過去編:嵐の前の静けさ?
無言の中、花畑の中央付近にある、大きな岩の元まで進み、そこにひょいっと腰掛ける。
「ツバキ、私はこれから殴り込みをかけに行ってくる。 勝って帰って来た私は多分、奴と同類になっているはずだ。 だから、私を倒してくれる?」
「ハハ…冗談きついよ…。アイリスが敵になる?無理無理。死なない奴をどう倒せと…。」
確かにその通りだ。私の特性について知っていなければそう思うだろう。
「生憎、私の不死は常に発動してるスキルの影響なんだ。勿論解除も可能。 奴を倒したら、なんとか外しておくから、そこを殴ってくれ。 不死さえ無ければ私は、もの凄く武装した豆腐のようなもんだ。 ツバキが一発殴れば間違いなく死ぬ」
「……本気…なの…?」
そんな辛そうな顔をしないでくれ。私だって辛いんだ。 どこに自分を殺してくれなんて頼む救世主がいるって言うんだ。
まぁ、私は救世主にもなりきれないだろう。 我が儘の尻ぬぐいをさせるガキと言った所か。
「なんで僕に頼むの…?他の誰だって良かったじゃないか…。」
「私は、こんなに短い間だったけど、ツバキ、君のことを親友だと思っている。不思議なことに、君といると何でも楽しかった。苦手なお風呂だって、まぁいいかと思えるようになった。 だからこそ、君に頼むんだ」
顔を押さえて嗚咽を零すツバキ。
「ほら、それじゃまた泣き虫に逆戻りだ。でも、仕方ないことかもしれない。私だって泣いてみたい。 でも、今ここで涙に甘えるのはまだ早い気がするんだ」
「まったく、アイリスはいつもいつでも厳しいね…。怖いったらありゃしないよ…。」
ゴシゴシと涙をぬぐい、真っ直ぐ私の瞳を見上げるツバキの顔は、先程までとは違って見えた。
それは…決心に満ちた…とでも言うような、凜々しい顔つきだった。
この短い時間の間に心の整理をし、覚悟を決める。 ツバキは恐ろしく強くなれるだろう。それはもう、素で私を超えられるくらい。 勿論精神面の話だが。
「アイリス、私も連れて行ってくれる?」
「残念。一般人は立ち入り禁止です」
「まぁ、そうだろうと思ったよ。僕もこっちはこっちで出来ることをやる。 お互い頑張ろう。」
固く、握手が交わされる。 ツバキもなんだか吹っ切れたみたいだな。
さて、私はあの糞野郎を引きずり出してきますか…。
「あ、そうそう。」
歩き出した私を、ツバキが呼び止める。
「アイリスはこの花畑に埋めてあげるよ。ご希望のお花は?」
「……冗談きついわ…。……彼岸花が良い。あれ好きなんだ」
「それじゃ、椿と彼岸花をセットで植えてあげるから、楽しみにしててね。」
「……言ってろ…」
満面の笑み。全く、馬鹿にしやがって…。
そろそろ過去編もお終いです。
さぁ、明日の改稿作業、本気を出すしか無さそうだな……。
次回更新は12月25日(月)の20:00予定、本編はお休みでクリスマス特別会です。