お食事
素材とお金を受け取り、立ち去ろうとしたところ、後ろからエドワードさんに呼び止められる。
「ツボミ様、もしよろしければご一緒に食事でもどうです? 少々貴方と話してみたいと思いまして…」
ふむ。そうだね。お腹も空いていたしちょうど良いね。
「是非ご一緒させてください」
「それではご一緒願えますかな?良い店があるんですよ」
それはギルド街から少し住宅街に入った所の裏路地に入り口を設けた、いかにも“知る人ぞ知る”といった雰囲気を漂わせる店だった。
中に入ると、まさに老舗と呼ぶのがふさわしいような内装になっていて、お客さんは若い人よりも、落ち着いていて風格のある人が多い感じだった。
私とエドワードさんが席に着くと、店員のおじさんが水を運んできてくれる。
「ツボミ様、私のおすすめはこのプチボアのローストですね。胡椒ベースの塩だれが美味しいんです」
塩だれか。ってかこの世界、食品系とか食文化が日本とそんなに変わらないんだよね。お米もあったし、味噌や醤油なんかも売ってた。
「ではそれにします」、と答えると、エドワードさんが二人分の料理を注文してくれた。
食事を待っている最中に、エドワードさんとの会話が始まった。
「ツボミ様はどのようにして、あのように傷一つ無くアームドマンティスを倒したのですか? 最初に見たときから不思議だったのです」
「闇属性魔法を使いました。アレは外傷を与えないので、素材には良いかなぁ、と」
それを聞いたエドワードさんが一瞬だけ、不思議そうな顔をする。
「闇属性魔法といえば、熟練の魔道士か、伝説の魔物にしか扱えないと聞いております。しかし、あの素材からして、それは本当なのでしょうな。 本当に貴方は一体何者なのですか?」
マジか…。墓穴掘ったかもしれんな…。 一体なんて答えようか…。
「いや失敬。深い詮索はよしましょう。それよりもツボミ様のおかげで我がギルドにも一気に利益が出そうです。お礼をしたほうが良さそうですな」
私が答えずらそうにしていたのを察してくれたのか、エドワードさんは話題を変える。
「ならばお礼としてこの辺で一番良い武器屋を教えて貰えませんか?」
「お安いご用ですよ」
なんでも、この辺には数カ所に武器屋があるらしい。
その中でも一番腕の立つ職人がいるのはギルドの裏の通りにあるエドワードさんの知り合いがやっている工房。 モンスターの素材を使わせたら右に出る者は居ないと言われる職人さんがいるらしい。
職人さんのお名前はガリスさん。ドワーフだと。
アームドマンティスの素材で作って貰おうと思っていたし、ちょうど良いな。早速明日向かおうか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
頼んでいた食事が運ばれてきた。
肉の塊はきれいに7つに切り分けられており、上から胡椒と塩だれがかかっている。 そして、外側は茶色に、中は美味しそうな赤色に染まり、非常に食欲をそそる。
見ているだけでお腹が空いてきたので、一切れ口に運んでみる。
「美味しい…」と思わず口から出てしまうほどに美味しかった。
口に入れた瞬間に広がる塩と胡椒の味。そしてすぐに追いついてくるように濃厚な肉の味が広がる。
噛めば噛むほど味が出てくるような肉はしっかりとした歯ごたえで、塩だれと不思議なくらいにマッチしている。
流石はギルドマスターだ。こんな美味い店を知っているとは…。この一瞬で、また来ようと心に決めた。
食べ終わった後、エドワードさんにさりげなく聞いてみる。
「もし人間と戦争が起こったらどうします?」
「……ふむ、難しい話ですな。 私はできるだけ人間とは助け合って生きていきたいのです。人間達も、そう考える者も多いのでは無いでしょうか。……とは言っても、あまり交流も無いせいで、詳しくは分かりませんけどね」
「教えて頂けますか?」
「……何か訳ありなのでしょう。分かりました。 私が聞いたところでは、どうやら魔物を保護する派閥と迫害する派閥が対立しているようでして、5つの大国で睨み合っている状況なのだとか。 しかし、やはり擁護派は少数派でして、あまり優勢では無いようです」
「そうなんですか……」
やはり状況は良くないか……。まぁ良かったら戦争も起こらないだろうしね。仕方の無い話だ。
「そういえば、最近それぞれの国が“勇者”と呼ばれる者を掲げたのだとか」
「……勇者、ですか?」
「名前に主だった意味は無いらしいですよ。伝承から引っ張ってきているだけのようですから。 それぞれの国で優秀な人材を選び、各国一人づつを選出したらしいです。 何の意味があるのかは分かりませんがね」
……どうせ1つの国が掲げたから勢力的に劣らないように周りの国も掲げたとか、そんな感じだろう。
と言うか、そんな感じであってくれ。面倒くさいのはお断りだ。
「先程の質問に答えますが、もし戦争になっても、私は一切容赦はしません。自分たちの身は自分たちで守る。そして仲間に危害が加わるならば、全力で助太刀する。それが魔物の在り方ですからな。 しかし、やはり被害は少なくはないでしょう。出来るだけ戦争は避けたい物ですな…」
「……そう、ですよね」
エドワードさんの言うとおりである。そして、その戦争を潰すためにも私が居る。
「もし、戦争で魔物が勝利したらどうします?」
「少なくとも私はどうもしませんよ。ただし、先程も言ったように、戦争ともなれば犠牲者は出るでしょう。恨みを抱く者も少なからずいるはず。そういった者が敗者を虐げることはあるかもしれませんな。 ただし、この町においては、この私がギルドマスターとして責任を持って阻止しますが」
エドワードさんかっこいいなぁ…そうだよね。
とりあえず、早急に人間側の様子を見てきた方が良いかもしれないな…。
危険因子が力をつける前に芽を摘んでおくのだ。そのためには“力”が必要になる。
まずは武器、そしてスキルとレベルだ。 頑張ろうじゃないか。