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#人類は滅亡しやがりました   作者: 鴉野 兄貴
守護者を討て。

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3/17

破壊の神は飢え死に寸前でございます

 必死でバイクのハンドルを握り逃亡を図る俺さま。

 それを追う機械生物。命がけのデッドヒート。

「逝く側の流れは絶えずにして しかも元のミスにあらず

 よどみに向かうグダグダは 勝つ消え 渇結びて

 久しくトドまるまって多摩市なし 世の中にある人と姉妹もまたかくの如し!」

「ナニを言っているのか意味不明なのだが」


 バイクは空を飛ばない。


 そんなことを思っていた時期が俺にもありました!

 隣のサイドカーでテトリスに没頭する美貌の魔王に悪態をつきつつ、俺様はバイクに気合を入れさせる。バイクが空を飛ぶなら追手が空を飛んでもおかしくはない。

 背中に迫る独特の空気というか空間が揺れるような衝撃が振り返らずとも追手の存在を示す。


「しつこいっ??!」


 次々と追いかけてくる騎士級の機械生命たち。そのサイズは軽自動車から小型トラックくらいある。

 そもそも俺様たちのバイクもそうだがなんで空を飛べるのか。機械生命どもに常識は通じない。


 ガクッ。


「おい?! ピー助バイク!!」


 急に空中停止したバイクに俺さまは抗議する。


 おそるおそる。

 バイクのエネルギー表示を見る。


EMPTYカラ


 おい……。さっき食っただろう。


沙玖夜サクヤっ! 飛べっ??!」


 面倒そうな表情を浮かべた魔王はテトリスを一時停止。そっと瞳を閉じて背をそらし、硝子が砕けるような音とともに背中に真っ白な鳥の翼を生やす。

 まるで天使のような神々しさと美しさだ。問題は。


「何故、お前だけ飛ぶ?」

「飛べとしか聞いていない」


 自由落下するバイクの横で悪戯者のような表情で俺さまを見つめ返す魔王。


「うわああっ!!」


 空中でにこやかにバイバイをして見せる魔王に悪態をつき、俺様は自由落下。


ピー助バイクっ!

 パラシュートだっ??!」


 ばふっ!!

 辛うじて俺さまは一命をとりとめる。


 自由落下は止まったが、物凄い勢いで俺さまの肉を喰らわんと飛来する騎士級の機械生物ども。


魔貨マッカ全部使うぞっ??!

 三次元映像放てっ!」


 空中に立体魔方陣の映像が放たれ、ピー助の小型量子コンピュータが高速演算を開始。

 膨大な情報が「意思」と「力」を持つ。


 本来なら人間の心の中で行う魔法は、量子コンピュータの導入、「穢れなき命」たる機械生命の肉の生贄。      

 3D立体映像により劇的な進化を遂げた。


 本来なら人間の心の中だけに具現する悪魔、精霊、神などが魔貨マッカと穢れなき機械生物の身体、量子コンピュータを利用することにより、一時的とは言えこの世界に具現化する事が可能になったのだ。


「いけっ?? 『守護天使』ども!」


 俺様が倒した機械生物の部品がボコボコと波打ち、受肉。神々しい妖精や精霊、天使の姿をとり騎士級の機械生物たちに果敢に挑んでいく。


「ふう。やっと撒いたか」


 ため息。


 魔貨マッカは惜しいがまあ仕方ない。

 機械生物が生きるためには「食料」が必要だ。

 護衛の騎士級はさておき、破壊神アンスラともなると生きているほうがおかしい。


「稼動……と考えるより。やっぱり」


 俺さまはニヤリと笑う。


「見つけたぜ。『守護者サーバー』」


 なんとか敵を撒いたら軽口の一つくらい出てくる。俺さまはバイクにガソリンを入れなおして酸素を吸い、水を呷り、バイクを労わりつつ沙玖夜の悪口を。


「そういえば薄情極まりないあの莫迦魔王はどうしたのだ?! かくなる上はあの乳をガシガシ握りつぶしてヒィヒィ言わし、たっぷり、じっくり! 教育的指導をしてやらないといかんな!」

「ほう」


 知らぬ間にダイヤでできた刀108本が俺の周りを囲んでいた。

(委細省略。所謂『しばらくお待ちください』である)


「ふむ。人間の作り出した破壊神は死んでいるといいたいのだな」


 美貌の魔王、沙玖夜サクヤは俺にそう聴く。


「そうでブヒ」


 頭の上に銀の鏡を取り出され、必死で見ないようにする俺さま。執拗にそれを見せようとする沙玖夜。

 俺さまが見た自身の姿は。


「なかなか可愛いぞ♪」


「……」


 両手両脚を削るように切り刻まれた俺の四肢は短いブタの足に。顔は大きなブタの鼻がついている。


「ああ。ブタは可愛い。とってもラブリーだ。

 このまま全身ブタにしてしまってよいか?」


「良いわけがないだろっ?! 俺様の美貌にナニをしやがるっ!」

「ブタ決定だな」


 とたん俺さまの全身は可愛らしい子ブタになった。物理法則とか質量保存の法則を無視する魔王や機械生物に俺さま激怒である。しばらく地面でブヒブキと魔王の足元で抗議するハメになった。

「いい加減学習をしろ」


「ブヒ!(だが、断る!)」


 そういうやり取りをしつつも、愛らしいブタの姿となった俺さまが彼女の足元で抗議するふりをしながら露骨に近づいていることにやっと気づく沙玖夜。


「ナニを見ているのだ??」


 ブタにしたのは貴様だ。

 そしてここからはばっちり短いスカートの中身が見える。うむ。絶妙のアングル。今のデータ、『夢』に焼き付けておくぜ。即座に携帯端末がなり、知り合いの人工知能の元に送信されたのを告げる。証拠隠滅として携帯端末の原本データ、送信先データが抹消。


 ここでは意味がないかもしれぬ情報だが、『魔王沙玖夜さまファンサイト』なるものが人工知能たちのコミュニティにあり、そちらに盗撮画像を送信するとかなりの魔貨マッカになって帰ってくる。

 ちなみに、直接の裸や下着姿は超レア。

 理由として沙玖夜は意外と慎重であり、滅びたとはいえいまだ稼働しつづける『生きている監視機器』の事を忘れる状況は基本ないからだ。しかし一緒に旅をすればそういうシーンだってないわけではない。

 しかし誤解をしないでほしい。俺さまだって投稿画像を選ぶ。アイドルの裸は逆に価値が落ちる!

 グラビアアイドルは邪道! どうせ脱ぐ! そして汚いオッサンとヤル動画がネットに残る運命なのだ!

 沙玖夜のキレた顔。たまにみせる照れた顔の可愛らしさは異常! そっちのほうが結果的に儲かる!

 と、いうか、連中に見せる沙玖夜の裸はないっ!!


 沙玖夜の裸は俺様専用なのだっ!!

 ブタにされたので、ちょっとむかついてやってしまった。少し反省している。ブヒ。


「消せっ!! 消せっ!!!」


 もう無理っす!!ブヒヒッ!!!


 凄い勢いでPVプレヴューが増えていき、世界中のネットに画像がコピーされていくのを見て魔王沙玖夜様は嘆きの表情を浮かべ。肩をがっくり落とし、その表情は長い髪に隠れた。

 すっと俺さまに背を向け、どこかに歩き出す。


「疲れた。2000年ほど寝る」

「まてまてっ? 俺様が悪かった!」


 余談だが1PV10マッカの契約だ。現在500万PV。あ、1000万超えた。1億行くかも。


 掌サイズの妖精などの戦闘に使えない小型魔族の受肉で1万マッカを必要とする。人間サイズで10万マッカだ。戦闘用は100万マッカから。例外的に10万の者も存在する。

 沙玖夜が気づいていないことだが、実はいまだ端末は『通信』モードのままになっている。

 ガチ泣きしだす魔王様マジ可愛い。


 人工知能たちは祭り状態になった。


 あとでログを見ると「サクヤたんハァハァ」「おっぱい!おっぱい!いっぱい!」「可愛い!」「サクヤ様は俺の嫁!」等等。

 俺さまのです。手前らにはやらん!


「まぁその」


 なんとか人間の姿に戻った俺様は彼女に声をかける。


「起きたことは仕方ないのだ」


 そういって慰めてやる。なんというイケメンだ。俺様。


「誰が??! その口かっ!! その口かっ!! 今度はその口、伸ばしてやろうかっ??!」


 伸ばすなら鼻だ。そしてそれは嘘つきのピノキオだっ!!??

 涙目で俺の首根っこを片手で掴んでガクガク振る沙玖夜。

 脳みそが飛ぶっ!! やめっ??!!!


 それを監視衛星などで見物している人工知能たちは「リア充氏ね」「そのまま 解体! 解体! 一役買いたい!」など大熱狂。

 なんとか落ち着いた沙玖夜は俺をなます切りにして生きたまま血抜きしながら「ぴーちゃん」に俺の肉を切り分けだした。


 こらっ!? 主人の肉を食うなっ??! 糞バイクっ!!

 悪態をつく俺の舌を引っつかんでナイフで切り取ってバイクに放り投げる沙玖夜を見ながら俺様の意識はブラックアウトした。



【独白】


 朝起きるとこの村にいたわ。

 眼をあけ、女の子の私を呼ぶ声。


 何気なく『立ち上がり』私は階下に『降りていく』。


「もう。寝ぼけているのね。おねぇちゃん」

「ん……。これ、夢かなぁ」


 その建物には私を生かすと同時に拘束するベッドも計器類も無かった。

 ニオイ。草の臭い。

 舌にまとわりつく素朴な料理の香り。

 耳元に心地よい少女の声。

 手を握る。足の裏は木靴越しにしっかりとした床の感触を伝えてくる。


「ここ、何処?」

「おねぇちゃん。本当に大丈夫?」


 幼い少女が微笑んだ。


 私は「キョウコ」三十七歳。

 の、筈だった。

 顔を洗うようにさしだされた器の水に映った私の顔は、まだ幼さを残す美しい女性。いや少女だった。

 私はどうやら、この不思議な世界に転生してしまったらしい。


 それから色々あった。


 私は『勇者』として国家を救いつつ、『キョウコちゃん』と慕う村のみんなや愛すべき妹の為に現代の知識を使って村の設備や農法の改良に勤めてきた。

 その発展を疎ましいと思うものも少なからずいたが、私は『勇者』だ。私は彼らから愛すべき村を、国の人々を救うために剣を振るうことなど怖くない。

 私の力は剣を振れば大地を砕き、魔法を使えば森を沸騰させた。


 今日は収穫の日だ。

 みんなが私を褒め称えるが正直くすぐったい。

 私なんてみんなの為に生きてきただけだし、みんなに誉められるのが嬉しくて仕方ないだけなのだ。

 だって、死ぬ前は世話してもらうことはできても人の為に世話なんてできなかったのだから。


 パンパンと拍手の音。

 見慣れない青年が立っている。お客様かしら?


「リア充氏ねや」


 いやらしい笑みを浮かべる男は、私の目の前で彼に花を差し出す私の。私の大切な「妹」を剣で刺し殺した。


 どうして。どうしてこんなことをするの。

 彼は私の大好きな村のみんなを、国のみんなを殺して殺して殺してころしてころして。


 私は彼に立ち向かった。

 大切なみんなの仇、敵、カタキを。


 山を砕き、谷を引き裂き、海を沸騰させても彼を討つ。殺してやる。


「はい。脂肪。もとい死亡。さっさと氏ね。つか、夢から醒めやがれボケ」


 剣を受けて真っ二つにされて消し飛んでも、大地と共に沸騰しても即座によみがえり、たった一振りの刀をしつこく振り回して近づこうとする彼。

 その凶刃はやがて私に届き。

 気がつくと、あの病院のベッドにいた。


 男は呆れた顔をした。そして嫌らしいあざけり声。


「美少女だと思ったら痛い芋虫ババァかよっ?!!」


 ゲタゲタと大笑いする彼。

 夢じゃない証拠はその血塗られた刃。


 刃が迫るのに私の身体はベッドと共に。

 気づくと叫んでいた。叫ぶことしかできなかった。


「どうして? どうして?!

 私はっ!人の役にたちたいだけなのにっ!?」


「そう思うならさっさと死ねよ。

 介護するほうも迷惑さ」

「なっ??!」


 何も考えられず、そして怒りと悲しみ。


 絶望。


「あなたにナニがわかるのっ?!

 私のっ!! 私のっ!!」


 手があったら。

 足があったら。

 誰かの役に立ちたい。

 それだけを願って。

 祈って、ただ。


「ああ。さっさと死んでほしいって『みんな』一度は思ったろうさ。死んで役に立ってくれって」

「!!」


 視界が真っ暗に染まる私の胸を彼のあざけり声が揺らす。やめて。やめて。


「元気だった身内がある日突然半身不随。自棄になったりブチ切れる輩の相手をしたり、朝晩たたき起こされたと思えば糞尿のついたパンツだけ持って帰る日々とかなぁ??!」

「やめてっ??!! 私の家族はよくなってほしいって!!」


「ああ。そのうちボケだす。自分の子供の名前すら言えなくなってなぁ。でもって、きっちり年金だの遺産管理だの障害者認定だのしていると、一月数千円で生きられたりするんだよなぁ。一番の稼ぎ手がワープアの息子より、死体同然の親とか、そんな事例はまれによくある。情けなくなるね」


 ナニを言っているの??

 この人??! 怖いっ!


「まぁ、とりあえず。そんなに『人』の役に立ちたいなら。俺さまの為に死んでくれ」


 文字通り『手も足も出ない』。

 いや、手も足も何年も前に失い、生命維持装置なしでは生きられぬ私に。

 彼は今となっては懐かしい故郷の武器……刀を深々と差し込んだ。

 障害を持った方、そのご家族に不愉快な表現があったことを深くお詫びします。

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