如として空中に出現した黒い扉からは、溢れんばかりのモンスターが…。
早くない!? 特攻かける準備してたらこれだよ! ちっくしょう。今はツバキ達の元へ急がなきゃ。
炎のような翼で空から見下ろす光景は、まるで酷い物だった。
あちらこちらで火の手が上がっているのは言わずもがな。しかし、それとは少し色合いの違う赤も、大地には見て取れた。
ツバキを探し回っていると、膨大な量の群衆が視界に映り込み始める。
獣人、エルフ、スケルトン、ドワーフ、サキュバス……その他諸々の種族が1ヶ所に集結しているのが分かった。
そして、その中心には……。
「我が同胞諸君!今こそ武器を取れ!!この世界は我らの世界!!この絶望的な状況を覆す力は、既に我らの手の中にある!! この場において、種族などは関係ない。“魔物”の未来のために、今こそ立ち上がるのだ!!」
各種族のリーダーに囲まれ、大声を張り上げるツバキがいた。 大衆は、ツバキの気迫に同調し、その士気を極限まで高めている様子。
……なんだ。私は要らなかったな。 これで、心置きなく野郎を叩きに行ける。
さて、最後にちょっくら士気の貢献でもしてやりますかね。
こうしている間にも、モンスターは増えつづけ、今や空を覆い尽くすほど、大地を別の色に染めるほどにふくれあがっていた。
しかも、その一体一体が、中堅レベルの強さを持っている。 私からしてみれば相手にもならないが、駆け出しからすれば十分な脅威になり得るだろう。 そして、数の問題もあり、この規模になると達人クラスでも厳しくなってくるはずだ。
「大切断!!」
私から見て前方の集団が、瞬時に肉塊と化す。 しかし、すぐにその穴はふさがっていった。
おお、数が多すぎだろ。ここまでかい。
もう一撃、と思い、剣を振り上げたときだった。
「皆の者!!誇り高き不死鳥に続け!!我らの活路はすぐそこにあるぞ!!」
呼応するかのように、私の後ろからは、猛り狂ったような気迫を放つ集団の気配を感じる。
どうやら、ツバキは私に気づいていたらしい。 ……ん?続け、って言ったか?
つまり、多すぎてヤバいから手伝って、と。まぁそう言う事なんだろうな。
あの勇敢な姿の裏でもの凄く焦っているツバキを想像したら、なんだか気が軽くなってきた。
それじゃあ、私の強さを見せつけてやるとしよう。
奴が用意したモンスターを全部潰して、ドヤ顔で乗り込んでやる。
……そのほうが、彼も救われるだろう。
こうして、決戦の火蓋が切られたのであった。
スキー行きた過ぎて禁断症状がががが。
でも忙しすぎて行けない事件発生中。
次回更新は12月29日(金)の20:00予定です。