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四話『少し進んだ町のイカしたオッサン』

――迷いの森。

アンデッドに追われ、戦いながら二人は漸く外に出た。

「ハァァァッ! ハァァァァッ……!」

ただ、ハロルドは致命的とすら言える程に疲れきっている。

目を見開いて、膝に手をついて限界まで息を吐いては吸う。

「お疲れ~頑張ったじゃない? 2、3体は斬り倒したわよ。まぁ後の20体は全部私が撃ったけどね」

レーネは相変わらず余裕そうで、くるくるとモデル53リボルバーを回してホルスターに押し込んだ。


「う、うん。ありがとう」

彼は剣ひとつ押し込むのにすら苦労したが、なんとか持ち直してレーネに案内されて街へ向かう。

「この先の城下町に、私の銃を作る銃工(ガンスミス)がいるの。このリボルバーは襲ってきた盗賊から頂戴したその場しのぎだし、弾も切れたから一度町に行きましょ」

ハロルドは銃を見たことはない。

今レーネが持っている銃が初めてだが、非常に強力な武器であることは判った。

だが、彼女が喋っている事はさっぱり判らない。

確かにこの大陸の言葉だが、異国語の様だ。




二人は城下町に入る。

ハロルドの王国もそれなりに綺麗ではあるが、国土は小さい。

また酒場にはゴロツキが集まったり、あまり治安の良くない場所も点在する。

だが、この城下町は別だ。

彼にはまるで同じ大陸とは思えなかった。


それほどまでにこの町は発展が凄まじく、また人々の服装も綺麗だ。

「こっち、こっちよへっぽこさん」

まるで故郷にでも帰ってきたかのように、レーネは嬉しそうにハロルドを路地裏へと連れていく。

「へっぽこじゃないってば!」

忘れてはならないが、ハロルドは勇者だ。

本来ならば歓迎されて然るべき存在なのだが……

彼にもそれは身に余ると感じたのか、特に住人の反応は気にしていない。


「こっちこっち!」

彼女は路地裏にひっそりと構えられた店に入り込んでいった。

ハロルドも小走りで追い付き、続けて入る。


店の中には、ハロルドが見たこともないような銃ばかりだった。

「すっごいや……」

レーネが持っている様なリボルバーから、長い槍のようなライフル、中にはただの筒にしか見えない物もあるが、注意書には『店主以外の接触を禁ず』とある。

どうやら相当に危険な代物らしい。


「オラフ~? オーラーフ! いないのぉ?」

カウンターに置かれたベルを親の仇のようにりんりんとしつこく鳴らしてレーネが店主を呼ぶ。

「喧しいぞレーネ。少しはエルフらしく――おい、後ろのガキは何モンだ?」

カウンターの向こうにある扉が開いて、恰幅のよい、帽子を被っている以外は如何にも『堅気の職人』らしい男が現れる。

「人間」

「ンなモン見りゃ判る」

銃を見ていたハロルドを見て、男は彼を呼び寄せた。


「そのナリ――お前、勇者見習いか?」

銃工オラフが品定めでもするかのようにハロルドを爪先から頭の天辺まで見つめる。

「い、一応! 魔王討伐の“勇者”です!」


「ほォ……」

二人が話始めた刹那、苛立っているのかレーネは木製のカウンターをとんとんと白く細長い指でノックし始める。

だが、話は終わりそうにない。

『冒険者の心得』だとか、そんなオラフの昔話のような話を聞かされているハロルド。

まだまだ話に先はありそうで、レーネは遂に痺れを切らした。


素早く銃を引き抜いて、オラフの眉間にモデル53を向ける。

「お前……俺が作ってやった銃はどうした!?」

銃を向けられながらもオラフは特に動じず彼女に問う。

横ではハロルドがわたわたと狼狽している。

だが、オラフはプロだ。

“判っていた”のだ。


モデル53には空薬莢しか入っていない。

リボルバーは構造上、前方から装弾が筒抜けとなる。

隠れるのはレーネのモデルのように6発装填ならば底辺と天辺の2発のみで、残り4発は筒抜け。

だが、上と下にだけ弾が残る事は事前に細工しない限り有り得ない。


つまりオラフが心配すべきは銃身に直結した天辺のみで、後の5発は空だろうと関係ない。

「壊されたわ。代わりに、盗賊からコイツを奪ったの。でも馴染まないし、威力無いし、弾少ないしで困ってるのよ。だから今すぐ用意して! 私の銃を!」

まるで駄々っ子のようにレーネは叫ぶ。

すると、オラフが少し強い力でハロルドに一枚のメモ書きを押し付けた。

「銃は用意してやる。だから、お前はここにある店で商人から弾を買ってこい。ウチじゃ作ってんのは銃だけ。俺かレーネの名前出しゃ、少しは安く買える!」

出ていこうとするハロルドにそう話して、オラフは眉間に向けられたモデル53を奪い取った。


扉が閉まったのを確認して、オラフはゆっくりと帽子を取る。

「全く、ひでぇ扱いしたモンだ。銃が泣いちまう。で、レーネ? お前みたいなお転婆エルフがなんであんなナヨナヨした“人間”と一緒にいるんだ」


「判んない。ただ、旅は道連れって奴よ。あんなへっぽこだと、逆に面白いの」


「お前は人間をバカにしてるぞ、レーネ。人間ってのはな、『大事なものを守る時』にゃどんなへっぽこでも化ける。特に、あの手のナヨナヨしたヤツはな」

オラフの耳は、長い……

エルフの特徴である長い耳を、彼は帽子を深く被る事で誤魔化していたのだ。


だが、レーネはまるで信じていない。

彼はそんな彼女に溜め息を吐き、ハロルドの様子を見てくるように言って店から追い出した。

「――ま、いつかイヤでも信じるさ。針の塔まではまだ遠い」

カウンターに隠していた一挺の自動拳銃を引き抜いて、オラフは意味ありげに微笑んだ――

次回、レーネがフル武装!←

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