表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

4 揺れるバスケット

「旦那。次の荷物が届いたようですが?」

「ふん……。間に合わないかと思ったが」

「……要らないんですかい? 少しむこうの高度が低くて、回収には簡単じゃないんで」

「そうしたいのは山々だが」

 ちらりと舞を見て。考えを決めたように顎を引く。

「……私が、やろう」

 再び、ウィンチを定位置に戻し、男はハーネスを自分と繋ぎ直した。

「舞。そちらに重心を。落とされないように捕まっていろ」

 ゴーグルの男の側に舞を追いやり、反対側の籠の縁に立つ。そのまま、体を乗り出し、籠に急激に重量を与えないよう静かに、まるで体操選手のように、両腕で体を支え体重移動させバスケットの外へ。ウィンチに全体重を預けてから降下。

 ゴーグルの男は、身を反らせ下を確認しながら気球を操作し、遥か下を通過するもう一つの小さな風船の流れに沿わせる。

「お嬢さん。じっとしててくれ。……これから、やっかいになるから」

 覗き込んだ舞は、引き止められた。

「はい……」

 何を回収するのだろう? 舞に視線を投げたことから、自分に関係するものだと察せられたけど。

「あの。あなたは、あの人とはどういう関係なんですか?」

 真っ直ぐに尋ねる舞に、ゴーグルの男は目だけでこちらを見た。

「雇われただけさ」

「気球で夜間飛行なんて。それもこんな季節に。本当は回避なさるんじゃないんですか?」

 へっと腹を揺すって笑った。

「普通はね、お嬢さんの言う通りだ。

 だが俺は、面白いことが好きなのさ。あの旦那みたいに、無理なことを言う奴が、結構好きなんだ。

 面白い人間に会えるしね。お嬢さんみたいな、無鉄砲でユニークな子供にも」

 白い息を盛大に吐いて、ゴーグルは腹から笑う。

「さっきの、お嬢さんを城から連れ出す業なんざ。俺としては、最高の操作技術だったぜ。

 だがあの旦那も、俺なんか以上に命知らずで。さすがにひやひやしたぜ」

「ほんとうに……?」

 舞の表情が曇って、男は言いすぎたと慌てた。

「いや。だがよ。あの旦那は大丈夫だったじゃねーか。大した男だよ。

 ほんとに、桁違いだ」

 舞は、安心させるように頷いた。

「ええ……。いつもいつも、あの人は凄いの……」

 突然ずっしりとバスケットが下方向に押さえられる。

「……来たな……」

 ゴーグルが炎を吹かす。

「お嬢さん、そっから絶対に離れるんじゃないぜ?!」

「はいっ」

 籠が大きく傾く。Zと何かの重量が掛かったせい。舞は、必死に縁にしがみ付いた。

 ウィンチの電動モーターが悲鳴を上げる。低い気温のせいで、潤滑油が役に立たないのだろう。

「…………まずいな……」

 同時に、ウィンチは嫌な音を上げて、停止した。

 静寂。ゴーグルが両腕で必死に気球の姿勢を保つ。

「あ……!」

 凍った足元に、ブーツの踵が滑る。ゴーグルの男が、足を開き、舞の踵の押さえてくれるけど。突然、バスケットが大きく傾く。

「……!」

 衝撃で、ぶかぶかの手袋の中で、指先が外れる。バスケットの傾いた側に、一気に投げ出される。

「きゃ……!」

「……貴様……! こっちはお前と違って、並の体力しかないんだからなっ……!」

 ぜーはーと息を切らせながら、壊れたウィンチのワイヤーを片手で掴み、バスケットの縁に身を引き上げた男の影。が、浮き上がった舞の目の前に。

「! うわ……?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ