俺様は人類である。仲間はまだない
核兵器が着弾した街の惨状をみても打ち込んだ国の発表を優先して「人工衛星ロケットが誤爆した」とか抜かしている間にえらいさんどもの頭の上に核ミサイル着弾。
ちゃっかりシェルターで安全放送していたつもりだったらしいが、念入りに二発目三発目がきて死亡。
もっともそれだけバンバンうてば津波のひとつ二つ起きるわけで、大津波によってわが国は滅びた。
GPSで確認した限り、大陸の形すら無茶苦茶になった現状を考慮するならば日本列島はある意味一番被害が少なかったのかもしれない。
いったいどれほど地球上に核ミサイルが残っていたのか。
そして人類はなぜそれらを利用してしまったのか。
今では知る術も無い。
俺様は人類である。仲間はまだない。
どこで逃げ延びたのかとんと検討もつかぬ。
なんでも薄暗くてジメジメしたところでギャーギャー泣いていたことだけは記憶している。
俺様はここで機械生命なるものをはじめてみた。
しかも後できくとソレは『ビット』と言う一番獰悪な種族であったそうだ。このビットというのは我々を捕まえて食うという話である。
(省略)
南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。ありがたいありがたい。
「うるさいから辞めろ」
沙玖夜が五月蝿い。
音漏れしていたらしい。
俺様は『ゲーム機』を兼ねている眼鏡をはずす。
いまだ健在らしいスパイ衛星とリンクし、GPS機能を保持。
また今までに人類が開発したソフトウェアや書籍などを保存した代物で、ディープスリープー機能を持ち短時間で長時間の睡眠と同等の効果を持つほか、夢という形をもってものの数分にて数時間分の仮想体験を行うことのできる優れもの。
そしてそれ以上の機能を有しているのだがこれは後述したい。
彼女は手元の電子書籍にご満悦。
魔王の癖に本も読むらしい。
「まぁたまにはゲームでもやってみなって」
ドラクエをやらせて『粘菌ごときがこんな可愛いなんて。悔しい』と拒否反応を出して以来であるが久々にゲームに魔王様を誘うことに成功した俺さま。
誘ったはいいものの後悔した。
「……」
不死身の魔王はゲームでも無敵だったのである。
「まてっ?! ハメ禁止だっ?!」
「解った。別のものにしよう」
桃太郎電鉄でもやろうと提案したら100年間分フルボッコにされ、ドカポンをやったら開幕「排泄物」に名前変更されてフルボッコにされた。死ね。
「たまには仕事をしろ」
沙玖夜の小言が五月蝿い。
もう既に奴と出会って二年が経過した。
早いものである。俺様も四〇歳。不惑となった。
「中身も外見も変わらん。成長したらどうだ?」
沙玖夜の小言が続く。
「無理無理。三つ子の魂百までって言うんだぜ?」
少なくとも人間はそうだ。
しかし事情により俺さまの容姿と身体能力は二十代のころと変わりがない。いや、当時よりずっと優れているといえる。
「それより、お客さんが来たぞ」
「ああ。面倒だな」
放射能だけでもヤバイ状況だが、どこぞの阿呆が『炭水化物や機械を自動摂取して自分の身体にする能力を持つ自立兵器』なる良く解らん新兵器を作っていた。それらはあっという間に地球上に広がり、生き残りの人間やら動物を片っ端から食いまくり、機械を次々と取り込み、食うものがなくなるとお互いを食い合いって勝手に絶滅しやがった。
流石にでかい破壊神(とある漫画からそう俗称した)クラスは稼動停止したがビットクラスは今でも人間の残滓を求めて活動している。
既に地球からは人類の姿が消えて久しい。
人類に止めを刺したのは有機物を直接エネルギーに変換可能な機械生物。
人類にとってかわって現れた現在の地上の支配者である。
どうも俺の持つ石油の匂いに釣られてきたらしい。
こいつらは有機物なら何でも食って栄養に出来る。面倒な奴らだ。
「ビット4匹。バラして魔貨に換えるか?それとも素材にするか?」
「好きにしろ」
「行くぜっ!」
俺は刀を抜いて挑みかかった。
沙玖夜は肩をすくめて見守っている。
ドカバキ スイィーツ(笑)
「つれづれなるままに その日暮らし 机に向かいて 画面に浮ぶヨッシーなどを
そこはかとなく 動かしまくれば あやしい事見苦しけれ」
ちょっとごめんよ現在は 人間の生理現象の楽しみよ♪
「イデや この世に 生まれちゃ ネガしたいことは大カラン♪
スペースらんらんらんイデオ。ででおん♪ ガルカ♪ ガルカ♪ ガルカと私♪」
スーパーマリオは1と譲って2までが最高傑作である。が、3も悪くはない。
「ゲームをやりながら大便か」
沙玖夜の呆れ声にももう馴れた。
バイアス・グラップラーだか機械生命体だか。
昔はさておき俺たちの敵ではない。
だれだ。俺さまが負けたとか思った奴は。
むしろ連中は、バラせばバイクの部品になってくれるし、場所しだいでは優秀な薬やら武器の素材になる。
「紙出してくれよ」
「私は尻拭き紙ではないぞ?」
ケチケチすんなよな。
顔をしかめる彼女だが照れているのか。
こりゃイケメンは辛いね。
「はっ? 遂に俺さまのアナルを舐めたいと来たかっ!?? そうかそうか!素直になったなっ! 今なら竿もつけよう!」
直後、物凄い量の水が俺を押し流した。
というか、コレ津波だからっ???!!
「綺麗になったか?
まったく。こんな男にこの私が殺されなければならないとは」
水と泥にまみれた俺の耳に沙玖夜の何度目か判らないため息が聴こえる。
だが。お前の本当の望みはわかっている! なぜならっ?!
「ズボンが脱げたぜ……ふっ。見たか俺さまの聖剣を」
「剣?」
沙玖夜が冷たい目を向けたが黙殺。俺さまは続けて台詞を放つ。
「今日こそお望み通り死ぬほどいい目にあわせてやろう」
斜に構えてエロティックポーズを決める。
「や ら な い か」
今、俺さまの歯が光ったに違いない。
自慢じゃないが俺さまは唯一の人類である。
つまり必然的に世界一のイケメン。人格者。最強の勇者で最優秀な子種を有するのは確定的に明らか。
……あくまで人類では。な。
なんすかそのダイヤを豪華に埋め込んだ篭手はっ?
俺は謎の爺からオリハルコンのカイザーナックルを託されたりしてねぇ?!
「おおぉィ……。今の聴こえてにぃ……。
親の結婚指輪のダイヤのネックレスでぶん殴るぞ」
お前親いるのかっ??! てかそれは指輪でもネックレスでもないっ??!!
全身を殴打され、ダイヤモンドでできた剣で四肢切断。傷を癒す力を過剰にぶち込まれて全身がガンに侵された後、飛来した蛆虫軍団に体中を食い破られ(多分骨になった)、最後に綺麗さっぱり治った身体に新しい服が差し出された。
こういうわけで俺は不老不死である。単純に沙玖夜が死んでも蘇生するし若返らせるだけともいう。
「……ワンモアセッ?」
沙玖夜はニヤリと笑ったが俺は首を左右に振った。
イケメン(?)の黒人その他大勢が怪しげに筋トレしながら踊るDVDを無理やり見せてみたところ微妙に気に入ったらしい。
「アレ、気に入ったのか」
「うむ」
よくわからん趣味だ。
調子に乗って「DVD! DVD!」と叫んでいたら「意味がわからぬ」といわれた。
「つまり、脱げ」
その爆乳。埋もれさせるには惜しいっ!
(※ 少々お見苦しい光景が映ったことを深くお詫びします 作者)
「ところでさっきの呪文はなんだ?」
沙玖夜はかなり知識が深い(推定年齢2000歳)が人間の文学には疎い。意味が解らないのでしばし問答をしていた結果徒然草のパロディがわからなかったらしい。
「ああ、その後、『人間の生まれはどーしようもねぇが、勉強と歌ができたら気品あるように見える、礼儀と字は綺麗に書いてついでに多少カッコよく酒を呑めたほうが人間かっこいいぜって話さ」
「お前とは正反対だな」
冷たく言い放つ沙玖夜。
「ゲームには詳しいんだぜっ?
つか、人間が他にいないって事は俺よりイケメンはいねぇってことだっ?!」
反論する俺さまを完璧に無視し、虚空に出現した「自主規制」とかかれた布諸共俺の股間を蹴り上げる。
「見苦しいものを隠せ」
俺さまの芸術的な身体をなんと??!! と思いつつ最も大事な金ともいえる場所を打ち抜かれた快楽……もとい激痛に泡を吐いて倒れる俺さま。
「不幸だ。実に不幸だ。なんと不幸なのだ。私は」
沙玖夜は天を仰ぐ。
神様を仰ぐはずのない魔王なのだから天を仰がずとも地面に視線を落としても良いのだが、奴の足は地面にめり込んだ俺の頭を踏みつけていた。
結論。
愛はなくても故意はある。
「腹減った。また腹から鶏出してくれ」
「……手品かなにかだと思ってないか?」
「じゃ、豚にする」
「同じだ。ふざけるな」
(しばらく喧嘩シーンになります。お見苦しいので『ビー』です。 作者)
「はぁ。またコイツを食うのか」
「いつものことだな」
バイクが生み出した生体素材を思いうんざり。
お前は食わないのかと俺さまは言うと沙玖夜は「私は食事を行わなくても死なないのだが」と答える。
もちろん睡眠も排泄も必要としない。そのケツ穴はどうしてあるのかと尋ねたい。
「そうか!」
食事を終え、走行中に叫ぶ俺さまに不思議そうにする不死身の魔王。
「お前にケツ穴がある理由がわかった! つまり、普通のセックスに飽きて」
「ほう……まだ懲りていないと見た」
女人結界の出力があがり、俺様は時速600キロで自動疾走するバイクから転落。
即死したはずだが何故かサイドカーに乗せられ、隣から半眼で睨む魔王の美しい瞳をマジマジと見る羽目になっていた。
人類唯一の男、すなわち最強の男である俺さまもちょっとびびる怖さだ。
乗り手がいないのにバイクは勝手に進む。
俺さまの操縦って何のためにあるのだろう。
そして遭いじゃない。
此奴の暴力は故意である。
至近距離で接触しているわけだから肩は触れ合う。
今、一瞬真っ赤になるのが見えたぞ。
黙っておいてやろう。なんて優しい俺様。
時速六〇〇キロメートル。本来は首がもげるほどの逆風だが、結界とは便利なものである。
何か口ずさみたいところだが歌なんてここ一〇年はまともに聴いてない。漫画やゲームの挿入歌ならさておき。
「ここで食事にするか」
今日の移動を終え、大きな崖から地上を望む。
吹きさらしの大地。吹き荒れる風と砂埃。
核の冬でありながら今日は珍しく雲間から光が差していて都市部が垣間見える。
その中央にひときわ異彩を放つ巨大な建造物とも生物ともいえぬ存在を発見。
「うわ。破壊神いやがる」
「稼動停止しているな」
あのトチ狂った暴れっぷりを知っていると稼動停止していても嫌なものだ。
「ナイトタイプが闊歩していたらやばいな」
「よかったな。魔貨が稼げるぞ」
俺の懸念にニコニコ笑いながら風に身をまかせ、かつて滅んだ人間の町を見物する魔王。
俺が死ねないとおもってマジ楽しそうだなっ?!
ため息をつくと、先ほど解体したビット4匹を「ぴーちゃん」のライト部分に近づける。魔王の謎のセンスで「ぴーちゃん」と名付けられたバイクは嬉しそうに巨大な口を生成してビットを莫迦食いした。
「ガソリンで満足しろよなぁ」
「ぴーちゃん。美味いか?」
快調なエンジン音で返って来た返事に満足する魔王。
ほとんど待たずして「ぴーちゃん」のシートの上から新鮮な酸素と食材が飛び出してくる。機械生命はご飯を食べて生きることができる。なんでもご飯食はガソリンよりエネルギー効率がよいらしい。
一応、多少ならば「同族」から生物起源素材を再構成して抽出もできるらしく、俺の食料事情に貢献している。
「ぷよぷよでもやっておけよ」
適当に端末を彼女にほおり上げる。
沙玖夜はニヤリと笑って「通か」といいながら細くてきれいな指先を巧みに動かしだした。
俺は視線をメガネの中の「店」に移す。魔貨を使い、美貌を持つ女性店員から「ハンバーガー」を買うと俺の脳内と腕に達人シェフの技術が一時ダウンロードされる。
機械生命は同族を食うが、ネット世界の人工知能たちは機械生命が『食った』知識(どうやって得たのかは聞くな)を機械生命の身体を引き換えに提供してくれたりする。
しばしまつと『ハンバーガー』ができていて。
「おい。できたぞ?」
料理が完成して俺さまが呼んでもニコニコ笑いながらぷよぷよを楽しんでいる沙玖夜。このままならマジ可愛い小娘なのだがなぁ。
「今、最大連鎖に挑戦しているっ!」
話しかけるなということらしい。
俺はため息をつくとハンバーガーを口に運んだ。飲み物がほしい。
「おい。牛乳だしてくれ。あ。器は必要ないぞ。その巨乳は飾りではないであろう」
ガタっ!
端末を落とし、彼女は俺を泪眼で睨みつけた。
「貴様の所為でおじゃまぷよがっ??!」
女人結界が再び発動。俺は崖から落ちかけた。
逢った当初。「食事など必要ない」と言う彼女は俺が栄養失調になっていることに気が付くと、苦痛の顔(これがとても色っぽいっ!)を浮かべたかと思うが早いか腹に手を突っ込み、ウサギを取り出して「コレでも食え」といわれて唖然呆然した。
俺がウサギを調理し(人工知能たちが調理法を知っていてよかった)、何とか調達した粉ミルクとバターで簡単なシチューを作ると彼女は大きく目を開き「美味い」とだけつぶやいたのを覚えている。
「美味い飯は心を豊かにする」
「なるほど。今後頼む」
「はい?」
以後、ほとんどの食事は俺が作る羽目になっている。女の癖に料理くらい作れっ!!?
「そーいえば、お前植物とか動物とか作りまくったら飯に困らないんじゃね?」
何とか機嫌を直した魔王。
涙目でお菓子を頬張っている。
こちらも「ハンバーガー」を頬張りながら俺が聞くとふてくされ乍ら返答アリ。
勿論「ぴーちゃん」にもあげる。食い物に煩い。
「そうだな。ウサギの番を養うために必要な草を生み出すのにどれだけ苦痛を味わうか。それに私が耐えられるかだな」
納得した。確かに辛そうだ。
どうせ彼女の精神は破壊されたりはしないが。
「美味い」
ハンバーガーを食う沙玖夜。
「唇にちょっとついてるぜ」
そういってちょっとぬぐってやる。
直接は触れられないが、ハンカチ越しならできなくはない。
微妙に顔が赤い沙玖夜。視線を逸らす。うむうむ。愛いやつじゃ。
……ってナニを見ている? あれ??
「……いま、アンスラが……つか、こっち向いてなかったっけ?」
「肯定だ」
さっと自らの体温が下がったのは核の冬のせいじゃない。
「逃げっ??!!」
ワラワラと都市部から飛び出す虫のような影。もちろん虫ではないし、サイズも軽自動車並みにある。
「おお。200年分は魔貨が稼げるな。がんばれ」
楽しそうな魔王はその様子をチラ見しただけでぷよぷよを再開。
「冗談じゃねぇ??! そのぷよぷよやめっ??!」
連中は俺らの火薬やゲームやネットの作動を感知すると人間がいると判断して攻撃してくる性質がある。俺たちがゲームをするのは生活のためでもあるのだが。今ゲームをしていい状況というものは確実に存在するわけで。
「否定だ。今日こそ人類すら到達していない偶然でしか成しえない連鎖数に挑戦する」
「おまっ??! 悪魔っ?!!」
「魔王だ」
「3をやらすぞっ??!!!」
「1のほうがいいな」
3もいいと思うがお気に召さないらしい。
「手伝いやがれっ!」
無慈悲なる魔王は我が抗議を無視した。
「おー! 一六連鎖行ったぞ」
その前に俺さまの身体が50回ほど「ぱよえーん」しているんだよっ!!!
「やはり、連鎖時のエフェクトの声が爽快だな」
「俺の悲鳴はっ??!! 聴こえてないのかっ??」
楽しそうに歌を歌いながら俺の身体を再構成しつつ自分に襲い掛かる機械生命を空中浮遊するダイヤの剣で切り裂きながら沙玖夜はぷよぷよに没頭していた。
「訓練だ。がんばって剣技を鍛えるのだな」
「鬼か貴様っ?!」
「魔王だと言った」
死んだ死んだ 死んだ死んだ死んだぁ~~!