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七話『喧嘩喧嘩にまた喧嘩』

「僕は絶対に着ないよ? 他人から巻き上げたお金で買ったものなんて絶対に装備しない」

商人からの報酬先払いで受け取った資金でレーネはハロルドの服と装備を買うと言った。


だが、彼はそう言って拒絶したのだ。

レーネはすっかり平和ボケしているらしいハロルドに向けて喧嘩腰に言い放つ。

「あのね、これは報酬よ? 正当な依頼の上に成り立った正当――貰うべき金額なの! 甘ちゃんな貴方には判らないでしょうけどね!」

確かにレーネが今握っている布袋の中身は奪い取ったわけでも、騙し取った訳でもない。

盗んでもいない。

彼女の言うように、依頼の報酬だ。

だが、ハロルドが気に食わないのはやり方と金額だった。

「この大陸じゃ二万は大金だ! それに更に五千までだよ!? 君が依頼をこなす保証はない! これじゃ高利貸しと変わらない!」


「ええ、ええ、何とでも! 貴方はこの先無償で何でもかんでも叶えてあげる正義のヒーローにでも憧れてれば良いわ! 言っておくけど、『この世界に人に頼って生きてない人はいないのよ』」

喧嘩は収まりそうにない。

いい加減見兼ねたのか、町の住人達も止めに入る始末だ。

しかし、お互いに一歩も譲ろうとはしない。


――そして、最悪の事態に発展した。

ハロルドの悪い癖だ。

「ついていけない。僕は一人で行く!」

頭に血が上ると、どうしても彼は周りが見えなくなるようで、ぐるりと踵を返してレーネに背を向け言い放って、彼は町の外へ向けて歩いていってしまった。

「――バカ」

だが、前回と一つ違うのはレーネの反応だ。

彼女は瞳を潤ませて、彼の貧乏臭い背中を見つめて呟いた。




「――言いすぎたかな」

城門の前まで来て、ハロルドは漸く頭を冷やしていた。

ここまで来られたのはレーネのお陰で、闇雲ながら迷いの森を無傷で出られたのも彼女のお陰。

更に言えば、迷いの森の前で彼女が戻ってきてくれなければ彼は街のすぐ外で殺された情けない勇者として永遠に笑われたことだろう。


そう、全ては彼女が居たから。

今ならハロルドにレーネが言い放った言葉も理解できた。

「『この世界に人に頼って生きてない人はいない』――か」

レーネは、彼の知らない世界で生きていた。

平和な彼とは、全く逆の世界で。

彼女は、彼よりも多くの世界を見て、また痛い目も見たのだろう。

(――騙されたりとかも、したのかな)

ふと、ハロルドの脳裏に泣いているレーネの姿が浮かぶ。

「……」

ハッキリと、彼女の泣いている姿が浮かんで自身で驚くハロルド。

あの強気なレーネが泣く姿を思い浮かべて、彼はなにか見えない力に押されるようにして商店街へ戻る第一歩を踏み出した。


「――」

そんな彼のマントを、力無く何かが引っ張った。

「……?」

くい、と引っ張られて背後を見てみればそこにはいつのまにかレーネがいた。

いつもの強気さ加減が失せて、彼女は俯きながら左手に布を抱えてハロルドのマントを必死に離すまいと掴んでいた。

(あれ……?)

正面に見えた、そんな弱々しいレーネに彼は既視感を覚える。

だがハッキリと思い出せない。

「ん……!」

レーネは固まるハロルドに布を突き出してぶつけると、マントから手を離した。

彼はゆっくり振り返り、レーネが持ってきた布の塊を抱える。


(服だ……)

良く開いて見れば、それは服装の一式。

流石に鎧などはなかったが、どれも真新しく綺麗でしっかりした服だった。

「買ってきてくれたの?」


「何、要らない?」

レーネは相変わらず俯いたまま不機嫌そうに声を出す。

だが、心なしか芯がなく震えているように聴こえた。

(――サイズも、今着てるのと殆ど変わりない。良く判ったなぁ……)

「なんとか言ってよ!」

突如レーネが喚き散らす。

ハロルドは素直に貰った服を抱き、言う。

「”嬉しいよ“。悩んでたんだ、レーネの言ってることは確かに正しかった。僕もレーネに助けられてここに来られた。オラフさんにもそう話したのに、なんで忘れてたんだろ……」

ハロルドが言うと、レーネは少し顔を赤くしてすぐに俯いた。

だが、声色から喜びを隠しきれていない。

「い、いいから! 城門から出たら湖の畔で着替えてね!」

ずんずんと城門から出ていくレーネを、彼はすっかり和んだ様子で追っていく。




「凄い、ピッタリだ……」

レーネが買ってきた服はどれもハロルドの見立て通り、ピッタリだ。

キツすぎもせず、また大きすぎもしない。

丁度良いサイズである。

「当然よ。私の見立ては完璧だから」

綺麗な湖の畔で、レーネはすっかり見た目だけは勇者らしくなったハロルドを見て満足げに言い放つ。

「あ、でも剣とか……ごめん」


「武器類は手に馴染んだものが一番だから、敢えて買わなかったの。盗賊から拝借しましょう。どうせ盗品だから」


「いや、それは流石に……」


「彼らも盗んだ。罰を受けるべきでしょ? 尤も、これから下しに行くんだけど」

レーネはハロルドに向けて、すっかり調子の戻ったらしい不敵な笑みを向ける。

まだ作戦は始まってすらいない。

これから、始まるのだ――

さて、ちょこちょこフラグが……おっと

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