始まりと悲運、そして転移
※今回は転移前のプロローグとなるため、大きなアクションや盛り上がりは微塵もないためご了承ください。今回は過激な描写は有りません。
よく晴れた朝。
放射冷却の所為だろうか、いつもより少しだけ冷たい空気が肺を満たしていく。
顔でも洗おうかと洗面台の方へ足を踏み出す。が、それを待ち図っていたかのようなタイミングで聞き慣れたの声が鼓膜を震わす。
父親だ。
「スミレ?もう起きたのか」
そう、平均的な身長で平均的な持久力。
ただ足が速いのが取得のごく普通の黒髪の青年。名前はスミレ、伊丹 菫だ。
ちょうど高校生くらいの歳だが、高校には入っていない。
成績がどう転ぼうがどのみち家業を継ぐ事になるのだ。いや寧ろそうするために、生まれてすぐから神主になるための教育を受けてきたようなものだ。
彼の神主としての技能と知識はもう殆ど並以上のレベルに達していた。
階位も既にそこそこ上の方だった筈だ。階位には興味がなかったので無責任にも覚えていない。
よって、学校へ行ったとしても勉強が怠いだけ。
彼は勉強はできる。確か高1の後半くらいまでは中二の時にマスターしていたはずだ。
入学=無駄だと踏んだが、それはどうやら正しい判断ではなかったらしい。
「うん。この通り起きたよ、おはよう。」
「おはよう。丁度良かった。少し鯉の様子を見てきてくれないか?冬だから餌はやらなくていい筈だけど、前の鯉を死なせてからどうも不安でな。」
「わかった。顔、洗ったら見てくるよ」
水は案の定ものすごく冷たいが、気にしない。朝の新鮮な水が顔を覆っていく。
鯉。親父のあれは完全に、神社っぽさ出したかった為だけに飼ったのだと思う。
前の時も、父親が浄化槽を手入れしていなかったから死んでしまったのだ。
自分で面倒を見られないなら飼ったりしなければいいのに。
足の代わりにされている感がどうにも否めない。
誰にも届かない愚痴を心の中で呟きつつ池に向かう。
池の様子を見る。
鯉は寒さを凌ぐために池の底にじっとしている。特に何の問題もなさそうだ。
そんな事を考えているとふと気づいた。
「…やけに暗いな」
今更だが自分が起きた時間が早すぎるということ気づく。
いつもスミレは23時に寝て6時前に起きる。が、現在腕時計が示す時刻は3時前。
ここまで早いと朝というより真夜中だがスミレは寝起きでそこに頭が回らなかったらしい。
先程起きていた父親はいつも4時に寝て7時半頃に起きてくるから念頭には置かずとも善しだが、早い、早すぎるのだ。
冬の3時、言わずと分かるであろう真っ暗だ。
彼は小さい頃から霊だとか化物だとか、とう言ったものが大の苦手。そうつまり…
「怖い…」
ビビりである。
早く中に戻ろう。
そう思ったのか彼は足早にそこを去ろうと足を踏み出した。
そして次の瞬間、事は起こった。
池の縁、ゴツゴツとした不揃いの石が所狭しと敷き詰められている。
暗くて足元の覚束無い中、そこに足を引っ掛けてしまい…
「うおっ!?」
視界がぐるりと回転する。
まずい、このままでは池にドボンだ。
字の如く、彼が縋るように手を伸ばした先は枝。
「危なかった…神木様々だな」
奇跡的に体勢を立て直すことが出来た。が、ここで気を抜いたのが大きな誤りだった。
この時、縁の石に足を乗せて大勢を保っていたのだが再度視界がぐるりと回転する。
「っ!??」
二度目の転倒が起こるなど考えてもいなかった。
驚きすぎて声にならない悲鳴を上げる。
どうやら足を乗せていた石には苔が生えていたらしく、今度は滑ったらしい。
そこでスミレは神木の根に強かに頭をぶつけ、
「……」
意識を失った。
リアルワールドっていう制約。+で主人公の設定を伝えなきゃいけない…いやこれ難しいですよホント。
まだまだ稚拙な文ですがよろしくお願い致します!