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壊れた世界 狂える世界 望まれぬ世界

「くぅ」

沙玖夜サクヤ?」


 今度は複数の触手が沙玖夜に襲いかかる。なんぼなんでもさっきのアレはでかすぎた。

 大量の触手の形をした男性器が俺さまを突き飛ばし、彼女を拘束し、襲いかかろうとする。


「穢れよ。消滅せよ」


 知覚範囲内の穢れを消し去る彼女の秘儀によってそれらは消える。


「最終決戦でNTRとか興奮するな」

「……私は嫌だぞ」


 阿呆な掛け合いを繰り返す俺達、呆れる天使や魔族や魔王や神族たち。


「またか」

「おい。俺は男だぜっ。……アーッ!」


 掘られると思いきや。


(睡眠欲)

「止まったぞ」

「馬鹿な」


 なにか。聞こえる。知らない言葉。


「歌が。聴こえる」

「んなアホな」


 ねんねん ころり よ おころりよ


「意味がわからん。

 瑠寧。早くこの世界を壊せ」


 魔王沙玖夜様の忠実な『右腕』はプログラムにも強い。


「エーデルワイス。意味がわからんのだが、この世界って」


(呼吸欲)


「なんか、さわやかな風が吹いているな」

「コイツは戦うつもりがあるのか?」


(飲水欲)


「こんな綺麗な小川、あったっけ」

「何でも飲むな。無警戒に過ぎるぞ」


(逃避)


「え。なに。意味がわからん」

「なっ? 自ら逃げるつもりかっ。

 瑠寧ッ! 早くしろっ!!」


 無茶苦茶すぎる。気まぐれすぎる。何だコイツは。


『神様助けて。助けてッ。助けてッ』


 頭の中で女の声がする。意味は分からない。

 たぶん知らない言葉だ。


「いや、神族は確かにここにいるが」

「理解不能すぎる」


(恐怖 恐怖 恐怖)


 黒いもやのような化け物が次々と生まれ、俺達に襲いかかる。


「こしゃくな」


「クソッ。沙玖夜を離せっ。俺の女だぞ」

「いつから貴様の女になった。まだ手も大して握っていない」


「あとで手どころかもっと触れまくってやる」


 というか、先日抱きついていただろうが貴様。


(闘争欲)


「ダイチッ?」



 黒いもやの癖にやたらめったら力が強い。一撃一撃が重い。

 すばやく一撃一撃をかわして剣を叩き込む。意外にも効いているらしいが。

 しかし、技も戦術も何もない。何故コイツはフェイントひとつ使わない。


 一撃一撃は重いが、今の俺にはかわせないことはない。だが。


「!!!」


 キャプテンイチゴーのビームやキョウコの剣や魔法に匹敵、否、それ以上の攻撃が俺達をなぎ倒す。


「しっかりしろ」


 沙玖夜はあらゆる攻撃を無効化させたり、傷を癒したり死者を蘇生できるが、これほどの数を同時に護るのはかなり難しい。

 破壊、消滅した神族魔族。そして俺さまを復活させるのが手一杯といったところだ。


「情報世界が再生していく」

「キリがないな」


 おそらく、沙玖夜が力尽きたとき、俺達は滅ぶのだろうが。



「おい。良かったな。死ねるぞ」

「こんなところで処女のまま犯されて死ねるか」


 沙玖夜は一〇八本のダイヤソードを繰り出して『世界』に斬り付ける。


「コイツの戦術は力押しだな」

「考えがなさすぎる」


 この戦いのさなかでも、この世界は謎の「子守唄」が満ちている。


(睡眠欲)


「舐めているのか」

「チャンスだがな」


 また、止まりやがった。


(嘆き)


 悲鳴を上げて吹き飛ばされる俺さまたち。

 理解の範疇を超えた『世界』に翻弄される。


『私の可愛い。可愛い子』


 また意味は分からないが優しい歌。


「子守唄がする」


「なんか、俺らまで拍子抜けるぜ」


 強い愛情を感じる。この『世界』全てを包み込む母の愛。


「いったい。この世界は」

「どうなっている」



『可愛い子。私の可愛い子♪』


 意味の分からない言葉の歌を聞きながら俺たちは翻弄され続ける。

 激しい光線が俺様たちをなぎ払い、津波が身体を打ち砕き、炎と共に熱湯になり、そのまま超高熱が俺たちを焼く。

 何度も立ち上がる俺様達。

 いっそ殺せといいたいが、生憎死ねる身体ではない。


 端末はとっくの昔に消滅している。新たな神族や魔族を呼び出すことは出来ない。


「ダイチッ。エーデルワイスは無事だっ。なんとしてもこの世界を破壊するぞっ?」


『先生。先生♪』『いつ産まれるの』『私にも音聴かせて』


 さっきから聴こえるこの声は?!


 どかっ!! 激しい振動が俺たちを襲う。

 骨が砕け、眼球が飛び出すが、生憎沙玖夜がいる限り、俺の闘志が残る限り俺は死なない。死ねない。


『痛いっ 何をするのっ』


 足音らしき音が響き、遠く去っていく。


 そして喉を、身体を押さえてもだえる俺。

 世界中が毒に染まった。

 沙玖夜が俺を抱き上げ、しっかりしろと叫ぶ。


『うっ!! うええっ!! な、なんなの?』


 胃液のような津波は俺を流し、骨を肉を砕き、全身の細胞を焼く。


「もういい。やめろっ。やめてくれ!

 ダイチを傷つけるなっ。

 私はもうこれ以上彼を癒したくないっ」


 ……おいおい。見損なうなよ?魔王様?!


『きもち悪いんだよ』『バイタだね』『ちがいます。私たちは愛し合って』『先生は流産しちぇえよ』


 知らない言語だが、子供の声に聴こえる。


「この、腐れ世界がっ??!」


「やめろっ! ダイチッ! この世界はッ!!?

 いや、この子はっ?! この娘は!!」



 俺様は手を天にかざす。

 粉砕された携帯端末が粒子となって集まり再生していく。

 吹き荒れる暴風が悪臭を伴い、鼻を突き抜けるさわやかな芳香へと変化していく。

 優しい音楽とともに甘い香り。

 収束していくその黒き光を握りしめて。


 沙玖夜がなぜか叫んだ。


「異世界の魔王。あらゆる魔を討つ『剣の魔王』よ。

 破魔の剣となりて我が元へっ」


 一瞬姿を現した長身の美青年が姿を変え、禍々しい瞳を持つ一振りの剣となる。

 魔貨マッカ全部つぎ込んでやらぁ。


「打ち砕け。『魔皇剣』」


 破魔の力が収束してゆき、あらゆる魔性を打ち砕く波動となって『世界』を揺るがす。



『わーい』『パーティだ』『先生。流産おめでとう。コレは前祝です』


『いやぁあっっ いやぁああああっ』


「やめろっ。やめてくれっ。

 ダイチィィッッ!」


 ……情欲(愛)の守護者サーバーは。滅んだ。



【思慕の念は時として悪意となり

 炎となってその身を焦がす】


「子鈴先生」


 僕は先生に駆け寄る。

 子鈴先生は厳しくも優しい素敵な先生だ。みんな子鈴先生が大好きだ。

 子鈴先生に勉強をサボったのがばれるとモノスッゴク! 怖い。

 落第でもしようものなら真夜中までわかるまで指導してくれる。嫌いじゃないけど。

 夜遅くまで指導してくれる先生。見送りしてくれる先生。

 夜道の中、彼女は唐突に告げた。


「九竜君。私結婚するの」

「え」


「すごく素敵な人で。大好きなの」

「よかったですね」


「幸せになるね」


 先生の笑顔はとても綺麗で。

 でも何故か悲しかった。


 先生は結婚した。

 旦那さんはとってもカッコよかった。

 街のみんなが先生を祝福した。

 僕も先生にいっぱい手を振った。


 先生が旦那さんにキスした。少し嫌な気分がした。気持ち悪かった。

 嫌な気分が続く。胸が痒い。胸の先が痛い。

 嫌な気分がして嫌だ。嫌な自分が嫌だ。


 嫌な気分がとまらない。股間が痛い。

 おしっこでもないのに硬くなっていく。


 先生と補習した。いいにおいがした。

 何故かどきどきした。


 家に帰って痛くて。

 気持ち悪いのにこすってしまった。

 おしっこみたいなのが出た。凄くいやだ。

 きもちわるい。きもちわるい。きもちわるい。


「ね、ね。子鈴先生。おなかの音聴かせて」


 女の子達が騒いでいる。先生は子供ができた。


「わ~。動いている」

「いたっ?! 蹴っちゃいやだよ。この子元気だね」

「早く産まれないかな」


 先生が笑っている。

 むかつく。むかつく。


「痛ッ」


 思わず先生を蹴飛ばして逃げてしまった。

 あとで父さん達に凄く叱られた。


 子供がどうやったら出来るか知っている。

 汚らしい。汚らしい。みんな汚らしい。


 先生を流産させるしかない。

 綺麗な先生に戻してあげないといけない。


 先生の給食のご飯に農薬を混ぜてみた。


 みんなにも手伝ってもらうべきだ。

 僕らの大好きな先生を取り戻すのだ。


 やがて少しずつ仲間が増えた。先生を取り戻さなければ。流産させるべきだ。先生は僕らのものだ。

 なんとかして先生の目を覚ましてあげないといけない。


 水を上からかけてみた。授業を欠席してみた。


 全員の椅子の位置を黒板の反対側にしてみた。

 葬式のお花を先生の机においてみた。でも先生はニコニコしている。


 そうだ。パーティだ。パーティを開こう。先生を流産させるための大事なパーティだ。

 これで先生は喜んでくれるだろう。目を覚ましてくれるだろう。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇


 討伐守護者サーバーDATA

 情欲(愛)守護者サーバー……「始まらなかった物語」&「無限の愛」

本体ハード

 この星そのもの(地球)。

コア

「始まらなかった物語」

 後述する小鈴の息子。生まれる前に機械生物に母共々捕食される。

【役割】

『始まらなかった物語の世界』……消滅(DATA LOST)


予備バックアップ

「無限の愛」

  本名子鈴。中国大陸の田舎町にて教師を行う。

 人々に愛される若く美しい教師だったが、結婚と妊娠を機にその歯車は狂い始める。享年23歳。


【役割】

『未来の物語を期待する母の愛』……消滅(DATA LOST)


悪役ヒール

「望まぬものたち」

 本名九竜。師匠と恋愛関係を持つことは不純とされる国に生まれる。

 小鈴に対しての自分自身の想いに気づかず、大人の身体になっていく自分への反発心を小鈴の子供に向け、流産させようと画策する。享年13歳。

【役割】

『理不尽な罵声』……消滅(DATA LOST)


 ----== SystemMessage ==----

守護者サーバー』および七つの仮想世界全ての消滅を確認。


 これより『物語』再起動を行う……。

 繰り返す。これより『物語』の最起動を行う……。


 ---


 七つの大罪の名を冠し。

 七つの美を象徴する守護者たちは。

 滅んだ。



 ---


「やめろと言ったぞ」


 不死身の魔王・沙玖夜が怒っている。

 今まで俺の奇行に怒ることも軽蔑した視線を送ってきたこともあったが、今日、この瞬間。その瞳には憎悪の色があった。


「あの声が聴こえなかったのかっ!」


「聴こえたが、意味はわからん。俺さまの知らぬ言葉だった」

「そうか、そうか」


 がっくりと膝をつく沙玖夜。


「普段なら翻訳があるが、今回は『守護者』が内から聞いていた音声に過ぎなかったということか」


 ああ。俺は呟く。


『魔皇剣』


 異世界の魔王、破魔の力を持つ『シトラス』という少々威厳のない名前の魔王が膨大なマッカを糧に姿を変えた剣。

 ウォルフが教えてくれた切り札。

 破壊された機械生物の身体に魔族を受肉させて召喚するのみならず、魔族を武器や防具にする技術もウォルフは教えてくれた。


 たった10万マッカで具現化してくれる最弱の魔王『シトラス』。だが、『いかなる魔をも滅ぼす』変わった力を持っている。


「私が要らないといったのはソレがあるからか」


「ああ」

 そう答えると彼女は問うた。

「『剣』ならば私の『いかなる神も魔も滅ぼせない』力を無視できると考えなかったか」


「ぜんぜん。考えてなかったな。盲点だった。お前賢いなぁ」

 気がついても試したいとも思わないわ。

 そもそも沙玖夜に逢ってからは使っていない。使えば楽になるのは知っていたが。

「そうか。お前は最初から私を殺せたんだな」


 そんなワケあるか。正直指摘されないと気づかん。だが。


「誤解だ。それに気づいてもお前と旅を続けていた」


 わかんねぇみたいだな。


「俺の背中を護る魔王は一人で充分だ」

「……」


 さて。俺は目の前の現実に目をやる。


 俺達の前には怯えた顔の妊婦がいる。勿論幻だ。幻とわかっている。わかっているが。『先生の流産を歓迎して』とか書かれているらしい黒板。むごい暴力の後の残る女性の顔。


「お願い。お願い。この子は。この子は何も悪いことをしていないの。

 お願い。お願い。許して。私が。私が。護る。護る。護る」


 涙を流す女性の心は壊れていた。


「……」

「……」


 俺達は既に女性の境遇を知っていた。知ってしまっていた。


「すまん。お前ら、既に死んでいるんだ。機械生物に食われてな」


 俺も後から行く。


「申し訳ない」


 沙玖夜が叫ぶ。

 涙に濡れる彼女の剣は女性を貫き。

 胎の子を貫いた。



 悲鳴と共に砕け散る世界。


『何故殺した』


 俺自身が言ったのか。沙玖夜さくやが言ったのか。もうわからん。

 非難に満ちた。憎しみに満ちた言葉。


 沙玖夜。沙玖夜。


 無意味な旅だったのかも知れない。

 世界が滅んでも別に気にならなかった。そもそも興味が無かった。


 沙玖夜。沙玖夜。


 そんなに生きていて面白いとも思わなかった。恋人らしい恋人もいなかった。

 命がけで打ち込めるものもなかったし、喪って泣くほどの仲間もいやしなかったのだ。



【魔王の独白】


『何故殺した』


 私が叫んだ言葉だったが、ダイチに言い返されたのかも。彼にあんな声をかけられたのは昔の仲間を侮辱してしまった時くらいだ。


 そうだ。最初から彼が好きだった。

 ダイチ。ダイチ。

 ハルカナル大地ダイチ


 永遠の美貌を持つといっても、いや、だからこそ。

 私の周りに近寄る男性は情欲の対象としてしか私を見ない。


 ハルカナル大地ダイチ

 ハルカナル大地ダイチ


 勿論、彼とてそうだった。だが。

 何処の男が膾斬りにされた挙句にもう一度癒して再度切り刻まれ、豚にされ、逆さづりにされてもしつこく「愛している」だの言うのだ。


 ハルカナル大地ダイチ

 ハルカナル大地ダイチ


 どんな富にも名声も興味がない。

 興味があるのは私だけ。

 どんな素敵なバカなんだ。


 全ての願いが叶う魔王を手に入れたのに、欲しいのは私の身体だのとふざけたことを言ってのけた。


 身体を捧げることに反発しながらも心を先にあげてしまっていた。

 奪われていた。


 ハルカナル大地ダイチ

 ハルカナル大地ダイチ


 全力で嫌っているのに、まったく意に介さない。

 ぜんぜん強くないのに、常にそばにいてくれた。


 ハルカナル大地ダイチ

 ハルカナル大地ダイチ


 私のダイチは。きっと世界で一番『強い』。

 それは別に他の人間が滅んだからではないと。そう思う。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 愛している。


 この身が砕けても。

 この身はこの星の一部となり、岩や海になる。あるいは他の生物の一部になる。

 この星が消え去っても。宇宙の塵のひとつとなり、他の星の輝きに加わる。


 愛している。

 銀河のひとつになり、銀河すら滅んでも宇宙の中で。

 宇宙すら滅んでも、次の世界の流れで。


 愛している。愛している。

 愛している。

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