大金
西の森は背の高い針葉樹がたくさんある森だった。
閑散とした場所や鬱蒼とした場所がちらほらあり、手の加わっていない自然の森といった印象を受ける。 倒木なんかも多いので、足下に気をつけて進まないと危険だろう。
人間の姿での戦闘は初めてだ。感覚をつかむ的な意味でも、あの戦法が良いかもしれない。
そう。『超化装甲つけて物理で殴る』だ。だって便利なんですもん…。
私がそんなことを考えていると、右前方から「ガサガサ」と音が聞こえてきた。 良く目を凝らしてみると茶色くて小さくて丸っこい生物が3匹見える。
超化装甲を発動して準備をした後、魔眼で対称の確認をする。
【プチボア】
Fランク 繁殖力が高く、凄い速度で増える。臆病な性格。肉はかなり美味。
なるほど、と言う事はこの依頼自体、間引きのような意味合いもあるんだろうな。
あまり欲張る意味も無いので,依頼どおり確実に一体仕留めよう。
地面を踏み切って全力で駆け出す。確かにありえないくらい早いが、小回りも良く効く早さだ。
こっちの姿はかなり反射速度が良いらしく、木々や倒木もしっかりよけられる。
プチボアは、私に気づいた瞬間に脱兎の如く逃げだそうとするが、私のスピードから比べれば、それは遅すぎた。
特に武器も無いので、中央にいた一匹を思いっきり蹴り上げる。
小さな体が宙を舞った後、木に激しく衝突してぴくりとも動かなくなった。
ヤバいな…。動物保護団体にブチ切れられそう…。
さっさと回収して帰ろ…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
特にお腹も空いていないが、せっかく人型なので、ご飯を食べようと思い、昼と同じ食堂に向かった。
食堂の中は、夕飯時だけあってかなり賑わっており、様々な喧噪が飛び交っている。
どうやら今は満席で、少し待つ事になるらしい。……先に依頼の報告してくるか。
受付近くまで来たが、なにやら受付のお姉さんが、私に向かって手招きしているのが見えた。
「ギルドマスターから伝言を預かってます。『予定より早く解体が終わったので倉庫に来てください。ギルドカードもその時に。』ですって」
なるほど、それでか。
ならば早急に向かうとしよう。待たせるのは悪いからな…。
受付のお姉さんにお礼を言って、早速倉庫に向かうことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私が倉庫に入ると、丁寧に仕分けられたアームドマンティスの素材が陳列されており、それに囲まれたエドワードさんとリカルドさんがいた。
「よぉ。待ってたぜ。解体終わってるぞ」
「ツボミ様は武器作成に使用するとの事でしたので、それ関連の素材以外で買い取りたい物をリストにしました。確認して貰えますか?」
エドワードさんから1枚の紙を手渡される。 ふむ、どれどれ。
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買い取り素材
・甲殻 10枚 金貨30枚
・足 4本 金貨40枚
・肉 全て 金貨30枚
・眼球 2つ 金貨42枚
・頭殻 1つ 金貨30枚
・解体費 銅貨 3枚
・計 金貨171枚
銀貨 9枚
銅貨 7枚
ツボミ様用の素材
・甲殻 26枚
・大鎌 2本
・薄羽 2枚
・大羽 2枚
・触覚 2本
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……困惑せざるを得ない。1,719,700円? 171万9千7百円? 実感湧かないなぁ……。
もしかして全部売ったらサラーリーマンの年収くらいあるんじゃ無かろうか…。
肉って、こいつ食べれるのかな。それとも、他に何かに使ったりするんだろうか。
「これで大丈夫でしたら、今すぐにお金を持って来ますよ」
「ええ。全然大丈夫ですよ。こちらこそお願いします」
「姉ちゃんいい収入だな。また面白いモンもって来いよ」
エドワードさんはぺこりと一礼して、ギルドへと向かい、リカルドさんは腕を組んで笑っている。
少ししてエドワードさんが麻袋を4つ持ってきた。
「こちら二つは金貨です。こちらはそれぞれ銀貨、銅貨となっています。ご確認ください」
「いえ、信用してるので大丈夫ですよ」
「そうですか。ではお受け取り下さい」
お礼を言って、袋をインベントリにしまい込む。
いきなり大金を得てしまったな…使い道が思いつかない…。