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六話『世の中金、これに限るね』

やっぱりお金ですよ

試射室から出た二人を待っていたのはつい先程、弾薬を買った商人だった。

商人はレーネに言う。

「さっきアンタが弾薬買った後に連絡が来てな。盗賊共が、小遣い稼ぎに盗品積んで此方に来ているらしい。奴等を町に入る前に追い返してくれないか?」

商人からしてみれば、傍で裏市場等やられては商売上がったりだ。

彼らは商人と違い、商いに生活は懸かっていない。

つまり高級な武器や服等を、彼らは赤字黒字関係無く好きな値段で売る事が出来る。

――一度、その連鎖が起きれば人々は断ち切ることが出来ないだろう。

『危ない芽は早めに摘み取れ』、つまりはそういうことだ。


「構わないけど。お金さえくれればね」

レーネは商人の方に見向きすらせずに、ただ黙々と銃弾を弾倉に籠めていく。

その言葉に、私情等は一切感じられない。

命の取り合いにすら為りかねないその依頼を、エルフのレーネは“ビジネス”と割り切っていた。


だが、ハロルドは違った。

彼は微妙な距離感すら感じられる二人に割って入る。

「待ってよ! そんな、お金で淡々と命を懸けるなんて間違って――」


「お前には言ってない、退かんか!」

商人の言葉にハロルドはびくりと身体を震わせて、氷のように固まってしまう。

だが、ハロルドの背後――レーネの目付きが確かに鋭くなったのをオラフは見逃さない。

しかし何も言うことはしない。

彼も、この件に関しては部外者なのだから。


「金なら、もう用意してある。2万――用意するのは大変だった」

商人は重みのある布袋をレーネへ差し出し、感慨深そうに言う。

レーネは弾倉に銃弾を籠め、拳銃類をホルスターに収めた後、軽々と布袋を引ったくって中を覗く。

――その様は、到底エルフとは思えないが……

「――足りない。今回はなかなか危ない橋を渡るわ、あと五千足りない」

自らが手にした金貨の価値を目にしても尚、レーネは更に金を欲した。

この世界では千を超えれば“大金”である。

彼女は、涼しげながら刺すような目付きでその五倍を提示したのだ。

手には既に富豪すら夢ではない金貨を持ちながら――

「ごっ――!? 正気かレーネ!? 私だってこれ以上は……」

流石に商人にも焦りが見え始める。

これがただの傭兵や、ゴロツキならば下りるだろう。

しかしレーネは違う。

彼女は、確実に仕事を果たす保証がある、実績がある、実力があるのだ。

「イヤなら返すから、適当に傭兵でも捜してよ。まあ安く武器買えるなら、私は盗賊側に付こうかな」

レーネはそんな風に、突き放すように冷たく言い放つ。

ハロルドは、そんなビジネスモードなレーネに視線すら合わせられなかった。


「わ、わかった。用意しよう。だが、“必ず遂げてくれ”! 判ったな?」

商人は懐に仕舞ってあった金貨袋を取り出して、今日の売り上げをレーネに手渡し、彼女は二万の価値があるという布袋に入れた。

「毎度どうも~――」

彼女は結局、一度も笑顔を見せることなく仕事を引き受けた。

しかも、超高額で。

「――チッ! 気分悪いわ、あのオッサン」

ちらりと窓から見えた、去り行く商人の横顔に舌を打つ。

その眼は、汚物を見るかのようであった。


しかし、通常モードに切り替わったのをハロルドは見逃さず、レーネに掴み掛かる。

「何考えてるんだよ……! 困ってる人から大量の契約金、更に高額な追加費――! 君は毎回こんな仕事を――」

掴み掛かられたレーネは、そんな彼を見てもけろりとしている。

そして、オラフに引き剥がされるまでハロルドもレーネも、何も話さなかった。


「判らないかボウズ。こりゃ、レーネが“お前の為にやった、精一杯の仕返し”だ」


「――え?」

ハロルドは驚愕の眼をレーネへ向ける。

「心の中で、少しスッキリしてない? アレだけ偉そうにしてた商人の焦る顔……!」

レーネは笑いを堪えるように頬を膨らませ、ぷくくと空気を吐き出している。

「汲んでやれ。やり方は粗削りだが、レーネなりの“不器用な贈り物”だ」

小声で囁くようにオラフはハロルドに言うと、まるでもう用はないといったように店の奥へと引っ込んでしまった。


だが、ハロルドにはさっぱり理解できない。

何が贈り物なのか、一ミリも理解出来はしない。

「貴方の取り分は五千。二万もあるから、これで貴方の服と装備を見繕ってあげる。勇者らしくないもんね、継ぎ接ぎのマントに銅製の剣、檜の盾なんて」

確かに、ハロルドの出で立ちはイマイチぱっとしない。

『これから魔王を倒しに行きます』というよりは、『危なそうだから全財産捻り出して漸く武装しました』と言った感じか。


しかし、そこで一つの答えにハロルドは行き着く。

「――もしかして、僕のため?」

「違うわ、イラついたから。少し足元を見てやっただけ! 行くよ~」

レーネは真意に触れられたくないのか、そんな事を言って話を逸らしてしまった。

だが、何はともあれ彼らは資金を手に入れた。

それも富豪級の、だ。


彼女の作戦はまず、ハロルドの変身から始まった――

因みに2万5千は大体日本円で2500万位です。

レーネにはそれだけの価値があるのです。

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