エピローグ。未来という名の物語
「おきて。大地!」
「もう少し~~。もう少し寝かせろ~~。沙玖夜~~」
「ほら。大地。沙玖夜さんが待っているのよ。だから早く起きなさい」
母親が言うが早いか、俺の布団がひっぺがされた。
「ホント。出来た嫁だよねぇ。
なんでこんなのに惚れたんだか。勿体ない」
「聴こえていますよ。お義母様」
散らかり放題だった部屋。
掃除が行き届き、今はスッキリしている。
ゲーム機も漫画もアニメグッズもない。
ゲームの箱も処分した。
本棚には最低限の古典とビジネス書、スケッチブック。
俺の顔。寝起きで酷いものだが、前よりずっとスッキリしている。風呂にも入るし、身だしなみも整えている。
体型も気を使っているので、かなり良いと思う。
自分で言うのもアレだが。
「はやく起きないとご飯抜き」
「へいへい」
俺はさっさとシャツを着る。
「悪い。沙玖夜」
「本当。愚図だな」
「お前。おふくろのいない場では……いや前々から察していたが貴様ドSだろ」
呆れて椅子に座る俺の前に暖かい食事が出てきた。
「美味いな」
「当然だ」
胸を張る沙玖夜。
その姿は信じられないほど美しい。
「よく落としたな」「死ね」「美女とオタク」「処分するならコレクションくれよなぁ」
式では親戚、知り合い一同から散々なことを言われた沙玖夜は俺の妻である。
勿論、惚れられるために努力したんだぜ。
ある日、PCの画面に浮ぶ自分の顔が見えた。
何日も徹夜や不摂生を繰り返してボロボロだった。
一生こうやって仮想キャラのステータスをあげて。
歳をとっていくのだろうか。親が死んで、老いて。一人で。
俺はMMOをそっとログアウトした。
彼女が出来ても良いように部屋を綺麗にし、服装を整え、見栄えをきれいにした。
仕事を見つけた。身体を鍛えた。
仕事は俺の苦手な接客だったが、社長や社員がダンディなお世辞を使いこなすのを見て必死に練習した。
仕事の合間に資格を取った。店長になるために努力をした。
彼女は職場によくくる凄い美人。
何故か俺にとびっきりの笑顔をくれる。
俺は玉砕覚悟で告白した。勿論、社交辞令で微笑んでくれているのは承知だった。
結果かい? 二度断られたけど、三度目は実を結んだよ。
そんな妻は親父様の介護にも甲斐甲斐しい。
「お義父様の所に行くわよ」
「はいはい」
親父は相変わらず言語があやしいが、病院と往復しつつ、道場を再開した。
サポートは俺と沙玖夜とお袋。
なんだかんだいって楽しくやっているらしく、最近は語彙も増えてきた。息子の負担は半端ないが。
「ね」
なんだ。沙玖夜。
「朝のキスはまだかしら」
おい。母親の前。
「あたしは見てないから」
「おふくろよ。そこは叱れ」
そっと彼女の滑らかな肌に吐息をかける。
「ほっぺ? ほっぺなの?
あ~~あ。実家のお母さん元気かな」
「ううううううう」
やりゃイイんだろう。ええいっ!
「……」
「ふふふ。いい物ね」
羞恥に染まる俺。
顔を赤らめて満足そうな新妻。
そして無表情を貫く母。
「そろそろ孫の顔が見たいわねえ」
「あ。頑張っていますので!」
爆弾発言をかます母親に噴く。
そして問題なく恥ずかしいことを平気で言い放つ新妻が怖い。
お前ら、仲良すぎるわ。俺、死ぬかもしれん。
でもまぁ。悪くはない。
好きな人に好きと言われること。
好きな人を愛せること。
それはきっと。
世界の興亡より。
宇宙の平和より。
もっと大事なことだから。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
愛している。
この身が砕けても。
この身はこの星の一部となり、岩や海になる。あるいは他の生物の一部になる。
この星が消え去っても。宇宙の塵のひとつとなり、他の星の輝きに加わる。
愛している。
銀河のひとつになり、銀河すら滅んでも宇宙の中で。
宇宙すら滅んでも、次の世界の流れで。
愛している。愛している。愛している。
この世に愛ある限り。全ての存在は不老不死である。
愛している。愛している。愛している。
『人類は滅亡しやがりました』(終幕)