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魔物で始まる異世界ライフ  作者: 鳥野 肉巻
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過去編:出会い




 追憶の祠。それは己の失われた記憶を呼び戻す場所。己の願いによって胎児の頃、果ては前世の記憶までをも蘇らせる事が出来る場所だ。


 前世の記憶まで蘇ると言うことは、死亡時の時の事まで呼び起こされると言う事で、それ故に発狂してしまう者も多く、今ではトップシークレットとなっているようだ。



 うぅむ、こんな森の中じゃ分からんわな。ただでさえ魔物も人も来ない中立地帯だ。


 外観は既に廃墟も通り越した遺跡のようだが、本当に記憶を蘇らせることが出来るのだろうか。



 内部に踏み込むと、そこは外観からは想像も付かぬほどに整った造りで、床や壁には一切の塵や埃が無い。 一体どういう構造になっているんだろうか…


 私が更に奥に踏み込もうとしたその時だった。


『汝が求むる過去。夢想や理想に飾られた世界を覗くためか。懊悩や窮愁を超えるためか。』


 虚空から響いた重々しい声は、祠の内部を反響し、何重にもなって私の耳に届く。


「……誰だか知らないけど、私がここに来たのは過去の大戦についての記憶を呼び起こすためだ」


『汝の中にその記憶が眠ると申すか。果たしてそれは虚偽か。それは真実か。』



 ……面倒な話し方をする奴だ。ストレートに「何故それが分かる」と聞けば良い物を。


「私の中にはその時代を生きた者が居る。それ以上でも以下でも無いさ」


『良かろう。汝が過去を欲するならば祭壇へ。汝が過去に微塵でも恐れを抱くならば元来た道へ。』


 それ以降、声は聞こえなかった。


 祭壇…きっと中央部にあるのだろう。向かうとしよう。




 ………ここだろうか。いや、ここだろう。


『腰掛けよ。汝の求むる者はそのすぐ先にある。』


 部屋の中央にぽつりとある椅子。 罠かどうかなんて疑うのは野暮という物だろう。


 私はその椅子に深く腰掛け、その時を待つ。


『汝の過去にかかる暗き雲海が晴れる時だ。さぁ、向かうが良い。』


 響いた声と共に、私の意識は闇に堕ちていった。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 




 不死鳥は見下ろしていた。 小高い山の上から、平地で衝突する二つの軍勢を見下ろしていた。


 西からぶつかるのは龍族を中心とした魔物達。東からぶつかるのは人間の一国だ。



 この数年、世界は変わってしまった。


 嫉妬や欲望が絡み合い、大戦と呼ばれる、この戦いが始まった。 それに呼応するかのように空を薄暗い雲が覆い、食糧問題にも危機を与えた。


 とある女神によって生み出され、永い年月を生き、世界を監視し続けた私は、徐々に“世界の意思”に浸食され、この身の内側に、破壊衝動を抱き始めた。


 それは、この歪み果ててしまった世界自身に対する破壊衝動だった。 人が人の上に立つ者を生み出し、人が人を統治し、階級が生まれ、国という集合体が誕生した。


 今思えば当然の事かもしれない。 だが、私にこの意識を与えたのはこの世界に住む大衆の意思。 どれほどの者が虐げられてきたかの証明だ。


 他者の上に立つ者は大半が傲慢だ。 自らの欲望に忠実に動き、己よりも力や権力の無い者を塵芥のように扱う。


 その思考、強者の意思、敗者の意地、それらが大戦を引き起こしてしまったのかもしれない。 だが、そのような事を愁いても、憂いても、後にも先にも変わらない。



 ……今回の衝突は魔物側の大勝らしい。 いや、内戦や紛争も起こっているのだ。魔物側という表現は適切では無いだろう。


 それにしても今回は早かった。一日戦っただろうか。その程度で人間の国が1つ、あっさりと滅んでしまった。 命という物の脆さは、まるで緻密なガラス細工のようだ。吹き荒れる崩壊の一撫でによって、簡単に壊してしまえるからこそ、そして私は壊れないからこそ、それを強く感じてしまう。




 先日、神託とでも言うべき物が下った。


 このような破壊衝動を抱いてしまった者に、異世界の神の力を渡すとは、これまたおかしな女神様だ。


 その変わった女神様は、私にこの大戦を“崩壊”という形を持って終わらせろと言った。 そういえば、ただの監視者で良いならば崩壊の力などは必要ない。もしや私はこう言った場合の抑止力として生み出されたのだろうか。


 まぁ、今まで通り傍観を決め込んでいられない事は事実だ。いつぶりかは分からないが、私も動くとしよう。


 まずは…そうだな。 勝利を収めた龍族の元へと向かおうでは無いか。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 




 何故、皆は争うのだろうか。


 龍族の長は静まりかえった闇夜の中、1人涙を零す。


 最近、新たな長となったその少女は、龍族一の力を持つにも関わらず、好戦的な龍族には珍しく、争いを嫌う心を持ち合わせていた。


 そして、戦が終わった日には必ず、夜な夜な抜け出して戦場に戻り、亡くなった仲間や敵だった者に追悼を捧げるのだ。



 ……僕がもっとしっかりしていれば争いだって減らせるはずなのに…。


 ………僕は弱虫だ…。…だから配下に良いように動かされてしまう…。


 ………本当は強い心が欲しかった…。……こんな力なんて要らなかったのに…。


 確かに僕は強くなるため、沢山の特訓をした。 でも、それでは臆病さをたたき直すことは出来なかったんだ。



 追悼を終え、顔を上げる。


 その時、僕の気配感知スキルが、遠くから近づいてくる者を捕らえた。 戦場で感じた強者達の者に類似してはいる、しかし遙かに桁違いな圧力を持った気配だ。


「へぇ、龍族の長はとんでもない泣き虫で臆病な女の子だったんだねぇ」


 僕は振り向いていないうえ、ピクリとも動いていない。 それなのに、この声の主は自分が見つかったことを感じ取ったのだ。


 怖い。恐ろしい。 振り向いたら殺されてしまうような、そんな圧力を孕んだ声だった。



「君はこの世界のこと、どう思う?」


 声の主は静かに語る。 しかし僕は、自分の首に鋭い刃物が突き立てられたような、そんな殺気を感じ取ってしまった。


 返答を誤ったらどうなるか分からない。 でも僕は生き延びなければいけないんだ。 僕だって僕なりに理想を抱いているのだから。


「……僕は…こんな世界を一切合切変えてしまいたい。この世界から争いや支配を無くしたいんだ。」


 その瞬間、大気から圧迫感が消え、首筋からすっと刃物が引いていった。


 そして、僕の前には赤い髪の女性が現れた。 肩を掴まれ、体を反転させられたのだ。


「私と、手を組まない? この世界を崩壊させるために」



 ニッコリと微笑むその女は、とても恐ろしかった。




ついに始まった過去編、別名アイリス編です。

アイリスは個人的に好きなキャラクターなので、もしかしたらこの過去編、そこそこ長引くかもしれません。

最近手をつけられていない改稿作業はもうちょっと待ってね…。


次回更新は11月26日(日)20:00です。


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