吸血鬼とは【1】
追い詰められて絶体絶命の幸村。
逃亡するも、圧倒的な力の前にやられてしまう。
全てが閉ざしかけた時、鼓動は再びリズムを刻み始める。
「つまりお前は《神の使い》ってことで俺の敵ということか!」
頭の中でなんとか状況は整理できた。
だがこの状況を打破できる突破策は微塵もない。
「そうだとも、さぁ…茶番は終わりだ。」
「今ここで死ぬがよい!」
高らかに叫ぶと、奴は自分の体を浮き上がらせそのまま10mほど上昇し、その高さを維持したまま、校庭の真ん中あたりに浮遊した。
「さぁこれが力だ。見るがいい!」
杖が煌めき出した。そして杖を上空に掲げると、大きな光の塊が鋭く降り注いだ。
「うわっ!」
規則性もなく、デタラメに降り注ぐ塊は地面に触れるとぽっかり大きな穴を開けていた。
あれに触れたらただでは済まない!と思った僕は、降り注ぐ塊をかわして、バックネットの裏に隠れた。
座り込むと額からは冷や汗が垂れ、息が落ち着く気配すらない。
それもつかの間、後ろでドゴォンと鈍い音がしたと思い振り向くと、バックネットは吹き飛ばされそこには蓮の姿があった。
「ハハハッ!チェックメイトだ。しねぇ!」
ほぼ零距離。回避する間もなく、彼の攻撃を受けてしまった。
腹にはぽっかりと大きな穴が空き、意識が薄れていく。
まるで深海に沈んでいくような感覚だ。
光が閉ざしかけたその時。
「このまま、終わってしまっていいのかい?」
唐突に聞いたこともない女性の声が聞こえた。
『無駄さ、もう勝てない。どう足掻いたって力の差は圧倒的だ。』
「それで諦めるんだ。まだ君を待ってる人がいるのに。」
『うるさい。』
「君にはなんの力もない。神様は非情だね。なんの救いもくれやしない。」
『……』
「だから僕は君に力をあげる。
君にはまだ帰るべき場所、待っている人がいる。
その人のために、頑張っておくれ。」
そこから声は聞こえなくなった。
はっと目が覚めた。
同時に体は炎に包まれる。
熱くはなく、むしろとても心地いい。
だんだんと腹に空いた傷が癒えていく。
手には光を飲み込むような黒い刀が握られていた。
開いた目は、まっすぐ蓮を見つめていた。
「なんなんだ…一体なんなんだてめぇ!!」
と蓮は騒ぎ出し、僕に向かって光の塊を連射した。
声が聞こえた。
「塊を切るように剣を振ってごらん。」
腕が勝手に動いた。飛んでくる塊が剣に触れると弾けて四散する。
「さぁ、その剣で目の前の敵を倒すんだ。」
倒す?殺すということなのか?
「それってもしかして、殺すということか?」
冷淡にその声は告げる。
「そうだよ。この状況を打破できる突破策はそれしかない。
相手は君を殺す気なんだ。弱気になったら殺されるよ?」
「でも!……アイツは親友なんだぞ?!」
続けて声は続けた。
「その親友が君を殺そうとしてるのにね。
まぁいいさ。頑張ってね。」
それ以降、不思議な声は聞こえなくなった。
「クソォ!てめぇはなんなんだ!絶対に殺してやる!!」
かつての蓮の姿はない。その姿は殺意をむき出しにした化物そのものだった。
やるしかないのか!と思ったとき、自分の足元に魔法陣が描かれる。
「Gate」
どこかで聞いたような声が響いた。
現れたのは、艶やかな黒髪を靡かせた小柄な少女、つまりアリアの姿だった。
前とは違い鎧のような物を身にまとい、手には大きな赤い槍が握られている。
「私は、戦乙女。憎き悪に反逆する誇り高き吸血鬼!」
「今からお前を……殺す!」
思いっきり右足で踏み切り出すと、凄まじい速度で距離を詰めていった。
「くっくるなぁぁぁぁぁ!」
デタラメに光の塊を乱射する。
だがその塊は槍で難なく弾かれた。
ある程度近づいたところで、槍を持ちながら大きく振りかぶった。
「チェックメイトよ。」
と言って槍を投擲した。
放たれた槍は一瞬赤い光を放ち、気づいた頃には蓮の体を貫いた。
「グボハァ!」
口から血を吐き出す。そしてそのまま地に倒れた。
アリアはその死体に近づいていった。
死体の前に立つと、白く冷えきった腕を手に取り、そのまま牙を立て血を吸い出した。
「おい!アリア!何してるんだよ。」
異様な光景だった。
「力を使うには、血の力が必要不可欠。
だからこうして使った分の血を補給してるのよ。」
「わかった?これが吸血鬼よ。私はこんなことが正義なんて微塵も思ってない。
けれどこうするしかないの。こうしないとわたし達は生きていけないのよ。」
夢うつつに聞こえた声を思い出す。
『神様は非情だね。なんの救いもくれやしない。』
この世界に救いなんてない。
甘えて救われる世界。そんな普通の日常はもう帰ってこない。
どうもmefaです。
さて、怒涛の急展開!主人公が死んだかと思いきや、復活して真の力に目覚めちゃったわけです。
ありきたりですが、僕的にはかなり燃える展開だと思います!
今回は戦乙女の姿で登場したアリア。
どういう武器を持たせようか悩みましたが、槍がしっくりきたので槍を持たせてみました。
ちなみに、あの投擲した槍のイメージってなんだかわかりましたか?
あれは【ロンギヌスの槍】をイメージして書いていました。
もうちょい意識して次は書こうと思います。
さて、新作を出そうと思ったのですが、先にこちらができてしまったが故、先に投稿することになりました。
こちらもだんだんと面白くなっていきますが、新作の方もどうかよろしくお願いします。