五話『完全武装エルフ、完成の瞬間』
ここからレーネがフル装備になります。
(ま、あのヘッポコだもん。どうせ店の前で立ち往生――)
心地好く騒がしい程度の商店街を歩いているレーネ。
すると、眼前にハロルドが突き飛ばされて飛んできた。
店に弾薬が売っているのをレーネは知っているのだが、どうも『一見お断り』らしく、店主は弾薬等知らないと言い放って扉を勢い良く閉めたのだった。
「ま、待ってください! レーネの武器には“だんやく”が必要なんです! お願いします!」
ハロルドは地面を軽く殴り、痛そうに拳を擦ってから再び扉にすがり付いた。
勇者とは到底思えない行動である。
「ぷっ――! ふっ、くく! あはは! あーおっかし! でも、頑張った方かな……」
扉を必死に叩くハロルドを種にレーネは存分に笑い飛ばしてから、彼の肩を掴んだ。
「れ、レーネ? どうして――」
「オラフが心配したからね。ほら、行くわよ? シャンとする、シャンと!」
バシッと彼の背中を景気良く叩くと、彼は身体を縮ませて驚いて、それからレーネと共に店へ入っていった。
――数刻が過ぎ、森を抜けた時には低かった太陽もすっかり天高く上っている。
「よう、弾は買えたかい」
帽子を再び深く被ったオラフは、店のベルを鳴らして入ってきた二人を出迎えてくれた。
「ええ、ただヘッポコの方は少し痛い目に遭ったけどね」
「あ……あの程度なら痛くないよ!」
遂にヘッポコとは言われ馴れてしまったらしい。
突っ込みの論点がすっかりズレてしまっている。
そんな二人が運んできた木箱には大量の弾薬が詰まっていて、オラフは満足げに頷く。
「――よぉしよし、試射してもお釣りが来るな。ただよぅレーネ? 何でロケットの弾まで買っちまったんだ」
レーネの背中には、まるで弓矢の矢を背負うようにして複数のロケットランチャー弾頭が背負われている。
この大陸において、ロケットランチャーというものは非常に稀少で高価と言える。
発射筒と共にそうそう売られはしない代物だ。
「面白そうじゃない」
背中に爆発物を背負ったまま、レーネはへらへらと気楽そうに笑った。
そんな彼女を見てオラフは心底深く溜め息を吐いて、一挺一挺拳銃の収まったホルスターを取り出していく。
「新しい銃もいくつか在庫が余ったからな。改めて改良を入れてお前の装備に追加はしたが、町の外であんまバカスカ撃つんじゃねぇぞ」
まずオラフが出したのは、変わった形状の自動拳銃。
スライドは半分しかなく、銃身が長い。
「コイツはウィルディ。47口径の自動拳銃だ。威力はあるが、なにぶん弾が手に入らない。入る弾は8発で、ガス式だ。銃身基部のダイヤルは弄るな? 調整済みだからな」
オラフはそんなシルバーのウィルディから、小型の自動拳銃等6挺を紹介していく。
「上からウィルディ、オートマグ、モデル500に、ブレンテン、PPK、LCPね。それで、背中には散弾銃とライフルか……それで“私の銃”は?」
「用意してるさ」
オラフは二人の目の前に一挺の自動拳銃を差し出す。
角が目立つが、厳つい見た目の自動拳銃だ。
「XD9V10、これがお前の愛銃だ。スライド前方上面左右をくり貫いて銃身に左右5個ずつ穴を空けた。これで反動が小さくなる」
「う~ん! おかえりバディ!」
まるで本当に命を預けあった相棒のように、レーネはXD9と呼ばれた厳つい自動拳銃を抱き締める。
「ね、オラフ!? 試射する場所ある?」
子供のように目を輝かせてレーネが問うと、オラフは背後の扉を親指で指す。
するとレーネは間も空けずに彼女は銃を抱えて試射室に飛び込んでいった。
「す、凄いですね。あんなにあるんだ……」
直ぐ様聴こえてきた銃声に軽く身を竦めながらも、ハロルドは呟いた。
「まぁな。しかしボウズ、良くお前レーネに付き合えるな? アイツは腕は良いが、周りを振り回しすぎる。“何もかも型破りなエルフ”だ。護衛に付けたがるヤツは多いが、大抵付いていけなくて契約を破棄される」
「付いていけてる……というより、レーネが引っ張ってくれてるような気がします。迷いの森を抜けたのだって、一人じゃ無理だったに決まってる。きっとその辺で野垂れ死ぬのがオチです」
ハロルドの目に、もう怯えはない。
響く銃声にも、この異世界な店にも。
「……そうか。だがアイツも気紛れだ、今の内に“レーネ”を知っておけ」
レーネにした時と同じように、オラフは背後の扉を親指で指して言う。
ハロルドはそれに従い、静かに木製の扉を開けて試射室へ入っていった――
試射室は幾つかの仕切りに遮られた、簡素な作りだ。
すべて木製で、標的をレーネは全ての銃を次々に切り換えて撃つ。
「――エルフは弓だって思ってたよ」
先程渡されたXD9V10の弾切れを知らせる“スライドロック”を起こした拳銃をゆっくり下ろすレーネを見るや、ハロルドが口を開いた。
「“伝記通りなら”ね? でも私は伝記なんて知らない。歌で傷を癒すなんて魔法も“伝説”。良い? 私の“弓”はコレよ」
レーネはそういいながら拳銃片手に彼に詰め寄る。
ハロルドを壁に押し付けるのと同時に、レーネの拳銃のスライドが戻された。
「――わ、わかったよ。文句が言いたい訳じゃないんだって……」
レーネのセミロングの金色をした美しい髪が顔をくすぐって、ハロルドは思わず顔を背けた。
それに、顔も接近していた。
間には拳銃があったが、それでも女性らしい静かな吐息を感じる距離だ。
「ん、よろしッ! さて、次はお金だけど――」
彼女が距離を取り、拳銃をしまい、顎に手を当て思案する。
レーネは基本的に金欠、ハロルドも王に貰った資金があるとはいえ、雀の涙ほどだ。
――だが、その時オラフが唐突に部屋の戸を開け放つ。
「レーネ。金に困ってるなら、良い話があるって商人が言ってるぞ」
彼の言葉に、待ってましたと言わんばかりの表情を浮かべるレーネ。
彼女と共に、ハロルドも部屋を出て仕事の話に向かう――
フル装備レーネ、装備する銃は軽く9挺。
ハリウッドでもやらないな、こんな重装備……
十六夜的、銃器解説コーナー
表記例
銃器名/実在会社名+実銃名
作動方式:反動利用orガス圧利用式
使用弾薬:使用弾薬名
装填数:弾倉装填数(+1表記の場合薬室に一発)
XD9V10/Springfield XD9 PortedV10
作動方式:反動利用
使用弾薬:9mmパラベラム
装填数:16+1
レーネが相棒とまで呼ぶ自動拳銃。
スライド前方上面は左右がくり貫かれており、バレルに空けた片側五個の穴から発射ガスを逃がして反動を軽減している。
Brenten V10/D&D Brenten
作動方式:反動利用
使用弾薬:10mmオート
装填数:11+1
非常に精度に優れた自動拳銃をベースに大口径化、威力を増したカスタムガン。
XD9と同じ10個のポートが空いている。
各部に専用パーツを傲ったレーネ専用の自動拳銃だ。
Wildey/WildeyGuns WildeyMagnum
作動方式:ガス圧利用式
使用弾薬:.475Wildey Mag
装填数:8+1
自動小銃並の発射ガス利用方式及び閉鎖方式を持つマグナムハンドガン。
レーネのモデルは銃身長6インチ。
対応している銃弾が多岐にわたる為、ユーザー自身の手で作動ガス圧の量を変えるダイヤルが銃身基部に搭載されている。
Automag/AM .44Automag
作動方式:ガス圧利用式
使用弾薬:.44AMP
装填数:7+1
ウィルディに似たガス圧方式を利用するマグナムハンドガン。
強力ではあるものの、複雑で未熟なガス圧方式により不良を頻発してしまう。
レーネのオートマグはオラフの手によりガスバイパスパーツからすべて見直され、作動不良は多少減った。
PPK/Walther PPK
作動方式:反動利用
使用弾薬:.380オート
装填数:6+1
レーネの左足首のホルスターに納められる小型自衛拳銃。
消音器を装着できるが、消音器自体はかなり顔の広い商人相手でなければ購入できない程希少。
LCP/Ruger LCP
作動方式:反動利用
使用弾薬:.380オート
装填数:6+1
“軽量小型拳銃”の名を冠する小型自衛拳銃で、レーネの右足首に装着される。
大陸の中ではXD9V10より新しい拳銃である。
Model500/S&W Model.500
作動方式:リボルバー
使用弾薬:.500ドラゴンキラー
装填数:5
使用弾薬名の由来は『ドラゴンすら撃ち倒せる弾薬』という意味がある。
史上最強、最大のリボルバーで、レーネが持っていたモデル53の数倍のパワーを持つ。
銃身長は8インチで、パワーはあるが反動が大きい。
500 SPX/Mossberg 500 SPX
作動方式:手動
使用弾薬:12ゲージ散弾
装填数:6+1
レーネの背中に背負われる至近距離用ウェポン。
手動方式の為連射力には劣るが、確実に作動させる事が出来るのが強み。
また、専用の銃床(肩に押し当てる部分の事)には6発の弾薬をキープすることの出来るホルダーが装着されていて、素早い再装填が可能。
MD-97/Imbel MD-97
作動方式:ガス圧利用式
使用弾薬:5.56mmライフル弾
装填数:30+1
レーネの背中に500SPXとクロスするように背負われるライフル。
連射可能で、且つ高い威力を持つ為盗賊達の間でも畏れられている。
代わりに大柄で、至近距離では有り余る貫通力故に逆に威力が減退する事がある為、中~遠距離をカバーするサブ武器である。
実銃の画像は、申し訳ありませんが気になった方から画像検索していただきたくありますです。
以上がレーネの装備する武器となります。
結局オートマグになっちったよ……