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銀の鎖  作者: 仙崎無識
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新人錬元師、達人侍と出会う(2)

 二人が予期せぬ出会いを迎えてから数十分後。 初心者用拠点近くの食堂でカグラとシンキの二人は昼食を取っていた。

『しっかし、シンキさんって無表情な方ですね~』

 もぐもぐとハンバーグを咀嚼しながら自分が「銀の鎖」を使ってしまった相手を見遣るカグラ。対するシンキは、何処にそんな大量の食物が入るのかと驚嘆しそうなほどの量の料理を平然と平らげている。

「あの、」

「ん?何か」

 カグラがおずおずと話しかけると、無表情のままシンキが返す。

「これから、どうすればいいんでしょう…?」

 カグラはこのゲームを始めてからまだ一か月ほどしか経っていない超初心者プレイヤーである。この世界の仕組みも、ストーリーもほとんどわかっていない。ただ「調合」の二文字に惹かれてゲームをしているという、ある意味では錬元師の鑑、といえそうな人物であった。

 そんなカグラの問いに、シンキは口を開く。

「公式発表されている情報によると、このゲームの目的は「ノヴァの星空」を目指すことらしい」

 コップに入った水を飲み、一息入れてから語るシンキ。

「俺たちが今居るのが、「アーノルド大陸」で、「ノヴァの星空」に辿り着いたプレイヤーは今の所居ない、ということになっている。…マップを見てみたら分かると思うけど、初心者用拠点は「ガルム辺境村」で、「アーノルド大陸」の東の端に位置している。この辺りを治めるのが「リカルド王国」の「狂骨王:シームガルド」だ」

 シンキの解説通りにマップを開いて見てほお、と感嘆の声を上げるカグラ。 複雑な地形の大陸部の東の端で、カグラの位置を表す青色のアイコンと、「銀の鎖」被影響者の存在を示す銀色のアイコンが輝いている。

「シンキさん、この下の方に見えている大陸はなんですか?」 マップを見ながら、カグラが自分たちの居る大陸とは別の大陸を指さす。

「ああ、それは「クリアカント大陸」だ。「アーノルド大陸」と「クリアカント大陸」の二つを合わせて「アークの大地」と呼ぶんじゃないか、とネットでは言われている。君に会う30分前まで俺はここの「ナルバ砂漠」の隣にある「レムナント樹海」に居たんだ」

 シンキの懇切丁寧な解説を聞き、なんだか超初心者プレイヤー且つひよっこ錬元師である自分がよくわからない状況を招いてしまったことに居た堪れなくなったカグラは

「ご、ごめんなさいシンキさん……。こんな辺境の始まりの地に拘束することになってしまって……」

と数十分前の自分の失態を謝る。

「それはもういいって。君に悪気があったわけじゃなかったし、何より君はその鎖が「銀の鎖」だって知らなかったんだろ?それに、俺は丁度調合系の職業を探していたんだ。何の問題もない」

 カグラの申し訳なさそうな様子に、首を横に振って気にしていないことを示すシンキ。しかし、カグラは中々引き下がろうとしない。

「でも…こんな所じゃ、戦闘も面白くないでしょう?」

更に言い募ろうとするカグラをシンキが右手で制す。

「起きてしまったことはしょうがないし、「ノヴァの星空」を目指す手がかりを探っていた所だったから、別に問題は無い。それとも、御主人様は俺が一緒に居たら何か不都合なことがあるのか?」

 シンキの言葉に、ぼっと顔面を燃やすカグラ。 プレイヤーのジェスチャーも豊富なMMORPGである。

「「御主人様」はやめてくださいってさっき言ったじゃないですか!私的には戦闘がからっきしだったので、シンキさんのような方がいてくださると調合もし放題ですし問題ないんですけど、シンキさんが困るんじゃないかと…」

「俺は別に問題ない。ただ、このゲームはクリアしたいと思っているから、君にも強くなって貰わなければならないとは思っている」

 シンキの言葉に、途端、苦虫をかみつぶしたような表情になるカグラ。

「…私、戦闘できないってさっき言ったじゃないですか」

そんなカグラに、シンキはにべもなく言ってのける。

「戦えはしなくても、せめて攻撃を避けたり、防御したりはできないと先に進めない」

 「ノヴァの聖空、アークの大地」では、ボス討伐に「チーム」や「ギルド」での参戦を認めている。「チーム」は「ギルド」とは異なり、その場限りの共闘ということになる。近場に居るプレイヤーを即席で呼び集めてチームを作ることもできれば、ギルド内からチーム上限である5人を選んでチームとして出撃、という形を取っている場合もある。 「チーム」にしろ「ギルド」にしろ、一度にボスに挑めるのは5人までで、無事討伐が完了すると、討伐の貢献度に応じて討伐報酬が割り振られる。チームを組まずギルドで出撃した場合は、各々が取りたいように討伐の報酬となる素材なり何なりを取ることが出来るというシステムが採用されており、多種多様なギルドが構成されているのもこのMMORPGの特徴である。

「より強い敵に挑めば、より珍しい調合素材が手に入ると思うんだけどな?」

 シンキの言葉に、先程まで項垂れていたカグラがガバッと起き上がる。

「マ、マジですか!!」

カグラの表情がぱぁぁぁ、と輝く。

『現金だなぁ・・・』

カグラの調合にかける情熱に内心苦笑しつつも、食事の代金を持ってシンキは立ちあがった。


* * * * * *

 村の周辺を歩き回りながら、二人は会話を続けた。カグラとシンキ両方にとって幸いだったのは、「銀の鎖」を視界から消せることだった。両者のステータスには情報は出るものの、見た目的にも鎖が巻き付いていない方が助かる。ケ瀬なかったら周囲にあらぬ誤解を招きかねない。

「で、君の職業は「錬元師」で間違いないんだね?」

「はい。…シンキさんの職業は「侍」ですよね?」

カグラとシンキ、二人で職業を確認しあう。

 このゲームの職業は、大きく分けて4つ。「戦士(ウォリアー)系」「魔法使い(マジック)系」「調合(ミックス)系」「その他」である。 また、各ジョブは個人のプレイスタイルや戦績などによって、3段階まで進化する。 例えば、「剣士(ソードナイト)」の職業の者が夜間のみログインし続けると、進化した場合に「忍者」になりやすい、といった具合だ。 シンキは攻撃力重視で、昼夜のバランスよくプレイしていたため、「剣士」から「侍」に進化した。

「「錬元師」は、次に進化した場合、「研究者(サイエンティスト)」か「錬金術師(アルケミア)」になる可能性が高い」

 勿論、職業が異なると覚える能力も異なる。能力も職業と同じく4タイプあり、戦士が魔法使い系の能力を覚えることも、魔法使いが調合系の能力を覚えることもあるが、やはり自分の職業系統の能力を一番多く覚え、尚且つ威力も高い、というのが通説であった。

「君が覚えているのは?」

シンキの問いに、カグラがすらすらとそらんじた。

「「解析(アナリシス)」と、「武器製錬(スミス)」と「防具製錬(ドワーフ)」と「発掘(ディグ)」と「薬草調合(ヒーリングソース)」がレベルマックスで、「調合成功率上昇」、「レアアイテム発見率上昇」、「敵発見率低下」、「レア素材採取率上昇」、「エピック発見率上昇」、「アイテム効果増大」というパッシブスキルがレベル4です」

 能力のレベルは最大が5であるので、初心者でここまでの能力を持っているというのは、余程の調合好き以外には考えられないものである。攻撃系統のスキルに全くポイントを振っていないその姿勢に、シンキが内心で舌を巻く。

「攻撃は?」

シンキの問いに、打って変わってカグラが唸る。

「…「薬品調合:ケミカルインフェルノ」がレベル2、「薬品調合:アイスブリザード」、「薬品調合:濃硫酸」がレベル1、です……」

 その調合極振りスタイルに、シンキは苦笑するしかない。 寧ろ清々しいまでの調合貫徹であった。

「そうか。…ありがとう」

 シンキはカグラの調合に懸ける熱意を過小評価していたことを後悔した。

「取り敢えず、「眠れる妖精の森」に行こうか」

 シンキの提案に、カグラは頷いた。


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