素人っぽさを減らす、小さいけれど意外と便利な小説技法 そのいちてんごっ!
いま絶賛売出し中の私の小説『雷鳴ノ誓イ』の評価を前作『素人っぽさを減らす、小さいけれど意外と便利な小説技法』が倍近く上回っていますので、宣言通り反響があったということにして続編でございます。といっても、そのいちを読む必要はたぶんないです。まぁさらっと読める短さですけど。
ちなみにですが『そのに』ではないのには訳がありまして。それなりに共感は得られたんですが、自分で読み返すと「いまいち何が言いたいのか分らないな……」となったので、その補足みたいなものです。
あ、『そのにが思いつかなかっただろ』とか邪推はしないように。だってそれ邪推じゃなくて事実ですから。
こほん。ではまず、この『素人っぽさ(以下略』とは何なのか。
間違えないでいただきたいのは、ここで言った技法を使えばプロレベルになれる、というわけではないということです。プロと素人の差の一つがこの技法、というわけでもありません。この技法はそんなにハイレベルなものじゃないですし、プロの方でも無視する人はいます。
たとえるなら『市販のルーから作る家庭のカレーに裏技レシピ! 簡単あめ色タマネギの作り方!』みたいな感じですかね。プロは手間暇かけてしっかり玉ねぎを炒めますけど、電子レンジとかなんかいろいろ駆使してそれっぽくしたもの――それがこの技法です。
プロと家庭のカレーの差は山ほどありますよね? 水じゃなくてスープストックを使うとか、スパイスは当然自分で調合するとか、あえてスープストックをやめて水を使ってスパイスを際立たせるとか、技術や工夫を使ったり使わなかったりすることもプロのうちでしょう。そんなややこしいものを私は教えられません。だってプロじゃないもの。
私は私が気付いた見た目と味をよりプロに近づける技法しか教えられません。それの存在に気づかなかった人が「なるほど! なら俺はこれをより丁寧にした技法を――」みたいな使い方がたぶん正しいでしょうし、そこまでのレベルにいなくても鵜呑みにして適当に使うだけでも、タイトル通り『素人っぽさを減らす』ことはできるわけです。もちろん全く使わなくても、他の部分でプロレベルなら問題はないです。
ちなみに、カレーがたとえだったのは食戟のソーマという漫画にはまったからです。許して下さい。あぁ、田所ちゃんかわいい。
さて。
では今回のお手軽素人っぽさを減らす技法はこちら
『描写を複数回いれろ。そしてフリガナを活用するんだ』
です。
――え? 前回と似てるって?
HAHAHA。だから言ったじゃないですか。『そのいちてんごっ!』だって。今回はあれの補足をしに来たんです。――はい、見切り発車で続編に手をつけたことは反省しています。後悔はしていない。
では、前回と今回の違いは何か。それは容姿に限らない、という点ですね。
たとえばの話をしましょう。
異世界ファンタジーではたくさんの地名が出るはずです。ですが、その街にいる間は名前を呼ぶことは少なく、街を出た後に「あの街では」といった会話であったり描写であったりで名前が出る機会は増えますよね。
ここで、もし地名だけで会話をするとどうなるか。
一個前の街ならまぁ分かるでしょう。ですが中盤や終盤になって、伏線回収の際に序盤の街の名前を出したとして、果たしてどれほどの読者がそのことを覚えているのか。
地名は聞き覚えがあるが、それは三個目の街だったか五個目の街だったか。そんな現象に、作者の方も他人の作品を読んで陥ったことはありませんか?
ちなみに私は山ほどあります。私が読んだところ、プロデビューしていない人の作品ならかなりありますし、プロの作品である某とあるや某劣等生なんかでもままありましたね。
話はプロだけあって私なんかでは遠く及ばないんですが、巻数が進んでいることもありキャラや固有名詞が多すぎて、しかも名前だけポンと出されるものだから、前の巻を読み返したりウィキを見ないと思い出せないんですよ。
――あぁ、もちろんプロ作品を批判する気はありません。自分の経験を出した方が共感を得やすいかと思っただけなので。ちなみに某とあるも某劣等生も全巻持っていますし、スピンオフコミックも買っていますのでファンの人は怒らないで! そんな、石を投げないで!
……話が逸れましたが、こういう現象を避けるためにどうするか、というのが今回の技法。先ほど言いましたよね? そうです、複数回同じことを言えばいいのです。
例えば、
*
俺はここに来てアルビニアの街――始まりの街にして、俺がただの村人から勇者になった思い入れのある場所――を思い出した。
*
みたいに、その街で何があったのかを一行くらいに適当にまとめると、読者の方も思いだしやすいでしょう。
ですが、この方法は少々くどいかもしれませんね。話のテンポを考えればこんな風に描写する余裕もないじゃないか、と仰る方もいると思います。
そこで、このフリガナの出番です!
*
俺はここに来て始まりの街を思い出した。
*
どうでしょう? たった一言、テンポも崩さずに読者に思い出していただけるじゃないですか!
これは地名にも限りません。日本人はカタカナの名前を覚えるのが苦手(だと私は思っている)ので、人の名前にも応用した方がいいでしょう。――あ、もちろんやりすぎは禁物です。適度な量を自分で探してください。こればっかりは全体量との兼ね合いなので、一概にこの場で言うことは不可能です。
また、話の流れも読者は覚えていない場合があります。さすがに地名よりは印象が大きいので覚えている場合も多いですが、例えば中ボスを倒し、ラスボスを倒したと思ったら裏ボスが現れた、何てことがあると、読者は中ボスのときに起きたピンチなんかは覚えていないかもしれません。
例えば、
*
俺はポケットからポーションを取り出そうとして――
――ない!
そうか、あのときにもう!
*
ここでのあのとき、というのは中ボス撃破の時の話だったとして、ちょっとページを戻らないと思いだせないかもしれませんよね。
なので、
*
俺はポケットからポーションを取り出そうとして――
――ない!
ハッ、と後方支援の魔法使いの言葉を思い出す。
『ポーション、それが最後よ!』
そうか、あのときにもう!
*
このようにそのシーンの一部を引用すると、読者も思い出しやすいはずです。こういうテクニックは小説よりも漫画で多いですね。コピーしてトーンで影を付けたコマを貼ってあるページ、少年漫画とかだと結構あるイメージがあります。
作者は誰よりも自分の作品を知っているものです。となると読者と作者では情報量の差があります。本の内容を読者が一言一句全て覚えられるのなら、英単語帳なんか売れませんよ?
やりすぎは禁物ですが、多くの場合は描写や説明が足りてないと言ってもいいでしょう。
途中から読んでも話がある程度分かること、これを理想にして描写を整えることこそ、素人から抜け出す簡単な方法なのではないでしょうか。
はい、ということで今回はこの辺で。
『そのに』はいつやるかって? おいおい、自信作の『雷鳴ノ誓イ』の人気が出ないことにはやる気もでないってもんさ。そういうわけで、えっと、ほら。そこら辺を、ね? 鋭い皆さんが察してください。
ではでは、今回はここまでです。さようなら!