過去編:同盟
突如として目の前の空間が真っ二つになったかのように切り裂かれ、そこに空気が流れ込むような背後からの暴風に襲われる。
「ツバキ!今だ!」
アイリスが叫ぶ。
だが、こんな状況どうしろと。 冷静に考えて、拡声魔法使って何をしろと言うんだ…。
僕が困惑している間にも、アイリスの元へと他の兵士達は集まって行く。
どうすることも出来ずにただそれを見ていると、アイリスはやれやれ、と言った様子で声を上げた。
「諸君!剣を納めて聞くが良い!!我が主からの提案だ!!」
そのままこっちを見てくる。
……あぁもう!ヤケクソだ!! なんとかすれば良いんだろ!
背中に翼を具現化し、そのまま空中へと飛び上がる。
「皆の者!僕は龍族の長だ!!今回は、とある協定を持ちかけに来た!! この戦争の裏で手を引く者を、共に打ち倒そう!!」
我ながらクソみたいな演説だった。 いや、短すぎて演説とも呼べないだろう。
そう思った矢先だったが。
「おい、その話は一体どういうことだ? 俺たちは誰かに踊らされてるとでも言うのか?」
熊人達をかき分け、奥からひときわ大きな体格の熊人が現れた。 熊人族のリーダーである。
「それは聞き捨てなりませんね。 私達はそんな輩のせいで食料争いを余儀なくされていると?」
同じように、鳥人族側のリーダーも現れる。
おお、ハッタリってやってみる物だな。 こうまで上手くいくと、相手の頭を疑うレベルだ。
いいや、違うな。本当の戦いはこれからだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
内戦は一時中断され、中央部に仮設の建物が作られた。 そこで、両獣人族と僕達の会談を行うのである。
……皮肉な話だが、僕は今、初めて長らしいことをしているな。 別に一同を代表している訳ではないので長の仕事ではないが。
「して、先程の話は本当なのですか?」
まず口を開いたのは鳥人族のリーダー。 鳥人族のリーダー、とかは長ったらしくて仕方ないが、同盟者以外には名を明かさない風習があるからこれは仕方がない。
「ええ。信用してもらって構いません。」
あくまで具体的なことは話さない。鉄則である。
ちなみに、アイリスは僕の後ろの壁に待機している。 あくまで配下役を演じるらしい。
「だが、龍族もつい先日、人間と戦争しただろ?」
うっ、痛いところを突いてくるな。 流石は一族を纏めるリーダー、と言ったところか。
「……恥ずかしい話ですが、我々の種族は“奴ら”の侵略を許し、洗脳などによって今はほぼ傀儡状態。 逃げ延びることが出来た者はごく少数なのです。」
出来るだけボロが出ないようにするために演技風で話す。
だが、果たして良いのだろうか。 これは…仲間を売っているような物では無いのか? 国が危機に陥っている事を明かしてしまうのは、明らかに危険ではないだろうか。
……まぁ実際危機に陥ってないから良いか。
「なるほど。それで多種族と手を組もうと?」
「ええ。奴らを早めに止めなければ、全ての魔物が、いいえ、人間までも危機にさらされてしまうでしょう。」
よくここまで言葉が出てくる物だ。 僕はもしかしたら演者の適性があるのかもしれない。
「我々はこの後、あらゆる種族を巡り、同盟を持ちかけるつもりです。 今のうちに手を組みませんか?」
「……ふむ。仮にそれが本当だったとして、我々のメリットは何になる?」
いやぁ、来てしまったか。 これはどうする…。困ったぞ…。
「食料問題の解決。全ての獣人が手を組み、連合という形を取ればなんとかなるだろう。 そのためのきっかけというのはどうだろうか」
後ろで無言を貫いていたアイリスがついに口を開く。
「ふむ。良いところを突きますね。 もし断った場合のデメリットは?」
「……」
アイリスは無言のまま、腰の剣を指さす。
「降参だ。 同盟を受け入れようじゃねぇか」
熊人族のリーダーが、両手を挙げ、椅子の背もたれによりかかる。
「我々もそうさせて頂きましょう。 全滅は嫌ですから」
……まぁ上手く進んだようだ。
流石はアイリスと言ったところか。 それに比べたら僕はダメだな。 もっとしっかりしないと。
そろそろ改稿作業を再開しようかな…
次回更新は11月30日(木)の20:00です。