ラグナロク
「これは、なんだ・・・?」
昼休みだからおにぎりを片手にいつもの定位置、校舎裏の隅の巨木の下まで来ているのだが、何かのぬいぐるみ・・・? 形状は丸くて触った感じかなり柔らかい。結構使い古しみたいで所々、傷んでいるみたいだ。
ここは誰も脚を踏み入れない場所のはず、それは入学から1ヶ月に渡る偵察で確認済みだ。何でそんなことしたのかって? それは俺は孤高の孤独者を目指してるから。
だけど今、俺の聖域が侵されようとしている。この謎のぬいぐるみ
がその証拠だろう。4限の移動教室の時に廊下から見た時は無かったのに。昼休みが始まってまだ時間は数分しか経っていないのを考えると、この物の主はさっきまでここに居たのかも知れないな。我ながら名推理!
この場も潮時か・・・・・・。この場所は結構気に入っていたんだがな、巨木に『イグドラシル』と名前も付けて愚痴を聞いてもらったりもした。だけど人間が入った、去らねばな・・・・・・。
「しょうがねぇ今日は教室で食べっか」
教室へ戻ろうと振り返る、するとこちらへ向かってくる二人の敵影を確認した。男女だ。俺のブルーベリーによって研ぎ澄まされた視力が男のクラス章と女のリボンの色を素早く判断しどちらも一年であることを教えてくれる。
なんだリア充か・・・。待てよ俺どうすんだよ! どういう事かと言うと、教室に戻るには彼奴等とどうしてもすれ違うことになる。これがどういう意味か解るか?
昼休みにしかも人目のつかない校舎の裏で彼女でも友達でも良い、イチャイチャしてたときに、一人のおにぎり持った男子、この場合俺を見たらどう思うよ? 絶対「ボッチじゃん」「うわーかわいそう」だなんて言うだろ、同情とか馬鹿にするだろ?
俺はそれが嫌だから隠れることにした。イグドラシルに。大丈夫かと思うだろ? それが大丈夫なんです! このイグドラシルの上は葉が生い茂っていて、登ってしまえば外からじゃほぼ視認することは出来ないからなー! 急いでよじ登り、太い枝に腰掛ける。かなり高いな、地上から目測五メートルくらいだろ。
そしてリア充がどっかに行くのを待つが、どっか行くどころかコイツら俺のイグドラシルの下でうろうろし始めたじゃねーか。
「あー! ここに封印したはずの私のダー・魔君がいない!」
「ダー・魔君ってあのボロボロのぬいぐるみか?」
「ぬいぐるみじゃない! あれは私が黒魔法少女の能力を使うための魔力集合体」
「はいはい、ってかぬいぐるみなんか学校に持ってきてるのかよ」
「ぬいぐるみじゃない! 魔力集合体」
あの女の持ち物だったか。ダー・魔君は今、俺が大事に抱えて持っている。焦って、登ったときに一緒に持ってきてしまった様だ。
しまった・・・コイツを見つけるまで帰りそうに無さそうだがどうするかぁ、そうだ! 上から落とせば良い。この葉の茂り具合ならうまくやればバレずに済ませることができる。
俺はダー・魔君を落とした。枝にぶつかりながらぬいぐるみは落ちていく。そして光太? の頭にぽこっと命中! そのヘッドショットは俺の聖域を荒らした罪だ! 素早く太い枝にうつ伏せに貼り付く。
「痛っ! なんか上からってこれダー・魔君? じゃないか?」
「おー、ダー・魔君どこに・・・心配したよぉ」
「泣くなよ・・・。そもそも大切なら持ってくるなよ」
「いついかなる時にも戦闘に備えておかないとダメ、そうだ光太今日はこのイグドラシルで食べよう」
「ここでか? まあいいか。ここに腰掛けれそうだ」
やめろーそこは俺の席だ、ここで食べんな‼ 降りれないし・・・まだ昼食って無いわ! これは面倒臭いことになったぞ・・・
「光太はトマ・・・赤ゴブリンの卵食べれる?」
「トマトは平気だよ。けど食べないからな、せっかく真咲ちゃんが毎日作ってくれてるのに・・・羨ましい」
「む・・・光太は真咲が好きなの? 言っちゃお」
「ち、違うわ! 言ったら死ぬからな」
結局昼休みは木の上で過ごした。