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#人類は滅亡しやがりました   作者: 鴉野 兄貴
守護者を討て。
5/17

モフモフが足りない

「我等に足りぬものがある」


 不死身の魔王。沙玖夜サクヤ様は深刻な顔をしている。


「何が?」


 俺様は先ほど屠殺した牛を綺麗にさばいている最中だ。食いにくい部分はバイクに投げる。バイクは巨大な口を生成。バクバクと豪快に骨ごと食べる。


「……モフモフが足りんと思ったことが無いか?」


 コレが、今回の騒動の発端ほったんだった。


 旅をしていても、枯れた樹木(多くは機械生物のえさになっている)や動物の写真が残っているのみ。

 現在の地球には俺様たち以外に目に見えるサイズの生物はいない。(菌類は多少生き残っているかも)

 ああ。深海にはいるかも。機械生物どもは水苦手だし。


「もふもふ?」

 俺様が問うと彼女は黙って首を縦に振る。

「こう、可愛いとか萌えとか言うものだ」

 真剣な顔で言うので思わず噴出してしまいそうになる。


「お前とか?」


 からかったつもりが真っ赤な顔で慌てふためく魔王様。

「なっ?!」

 はい。バカップル。バカップル。まじスィーツ。

 耳を染めてもじもじしだす魔王をさっさと追いたててバイクのサイドカーに載せた俺さま。

 食料になる肉、素材となる皮や骨などは別のバックに摘む。


「食うなよ?」


 俺様の一言。

 バイクは不満そうに不調なエンジン音を鳴らした。


 魔王はしばらくサイドカーの上で悶絶していたようだが、恐ろしいものを見た気がするので無視することにした。


 夜闇の中、パチパチと薪が爆ぜ、煙とともに冬空に残滓を残す。その熱さを伴うかのように胎に力を籠める女と男がいる。


「う……ぁっ!つうぅっ……!!

 うううん。ああっ!」


「痛いかも……もう少し我慢して……大丈夫だから」

 はぁ。はぁ……と甘い息を吐く沙玖夜。


「もう少し。我慢して……すぐ良くなるさ」


「うっ……ああああああっ!!!」


「よし!犬に猫に豚にウサギかっ!!」

「バルルンバルルン!(快調なエンジン音)」


 快哉を叫ぶ俺様たち。肩を震わせてため息をつく魔王。

 エロ展開?んなわけないじゃん。手もロクに握らせてくれねぇのに。

 何でも作れる一家に一柱の便利な魔王だが、生物を作るのは自分の身体から引きずりださないといけないらしく、恐ろしい苦痛を伴うらしい。


「よし!さばくぞ!」


 バイクも分け前をもらえると喜んでエンジンを鳴らす。


「当面食えるな!!」


 すばやく犬と猫を捕まえ、豚を縛り、ウサギからさばいていく俺様を見て。


「……な」


 あ、バイクが待ちきれないのか近くに寄った犬猫と豚食っちまった。


「食うなぁぁぁぁあっ」


 泣きながら叫ぶ魔王・沙玖夜様に一瞬思考停止状態になる俺様。

「え~ん。え~ん。えぐっ。えぐっ」


「……」


 地面に女の子座りして泣き出す魔王とか洒落なってない。こうなると手がつけられないのだ。必死でご機嫌を取る俺たち。


「モフモフがぁ~。私のモフモフがぁ~」


 意味わからん。


「ホレ、モフモフだ」


 俺様は猫じゃらしのおもちゃ(先日都市部の散策で発見した)を沙玖夜の鼻先にて振り回す。


「……」


 凄い勢いで掴もうとする彼女だが、俺様の持ち上げるほうが早い。ぐずっ。ぐずっといまだ機嫌を直さない彼女の前で猫じゃらしを更に振り回す。


「……」


 すばやく彼女の手が動くが、二度、三度とその動きは空を切る。


 最近、彼女の稽古(と呼べるか疑問だ。どうみても治癒能力を用いた虐待である)についていけるようになってきたのでこれくらいは可能である。


「ホレホレ。う~りうり」

「フー!!!」


「うひゃひゃ♪」

「みゅー!」


 こりゃ楽しい。泣きべそをかく魔王の周りで猫じゃらしを振り回してしばし時を忘れる俺さまだったが。


「いい加減にしろっ!!!」


 正気を取り戻した沙玖夜。

 見事なパンチが俺様を捕らえた。


「つまり。ペットがほしいと」


 黙って頷く沙玖夜。

 それで最近景気よく肉を作ってたのか。納得である。


「俺さまもほしいと思ってたわ」

「やっぱりか!そうだよな!!」


 喜ぶ魔王・沙玖夜。


「やっぱよ。バイクや召喚より男なら戦車だよな」


 そんでもって犬には武装を施したい。

「メタルマックスがしたいわけではないっ!」

 男の浪漫を完全否定にかかった魔王と俺さまはしばし喧嘩した。


 そもそも、生物を作ったところで彼らの食料が無い。

 沙玖夜は不死身だから本来食事を必要としないが、俺は機械生物を倒してバイクに食料というか食いカスを恵んでもらうか、沙玖夜の生成する生物を食うしかない。でもって、彼女の生物生成はとんでもなく痛みを伴うらしく、おいそれと使える能力ではない。


「結局は生態系を作れるほどの生物を生み出す必要があるから断念したじゃないか」

「うううう」


 そうなのだ。人間一人が生きるために食う生物のピラミッドというのは恐ろしい数になる。食事目的なら食いたいものをそのまま出したほうが手っ取り早い。

 それができるのが沙玖夜である。


 例としてウサギを作るならその食料となる充分な植物が必要だ。

 植物は水と太陽光線、菌類の補助を必要とする。ついでに言うと腐葉土もあったほうがいい。

 でもって、機械生物は有機物を何でも食料として食ってしまう。

 ようするに、現在の地球では、そんな環境を維持するのはかなり無理がある。


「しかしっ しかし! 萌え成分がほしいのだっ!」


 意外と食い下がる。致し方ない。秘蔵のこれを。

「バッファローベルの写真集見つけたからコレで我慢しろ」

「……それは微妙に違う」

 というか、誰得だったんだ。コレ。


「ベルたん可愛い♪」


 ……って。気に入ったのか。

 しばらくおとなしくなるだろうな。


 そうして妥協をさせていたが、いまだペットの夢を諦めない沙玖夜に俺さまは困っていた。

 携帯端末を投げる。


「とりあえずポケモンかドラクエモンスターズで妥協しろ」

 モンスターファームもあるが、全てのCDが電脳世界にある現在、正直醍醐味が減ったと思う。

「ドラクエは嫌いだっ!!」


「……?」


 そういえば、魔王が不細工だ、イケメンでもパンツだから嫌だといっていたが。

 デスピサロが人間への憎悪であの姿になる展開でマジ泣きしていたし。


 いくら自分が本物の魔王と言っても、フィクションの魔王に感情移入しすぎだと思う。


「ほれ、テリー。テリー」

 オリジナルの6の本編では戦闘イベントで拡大画像になるのでアレはアレでファンにはトラウマである。

「……うううううっ」

 テリーかっこいいといっていたので、展開については黙っていたが、戦闘イベントで半泣きになっていて大笑いしてやったのはいい思い出である。

「少しだけならやってやらんわけでもない」


「そうしろって」

 魔王様。サイドカーに乗りながらしばらく携帯端末をいじっていたが。


「……!!」


 急に怒って携帯端末を踏みにじりだした。

 ナノマシンによる自動修復機能があるが、個人専属人口知能エーデルワイスには災難な話だ。


「やめんかっ!! エーデルワイスが何をしたんだっ!! てか泣いてるし謝れ」

「エーデルワイスは悪くない。がっ!

 粘菌より私のほうが不細工ってなんなのだ!」


 確かにスライムと魔王じゃ。

「性能はいいだろっ!」


 ちなみに、本編5だと普通のスライムレベル99は鬼性能になる。灼熱の炎?連射とかは洒落にならん。


「それで許せるかっ!!!」


「……許してやってくれ。エーデルワイス」

 代わりに謝る紳士な俺さま。『肯定』とだけ携帯端末に表示があった。彼女が温厚な電子妖精でよかった。


「取り合えず。瑠寧でも呼べば?」


 沙玖夜自身の腕を切り落として具現化する魔族・瑠寧のことだが。

「蛇は微妙にモフモフと違う」


「……お前、部下の信頼失ったぞ。今の発言。

 とりあえず、バイクで我慢しろ」

「ううう」


 普段可愛がってるし。

 ちなみに、人類が唯一手懐けた機械生物はこのバイクのみだと思う。連中をハッキングして手懐けることを考えた奴はいないわけではないが、『核』『予備』『悪役』『端役』による内部世界作成システムによるバックアップを崩すことはできなかった。


 コイツのみが、コンピュータの無い旧式ハーレーダビットソンと同化した結果、機械生物としての本能よりバイクとして行動しているのだ。


 勿論、機械生物のネットワークから外れている。つまり、ボッチである。


「ううう」


 とりあえずバイクを撫でている魔王を見ながら、俺はひとつの着想を得て電脳世界にもぐりこんだ。


 ふぉふぉふぉ。

『男の萌えといえばメイドさんだよな!』

 バイクのデータを人工知能に解析させ、機械生物を改造。萌えない生意気なバイクじゃなくて人間そっくりの可愛いメイドさんを作る! いい計画だ。

 悪魔神族具現化プログラムで魔族を作れるのだからメイドさんくらい楽勝だろう。

 俺の計画を聞いた人工知能陣は大興奮。バイクの解析は意外とあっさり終了。世の中マッカである。


「では、我らの新しいペットを」

「お~」


 とりあえず、機械生物で妥協してくれと説得するのに3日かかった。エーデルワイスの機嫌を戻すのにも3日かかった。女の機嫌を取るのは難しい。


 女の機嫌を取る事業。それは果てない歴史の流れの中、お母ちゃんが本日の献立を考え続けたように人類の英知を振り絞って行われた難題である。


「もふもふなんだろうな!もふもふなんだろうな!」


 うん。主におっぱいとか。おっぱいとか。

 喜んでいる魔王様の横で人工知能に指示を飛ばす。


「エーデルワイス。頼む」


 そして現れたメイドさんは。

 その素晴らしい容姿に俺たちは唖然呆然。


「おい」

「……これは違うと思うぞ」


 機械でできた巨大な恐竜たち。

「これは。メイドじゃない」

「むしろ。ゾイドだな」


 エーデルワイスの機嫌は直ってなかった。



【独白】


 暖かい日差しの中、私は心地よいまどろみに身を任せて眠り続ける。

 花の香り、優しい風が心地良い。


 瞳を少し開けると一面花、花、花。……美しい。

 そうしてまた瞳を閉じる。こんなに安らかに眠れたのは何年ぶりだろうか。


「先生。風邪を引きますよ」


 誰かが起こしに来てくれたらしい。

 妻のことを思い出す。若い日はこうして貴重な休日を二人で過ごした。

 今は亡き妻の面影を瞼の裏に残し、ゆっくりと視界を広げていく私。


「君は?」

「……先生?」


 どうみても馬だが。喋っている。


「……??? 馬が喋っているぞ」

「先生? 落ち着いてください」


 初めは戸惑ったが私はこの村の医師らしい。

 らしいというのは私以外の「人間」がいないことだ。

 馴れれば人間も動物も大差なかった。むしろ人間より素直な『住人』と私は幸せに暮らすことができた。

 馬の名前は『セシル』。

 昔、牧場にいた愛馬を子供のころそう呼んでいたのだ。


「先生。羊のメリーが怪我を」

「先生。牛のラムちゃんの子供がうまれそうです」


 馬にはニンジンという。

 私は丹精込めて育てたニンジンを彼に。


「先生。ニンジンは野菜の中では糖分が多めなだけです。私はキャラメルか、果物のほうが」


 言うべきことはきっちり言う助手である。

 セシルの駿足はたいしたものだ。野山をかけて罠にかかった狸の親子を助け、川の中洲にとりのこされた子犬を助けと医者であるのみならずこの村唯一の人間である私の生活も忙しい。


 ある日。一人の青年が村の前で倒れていた。何処から来たのか知らないが、私は彼を介抱する。初めて見た別の人間だ。死なせるわけにはいかない。


「……気がついたか。まだ話さなくて良い」


 おっと、今日は小鳥の夫婦の巣を見てやる予定だったな。

 青年は何も話さなかったが、私の仕事を手伝うようになっていた。

 それから何日過ぎたのだろうか。


 ざっ。ざっ。

 近寄る長靴の音。

 かちゃかちゃと鳴る動物の住民が嫌う鉄の香り。

 火薬の臭いが舌を焼く。

 振り返るまでもない。見るまでもない。

 彼は私の背にずっと立っている。

 何か言いたげに。ナニを言えばいいのかわからぬかのように。


「先生」

「……私を殺さぬのか? 青年」


「……!!」


 気がついていないと思ったのだろうか。罠をかけたのは誰か?

 私以外に人間など『この世界にはいない』のに。


「思いっきり、やってくれたまえ。

 泣くな青年。それでは『悪役』になれぬぞ?」

「……!!」


 私は死に損なったはずだ。生きているとか、動物が話すとかありえん話だ。


「先生? 何を言っているのですか。早く逃げて。私の背に乗って!!」


 セシル。もういい。


 夢なら早く醒めてほしい。

 そして妻を抱きしめたい。


 確かにセシルはいい友だ。

 だが、この状況はありえない。

「……リア充。氏ねぅ!!」

 セシルが斬られた。悲しい。次は私だ。

 彼の刀が私の胸を貫く。これでいいのだ。


「こ、これは……」


 青年が狼狽している。ふふ。そうだな。驚いてもおかしくは無い。

 やっぱりか。私はあの農場にいた。


 あちこちで牛や馬や豚が死んでいる。

 大地震が起きた。信じられない津波が起きて近くの原子力発電所がメルトダウンを起こしたらしい。

 強制避難中に大量の放射能を浴びたことも知らずに妻はバスの中で息を引き取った。

 私はやっとの思いでしばししてから帰還できたが、人間の世話を受けること叶わず、綱につながれたままの動物たちは皆死んでいた。


 それでも、除染さえ行えれば。

 除染作業さえ進めば。私は電力会社に賠償と除染を願い出て裁判になった。


 あの結果は忘れられない。


『放射能は自然物であり、わが社には除染の義務はない』


 その理屈ならばと私はかの電力会社に私の農地の土をおいていった。「タダの土」だというなら問題はない。

 だが、私は逮捕された。笑えない冗談だ。

 全てが終わったとき、私は全てを失っていた。

 私は放射能まみれの農場で首を吊った。


 それが最後の記憶だった。


 ああ。苦しい。縄が私の首を締め付ける。

 首の骨が折れているらしい。

 身体の下部から排泄物がとめどめなく流れ、身体がぶらぶらとして……。


 ごと。


 頭を少しうったようだ。

 私の身体が見える。


 青年が刀を手に涙を流している。泣くな。青年。これでよいのだ。


 私は牧場を経営していた。


 ふしぎな村のお医者さんになれた。


 誰かのために生きる夢を見ることが出来た。


 本当に本当に幸せだった。

 幸せだった。


 妻よ。今そちらに。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



 討伐守護者サーバーDATA……『傲慢(平等)』「ドゥーリトル」&「セシル」


本体ハード

 稼動停止した原子力発電所。


コア

『ドゥーリトル』(本名不明)

 電力会社と時の政府の人為的なミスの所為でおきた原発事故により全てを失い、首を吊って抗議するも揉み消される。享年42歳。


【役割】

『動物のお医者さん』

 ……消滅(DATA LOST)


予備バックアップ

『セシル』(本名不明)

 某国より災害派遣された軍人だが、放射能汚染されているのに孤立している村があると聞きつけ、彼らの救出に向かう。

 無事、村人たちを救い英雄として称えられるも、大量の放射能を浴びていたことが判明。その後、末期ガンに犯され、衰弱していく。享年32歳。


【役割】

『医者の愛馬』

 ……消滅(DATA LOST)

(Please wait... DOWNLOAD NEW)


【悪役】

『オオニシ タカシ』

 電力会社の最高責任者。

 最も早く逃亡。責任逃れに終始した。

 役割『ハエ』『蚊』『病原菌』『寄生虫』

 ……消滅(DATA LOST)

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