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memoria  作者: mefa
4/6

日記

彼女が見つけたのは、ある一つのノートだった。どこまでも黒くて、吸い込まれそうな真っ黒のノート。それは想像絶する彼の黒い過去が書かれた日記だった。


 時は少しさかのぼる。

 彼に血を分けたあと、私は部屋の掃除をしていた。

窓ガラスの約1/3ほどが割れてしまったので、その修繕と、散らばったガラス片の掃除をするつもりだ。

 現在の時刻は18時。そろそろ夕日が沈むか沈まないかというところだ。

なんとか日が沈むまでに終わらせたかったのでせっせと事をこなした。


 結局、終わったのは日か沈んだ頃で時刻は19時半だった。

 幸いにも、物置らしい部屋にダンボールがたくさんあったので、それを貼り合わせあくまで『応急処置』の範囲で修繕した。

 普通ならどっと疲れが出る筈なのに、疲れるどころかじっとしていられなかった。

きっと慣れない空間で落ち着かないからだろう。

 仕方が無いので、この家を少し探索してみることにした。

 この家の構造は、部屋が3つと洗面所、トイレ、お風呂が1つずつ、リビングの脇にはキッチンがあり、部屋の3つのうち1つは物置部屋だった。ごく普通のマンションの構造だ。

 私が眠っていた部屋のとなりに彼の部屋らしき部屋を発見した。

入ってみると、その部屋は物がきちんと整理されている整った部屋だった。

 私が注目したのは、学習机の上にある1冊の使い古された薄赤いノート。

Canposと書かれたよく見るノートの表紙には『漢字練習ノート』とだけ書かれていた。

 表紙をめくってみると、そこには細かく丁寧に書かれた漢字が、そのページを埋め尽くして真っ黒にしていた。

後ろのページに、空欄のページはあるものの、ほかのすべてのページはひたすら漢字で埋め尽くされた。

 ほかのノートを学習机の上にある棚から1冊、適当に取り出してみる。

今度は『数学Ⅱ』と書かれたノートだった。読んでみると素人の私でも、わかりやすく丁寧に要約された解説。

例題のとなりにはその文1つ1つの解説が書いてあってとても分かりやすい。

 私は興味津々でひたすら彼のノートを棚から取り出しては読んだ。

その全てがとても素晴らしいものだった。

ほとんどのノートを見終わったあと、まるで隠すように表紙も裏表紙も真っ黒なノートがあった。

 私は思わず表紙をめくり、そのノートを読んだ。どうやら日記のようだった。


 4月15日

 今日から3年生になる。

中学最後の1年間ということでなんとなく日記をつけてみることにした。


 6月6日

 クラスの友達と、意見の食い違いから喧嘩になった。

あの時はかっとなってしまったけど、良く考えたら僕の方も悪かったと思う。

 明日、学校に行ったらきちんと謝ろう。


 6月7日

 この日からいじめが始まった。

以前にもいじめはあったが、それは2年生の半ばから少しずつなくなって行ってやっと落ち着いた矢先にこれだ。

全く、僕はついてない。

 明日なんとか許してもらえるか掛け合おう。


 6月8日

 ひどい雨の日だった。

クラスの仲間からは完全に無視され、クラスで1人孤立した。

 さしてきた傘はボロボロにされ、靴はぐしょぐしょになっていた。


 6月15日

 いくら嫌なことをされても動じない精神を貫いていると、痺れを切らしたのか、いじめっ子のリーダーが僕を屋上に呼び出し、そこでボコボコにされた。


 6月16日

 この日もひどい雨の日。

どうやら台風が接近してるらしい。

 いつもどおり傘はボロボロ、靴はぐしょぐしょだった。

 帰ろうとすると1人の女子生徒が、僕に駆け寄ってきて傘をこっそり渡してくれた。

お礼を今度言わなきゃな。


 6月17日

 不思議といじめはこの日から止まった。

いじめっ子とも、今更だが和解してなんとか平穏が戻ってきた。


 6月20日

 傘をくれた女子生徒が、いじめっ子と一緒に屋上に連れてかれるところを見た。

まさかと思い、先生を呼んで屋上に向かうと、案の定、その女子生徒は屋上の影でいじめられていた。

 先生が来たことに動揺したのか、いじめっ子は近づいたら女子生徒を落とすと脅してきた。

 僕はどうしてもそれが許せなくなり、苛立ちが抑えきれなくなった。

自分でもどうしてかは、わからない

 先生に気を取られてるあいだに、僕は女子生徒の救出を試みて、飛びかかった。

 しかし、いじめっ子が抵抗した衝撃で、女子生徒は転落。そのまま死んだらしい。

 僕が彼女を殺してしまった。あの時、いじめっ子に最初から立ち向かっていればこんなことにはならなかった。


 そう、僕の弱さが彼女を殺したんだ。


 その先のページは破られて、最後のページだけ残されていた。


 3月14日

 僕はこの3年間何がしたかったのだろう。

 得たものは何もなく、失ったものだけがたくさんあった。

 過去最悪と呼ばれた卒業の帰りに同年代くらいの少女が倒れているのを見かけた。

それがとてもあの人に似ていて、ほうっておけなくなって、気がついたらその子を抱きかかえて、病院にいた。

どうやら大事には至らなかったらしい。

 これで、少しは償えたのだろうか。


 ここで日記は終わっている。


 読み終わると、私の目からは涙が頬を伝い、流れていた。

 見ず知らずの私を救ってくれた恩人の裏側。

黒い過去を少し、垣間見てしまった罪悪感。

そして、私にはわからないほどの苦しみが、文章越しにも伝わってきた。

そのノートを元あったところにきちんとしまってその部屋を後にした。


 リビングには、ソファーに横たわっている彼の姿。

その姿がなんとなく愛おしく思えて、膝の上に頭を乗せ、髪の毛をなでた。

 時刻は23時。あと6時間は起きないだろう。

 月明かりが部屋を優しく照らす中、私はこのまま浅い眠りに落ちた。


ここまで読んでくださりありがとうございます!

今回は早めに投稿できました!

さて今回の4話目ですが、プロローグの最終話ということで書きました。幸村くんの想像絶する過去、そして、破られたページの謎。この2つがとても重要な鍵になってきます。次回から1章の始まりです!楽しみに待っていてください!

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