過去編:模擬戦
成り行きでツバキとの模擬戦が行われることになった。 実力把握のためにも、まずは一度全力でぶつかろう、という事である。
勿論疑似空間を用いるが、ルールとしては明後日の大会と同じものを用いることになった。 まぁ、ルールと言えば聞こえは良いだけで、実際はただの無制限だが。
「そっちからおいで」
開始の合図が鳴っても、両者とも動き出さなかったので、ツバキを急かす。 どうやらどちらも様子見型らしい。
「冗談。僕はてこでも動かないよ。アイリスから来な?」
……まぁそれもどんなもんなんだろうか。 まぁ埒があかないし、私から行くか。
やれやれ、と行動で伝え、動き出す。 瞬きを行った私の視界に、次に映り込んだのはツバキの背中だ。
とりあえず白夜を振っておくが、ツバキは驚きながらも飛び退いてそれを回避した。 流石の瞬発力と言った所か。
「ちょ、そんなのアリ?」
様子見に撃った絶影も、ツバキを困惑させるのには十分なインパクトだったらしい。
しかし、これではツバキの技が分からないな。 少し優しくしてやろう。
大きな動作で白夜を振りかぶり、ツバキに向かって走る。 もちろんツバキは、その隙を見逃さなかった。
「黒龍拳:肆ノ型!『焔流』!!」
私の腕を逆手に掴んだツバキは、投げ飛ばすように私を斜め後ろへ受け流し、後頭部めがけてハイキックを繰り出す。
瞬間覚醒を用い、即座に振り向いて回避するが、ツバキは既に私の懐へと潜り込んできていた。
「黒龍拳:壱ノ型!『砕牙衝』!!」
拳に集約された魔力が、回転を伴って腹部に叩き込まれ、体内で破裂する。 勿論、中から破壊された体は弾け飛ぶが…。
私の腹部は突如燃えさかった炎と共に再生され、元の状態へと戻った。
「おぉ、今のは結構痛かったね」
「……人が一撃で締めようと、全力で撃ち込んだってのにこのバケモノは…。」
酷い言われようだな。否定しないが。
今の一撃で得た物がある。とりあえず、私の能力説明もかねて、お披露目するとしよう。
「黒龍拳亜流。『崩牙衝』!」
先程の砕牙衝と同じような攻撃。 しかし、纏う魔力は赤黒く染まった負の魔力だ。
不意打ちを受けたツバキはなんとか躱すも、魔力が皮膚を掠めてしまう。
「…ッ!痛っ!」
ツバキの左腕の魔力が掠めた部分が激しい火傷でも負ったかのように爛れて行く。
「それが私の力。魔素崩壊の現象を引き起こす負の魔力だ。 それともう一つ。私には、一度見た攻撃を自分用に最適化し、完璧に習得するスキルがある。 これが私の強みさ」
「……それプラス不死でしょ? 存在が超常現象なんだけど?」
面白い言い回しをする子だ。罵倒や皮肉の一言一言がバラエティに富んでいるな。
「そろそろ実力把握は終わりにしとく?」
「まぁ、無難かも。これ以上続けても意味無さそうだし。」
そんな流れになった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「稽古って言っても、ツバキに足りない所は特にないかも。 速度も破壊力も戦略性も、不意打ちへの反応もしっかり出来てるし、流石特訓を積んだだけはあるね」
「いやいや、まだまだ足りないよ。アイリスくらい強くなるにはどうしたら良いの?」
……種族を変えるしかないんじゃ無いかな…。
「努力あるのみだと思うよ?」
まぁそんなことは言えないので、曖昧にしておく。
しかし、ツバキの向上心は私の予想の上を行った。
「じゃあ、大会まで組み手につきあってよ。どうせ暇でしょ?」
……実力把握も出来たし、早めに切り上げて観光と洒落込みたかったんだが、仕方ないな。
私は優しいからね。頑張ってる人にはとことん付き合ってあげましょう。
この過去編、結構早めに切り上げるつもりだったのにダラダラと続いてきてますね…。
当初の読み通り(キリッ)
だいぶ雪も積もって参りました。スキー場開きはまだでしょうか。
次回更新は12月14日(木)の20:00予定です。