灰色の世界
2年生の2学期が始まった。
まだ夏の暑さが残る9月の初めのある日。少年は奇妙な少女の声を聞き、声を頼りに歩き出す。
その先で彼が目にした光景とは……
灰色の世界。
そこにあるものにはかつて色彩豊かな色が付いていただろう。いや今でも付いているかもしれない。
だが、僕には見えなかった。希望という色はすでに失われていた。
夏休みが明け、2学期が始まった頃…
ちょうど高校生活が2年目の半ばに入った頃だ。
この僕、白崎幸村の高校生活はそう辛いものではなかった。
友達と適当に喋り、適当に遊ぶ。とてもありきたりで突飛押しもない日々だった。
故に、過ぎ行く日々がつまらないと思う時もあった。
だが何かを始めようとしても全て中途半端に終わってしまう。結果、僕はどうしようもない人間なのだ。
僕はある病気で髪の毛が白く、目が赤い。
このことで中学生の時にはいじめにあっていた。見返してやろうと思った。
がむしゃらに、対抗心に狩られるまま自分の体を改造し、知識欲に狩られるまま知識という知識を頭に刷り込まる。
そうやって死角を潰し、敵をなくし第一志望に合格して見せた。
それがこの高校、「県立音坂高校」だ。
校舎は7階まである。外見はまるでオフィスビルだ。
この高校は「集団としての技能」というより「個人としての技能」が優遇される学校だ。
実力勝負が正義のこの高校こそ自分の居場所ができるなんてそんな淡い希望を抱いていたのかもしれない。
大方、うまくいった。
1年生では常に1位をキープし、一番新しい成績、つまり2年生の前期でも1位をキープしていた。
気にくわないところといえば、1教科、国語だけ5が毎回つかないことだろうか。
不得意というわけではない。しかし、他と同じように完璧だと思う成果をあげても4だった。
いい成績をあげれば人が寄ってくる。
「幸村くん!ここってどうやるの?」や「幸村くん、ごめんノートとり忘れたから写していいか?」など多様な質問が飛んでくる。
でもそれは自分の私利私欲のためだ。ここは実力さえあれば優遇される学校だ。
そうやって質問してるやつに限って、いやな感じがする。
つまり人を道具としてしか見てないのだ。
「僕」という存在がそいつにとっては自分の成績を上げる手段でしかないのだ。
期待をされてるやつほどこの学校で生きるのに必死になる。
故に灰色。僕から見えるこの学校の風景というのは、正確には僕に寄ってくるやつらはほとんど目的が一緒だから常に1種類の人間しか居ないのだ。
「キーンコーン、カーンコーン」
4時間目終わりのチャイムが鳴り響く。
「今日はここまでだ。あっあと帰りのHRで課題を配布するからその課題を明後日までに提出するように。」
そう言って、先生は去っていった。
昼休みはこの高校の学食が大変人気らしく、特に限定ランチ目当てのやつは現在この教室が5階にあるのに対し、食堂は1階にあるため猛スピードで駆けていく。
これがこの高校の日常風景だ。
そんな光景を横目で見つつ弁当を広げた。
弁当の中身は唐揚げ、卵焼き、白飯。とても簡素だが僕にはこれがちょうどいい。
スマホで情報収集しながら、ご飯を食べる。これが僕の昼休みだ。
僕にとっては学校生活の中で一番有意義な時間かもしれない。
なぜなら社会情勢や偉大な人の意見などを目にすることができる。
知識を求めている僕にとっては有意義なのだ。
故に時間が過ぎるのも早くあっという間に昼休みが終わってしまった。
放課後になった。
時刻は17時。秋の始めくらいはまだこの時間は明るい。
学校から家までは徒歩で15分ほどだ。これもここの高校を選んだ理由だ。
普通ならとても平凡な道だ。だがしかし今日は違った。
家の近くにある少し暗い路地。
基本的にそこは営業してる店もなければほとんど誰も通らないので常に薄気味悪い。
ほかの道を通ってもよいが遠回りになるのでいたしかたないと思い、いつもこの路地を通っていた。
いつもと同じ光景なのに何故か異質な感じがする。恐る恐る道を進んでゆく。たった15mほどの距離だ。
なのにとても先が長い。
少し進んだところで声が聞こえた。
「たす……け……て……。」
とてもか弱く小さい声。それにとても苦しそうだ。
「だっ誰だ!」
少し驚きながらも問いかけた。
「!…人の……声……いやだ……来ないで……。」
泣きたいくらいに怖い。幽霊だったらほんとに洒落にならないレベルだ。
「こないで……こないで……。」
でも本当に人だったら、助けを求めてるならきっとこのまま死んでしまうかもしれない。
そう思った僕はこないでという言葉を無視して、声のする方へ歩いていった。
薄気味悪い路地から、狭い狭い裏路地へ入る。夕焼けで光がさしてるとはいえ、ほとんど真っ暗に近かった。
入り組んだ道を進んでゆくと倒れている人影が見えた。
「やはり幽霊なんかじゃない。人間だったんだ!」
そう思い、駆け寄ろうとするとそこから銀色の物が飛んできた。
わずかに頬をかすめその物体は後ろへ飛んでいきそのまま壁に刺さった。
「えっ……?」
かすめた頬からは血が流れている。
飛んで行った方を見ると、銀色の物体はナイフだったのだ。頭が混乱する。
もしかして本当に来ない方が良かったのだろうか。
しかし、目の前の人影から発せられてた声はもう聞こえない。
「そうだ!助けないと!」
そう思い、急いでその人影に駆け寄る。
その人影はボロボロの服を着た女の子だった。
艶やかに伸びた長い黒髪に整った顔立ち。少し小柄な身長をしている。どうやら脈もあり、息もある。
しかし体には無数の傷があり、ところどころ深いところもある。
そして困ったことにこの町の周辺には医療機関はあるがここから遠い。
家まで歩いて数分なので、僕は少女をいったん家に連れて帰ることにした。
ボロボロの姿を晒すわけにはいかないので、Yシャツである程度体を包み、なるべく人気のないところから帰った。
布団を敷いて少女をそこに寝かせる。
体が汚いので濡れたタオルで大きな傷に当たらないように、こすらず丁寧に拭いた。
そのあとほぼ全身に消毒をして、大きい傷や深い傷のところはガーゼをして上からテーピングをした。
「これで大丈夫かな。」
まさか暇つぶしに読んだ本で得た医学の知識がここで役に立つとは思わなかったがここで大体の処置が終わったので時計を見る。時計には18時4分としるされている。
夕飯の準備をするため、この場をあとにした。
「にしてもなぁ〜。」
記憶が蘇る。
飛んできた方向から考えて、ナイフを飛ばしてきたのはあの少女だ。
その程で考えた時、駆け寄ろうとした時、なぜナイフを飛ばしてきたのか。
そもそもなぜそんな物騒なものを持っていたのか。
もしかしたらこの少女が起きたら僕は殺されるのではないか。
時間が進むにつれて、疑念が不安に変わっていった。
この小説を最後まで読んでいただきありがとうございました!
今回、「灰色の世界」というなんとも厨二くさい単語を使いましたが、自分が絶望して「こんな世界なくなってしまえばいいのに」なーんて思った時に世界はどんな風に見えるんだろうと考えました。当然豊かな色はありません。だからと言って白ではない。少し曇りがかった心。つまり灰色という色が一番適してるかなと思いました。
この小説自体「全部フィクション」というわけではなく、実際にあった出来事が少し入っていたり、授業中に暇つぶしで自分が他の人を見て考えたことをまとめてそれに非現実的な要素を加えた感じなんです。僕の考えがまとまってるのが前半部分ですね。なので、共感したりなるほどって思ったりしてくれたらとても嬉しいし、逆に僕はこう思う、私はこう考えるってことがあったら今後の参考にしてみたいです。
次回話の投稿は割と早めに出す予定なので読み続けてくれたら嬉しいです!