かなの決意
かなはランドセルを背負って、ひとりで歩いていました。
「いやぁ、まさに地球の神秘ですね!」
「人間には、まだ理解できない地球の力ってあるのかもしれません」
「地球は生きているんですねぇ」
テレビではどのチャンネルも、今はこの話題です。
「いん石が地球に接近した瞬間、地球の磁場――磁気と言えば、わかりやすいでしょうか。地球は磁石ですので、かんたんに言えば、いん石が持つ磁石と地球が持つ磁石が反発することによって、いん石の速度を遅くし、さらにそこへ大気が集中して……」
専門家と思われる大人が説明しています。
「……途中、いん石の弱い部分が割れ、飛びちりましたが、それらはすべて空気との熱で燃え尽きました」
なるべくかんたんな言葉を選んでいるようですが、それでも、かなには良くわかりませんでした。
ただ知っているのは、ちかちゃんが助けてくれたということだけです。
――いん石がなくなったということで、避難指示も解除され、学校も再開されました。
ちかちゃんがいなくなって、初めての登校です。
ひさしぶりのひとりになって、ひとりがこんなにもさびしいものだと思い知らされました。
「ちかちゃんはいつも、こんな思いをしていたんだ」
ちかちゃんを思い出すと、また泣き出しそうになります。
登下校はいつもいっしょに歩いて、いつも笑っていたちかちゃんにつられて、自分もこんなに笑うことができるのかと思えるほど、かなもよく笑っていました。
ちかちゃんは、笑顔は人を幸せにすると言っていたけれど、それは本当なのかもしれません。
そもそも、魔法をいん石が落下する前に使うのは無駄使い以外、何ものでもありません。
それなのに人のために使っていたのは、いん石から町を守るという地球のやさしさから作られたちかちゃんが、その気持ちを受けついだだけなのかもしれませんが、自分が消えてしまうまでに誰かの役に立ち、覚えていてもらいたかったのではないかという気がしてなりません。
かなは空を見上げました。ところどころに白い雲がある青い空です。
この空を飛び回って、雲の上でかけっこもしました。いっしょに夕焼けも見ました。
それはまるで、昨日のことのようです。
「また、しようって言ったのに……花火もまだ、見ていないのに……」
かなの涙は止まりません。
――笑い声が聞こえて来ました。
かなはあわてて振り返りますが、誰もいません。
確かに聞こえました。いえ、今も聞こえます。
かなはちかちゃんが見守ってくれると言ってくれていたことを思い出しました。
そうです。姿はなくても、ちかちゃんはいつも、かなのそばにいるのです。
「いつまでも泣いていたら、それこそ笑われちゃうね」
かなは涙をふいて、歩き始めます。
「見ててね、ちかちゃん。私、強くなるよ」
そばの電柱で、そんなかなを見つめる人影がありました。