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#人類は滅亡しやがりました   作者: 鴉野 兄貴
思い出の友よ。
12/17

想い出の友よ

「ふ~~じこちゃ~~ん!」

「……」


 ガン


「なんで」

「抱きたくないと言った」


「羊水が腐ってやがりますよ」

「ほう?」


 いつもどおりのやり取りを経て、また野営。

 いったいどれだけの夜を二人で過ごしたか覚えていない。

 数年に過ぎないはずだが、多分俺様の人生で一番「長い」時間に感じている。

 勿論、早く過ぎて欲しい時間とはまったく違う性質だ。

 ちなみに、いまだ一度だって抱かせてくれたことはない。

 や、やはりあの時ヤッっておけばよかった! ヤッておけば! ヤッておけば! この香り! このおっぱい! この尻、クビレ! 超クビレ! 柔らかそうな腹っ!!!


「……」


 汚物でも見るかのような目を向けている不死身の魔王・沙玖夜サクヤは女性である。ちなみに美貌の魔王でもある。俺さまはお預けくった犬状態。


 俺たちは肉を片手にたわいもない話を続け。


「『守護者』は七つの大罪と美徳に対応している」

「ああ」


 話題を変えるために彼女に話しかけてみる。

 意外にも乗ってくる。


「おそらく。怠惰(友情)、欲情(愛)」

「そうなるな」


 イマイチよくわかっていなかったが「ドゥーリトル」の管理する情報が微妙にこの辺に触れていた。

 もっとも全貌ではない。


「やっぱよ。期待して良いよな」

「何を」


 汚物を見るかのような視線はまだ変わっていない。


「は・れ・む」

「貴様。先日言ったことをもう忘れたのか」


 じゃきん。


「ちょっ。ちょっ。

 刃物を振り回すなっ。

 こ、これは必要な措置なのだ」

「死ねぇ!」


「はぁ。はぁ。休憩!」

「……」


 俺を追いかける108本のダイヤソードが虚空で停止した。


「解説しよう! 内部世界の破壊はすなわち『コア』を主役とする『物語』の破壊である!」

「ふむ」


「つ ま り」


 俺さまは解説する。

「もし、残りの世界が奴隷ハーレムの世界なら!!

 彼らを救うために、俺様は正々堂々 寝 取 り をして許されるっ! 許されるのだっ!!」

 やはり、転生チートやVRMMO閉じ込められデスゲーム世界にて奴隷ハーレムという展開は物語世界なら定番だろうっ!


「許すと思うか」


 沙玖夜は艶やかに微笑んだが、目は笑っていない。


「いい光景だ。蓑虫みたいで可愛いぞ?」


 ニコニコ笑いながら彼女は逆さづりを食らっている俺様を楽しそうに見ている。



「新技術でな。逆召喚プログラムで侵入できるのは一人のみだったところ、二人以上侵入できるようになったのだ。決戦に間に合うように苦労した。勿論召喚も出来るぞ」


「へ?」

瑠寧ルネ電子妖精エーデルワイスや人工知能たちががんばってくれたからな」


「えっと。あの。やっぱさ。

 奴隷ハーレムな『守護者』を討つのは剣より股間の剣。すなわちNTRネトラレ展開で鬱が最強だと思うのだよ。うん」

「私がかような真似を許すと思うか。ダイチ」


 ダイヤソードが次々と俺の横をヒュンヒュン周回している。


「私もいくぞ。共に行こう」


 逆さづりの俺様の首筋を抱きしめ、嬉しそうに微笑む彼女を見ながら俺様は滂沱の涙を流した。


「……」

「これはなんだ」


「生理現象です」


 香水もつけていないはずなのにいい香り。


 流石魔王。フェロモンすごすぎ。

 俺様の股間が爆発寸前。沙玖夜の甘い香りが。おっぱいが!おっぱいがっ!

 俺様の股間が「殿中でござる殿中でござる」「離せ離せ」「離さぬ離さぬ」「切腹切腹今すぐ切腹」「討ち入りでござる討ち入りでござる」と絶賛大騒ぎ中。

 ダメだ爆発する。「ポンペイ! ポンペイ!」「ポンペイ! ポンペイ!」ポンペイ最後の日は今日……。


 さわやかな笑みを浮かべる魔王。


「切り落とす」


「子供が作れなくなるっ!?」

「どうせ私には子を孕む能力はない」


 一瞬、彼女の顔が曇った。

 いかな生物でもその身体から生成する彼女だが、自分の子を孕むことは出来ない。


「まだ諦めるなっ?! 俺は諦めていないぞ!

 中だし孕ませは男のロマンだッ!!!」

「ふふふ。そうだな。体内に侵入しそうな異物を除去するだけだからな。私は人間から生まれている……ひょっとしたら」


 あははと笑う彼女を見ながら俺様の心には暗雲が早くも立ち込めていた。



 ひょっとして、俺様、尻に敷かれる運命? 尻に敷かれる運命?


 

【独白】

 目を開けると不思議な光景が広がっていた。

 豪華な調度品は劇場みたいだけど誰かのおうちみたい。

 昨日はこんなところで寝たっけ。あのまま気絶したのかも。


 撮影場所は? 劇場は??


「お目覚めですか。旦那さま」


 すっごく「アルフレッド」って呼びたくなるほど紳士に見えるおじさん。どうみても老紳士! 名執事!

 今日はこのようなコスプレをするお仕事なのかな?


「あの。今日のお仕事は?

 私、どんな仕事でもかんばっちゃう!」


 小さくガッツポーズをする。

 今日も元気です。私!


「旦那様?」


 片メガネが似合うに違いない老紳士っぽいおじさんは不思議そうな顔をした。


「旦那様って誰ですか」


 私の声、こんな男の人みたいな声だったかしら。


「大変失礼を承知で申し上げます。旦那様。

 お疲れのようでしたら本日の領地巡視は」

「領地? 領地って?

 ……あれ? 私、こんなゴツゴツした手だったっけ? 最近のお仕事、ハードだったけど」


 お肌、荒れてなければいいなぁ。

 あごに触るとジョリッっとした感触がした。


「な、なに? これなに?!」

「い、如何なさいましたか旦那様」


 私はゴツゴツしたおじさん(お兄さんらしいですが)になっていました。

 うそだといって~~?!


 それからのお仕事を語ります!

 えっと、領民の皆さんはすっごく困っていました。

 水が汚いそうです。ご飯がないそうです。

 作物が取れないそうです。


 そして『私』は悪徳領主でした。男は勝手に連れ歩き奴隷のようにこき使いました。

 女の人は召抱えてからひどいことをしたり、新婚夫婦の邪魔をして税をとる人でした。


「アルフレッド。女の人をみんな返しなさいっ!」

「旦那様? 初夜税を徴収していませんよ?」


「もう女に興味はないっ!」


 酷いことをしていた悪徳領主である私は逆らう者の首をすべて跳ねたと言います。

 私のいうことは領内では絶対でした。


「水が汚いのは土地が汚染されているからだっ! 汚染された土地でまともな作物が育つかっ?!

 今すぐ業者を呼べっ! 家にある売れるものは皆売れっ!」


 調べてみると鉱山から毒が出ていたそうです。『私』はその毒で大もうけしていました。


「鉱山を閉鎖する」

「おっ?! お待ちをっ!!? 御館さまっ!!?」


「では、今後毒を造るのは禁止だ。他に取れるものはないのっ?!」

「少量の銀は取れますが……他は偽ダイヤです」


 なにそれ。


「偽ダイヤ?」

「透明度が高く、加工は比較的容易ですね」



 あ。ひらめいちゃった。私凄い。


「では、メガネとか望遠鏡を作っちゃいます」

「な、なんですか、その『めがね』とか『ぼうえんきょう』なるものは」


「説明します。今すぐ職人さんたちを呼びなさい」


 大通りで私は叫びました。

 得意です! 久しぶりなのです!


「領主の館には皆様のお蔭でお金も税も一杯あります! 今年は無税とします! 大いに商売してください!

 一杯子供作っちゃってください! 結婚してもいいです! 今後永続的に初夜税を排します!

 奴隷の皆さんは私のところで働いて借金を返してくださいね!」


 奴隷の皆さんは主人を離れて私の周りで働くと聞いて泣いて嫌がったそうです。

 それはそうですね。私は悪徳領主ですから。


「勉強? 奴隷には勉強は」

「奴隷の教師を作ったら大もうけできちゃいません」


「否定はしませんが」

「あと、あと、奴隷だとしてもその教師さんの弟子って教師さんの言うこと聞きますよね」


 躊躇いがちに答えるアルフレッドさん。

 教師専属奴隷というものは高価で持っているということは貴族や豪商のステータスとなります。


「常識の範囲ならば」


「私の子飼いが国中に増えるわけです」

「このアルフレッド感服しましたっ」


 ついでです。領地の子供は全員読み書きソロバン勉強を教えちゃいます。反対? 労働力足りない?

 そんな村には軍隊差し向けちゃいますよ?

 鍬持たせますけど。


「剣は?」


「手伝いが先です」

 傭兵隊長さんは嫌そうにつぶやきました。

「泣きますよ」


「私のあだ名は?」

「……」


 悪徳領主ですよねっ! 私ってっ!!


「ソロバン?」


「使い方を覚えたら10秒ほどで2桁3桁の計算は楽々。あと、なれるとソロバンも不要になります」



「どれほどの値段にするのですか」


「タダですけど」

「金貨二〇枚は取るべきですっ! 旦那様っ!」

「うるさいっ! 領民にはタダで教える! 私が教師だっ!!」


 私に教えられると聞いて希望者ゼロなのは泣きました。早く来てください奴隷の皆さん。


「家がボロボロなのですが」


「応接室と、その通路以外は放っておけ」

「判りました」


 外来者に舐められるのはよくありません。融資や協力具合に関わります。


「これってお米だっ!」

「湿地帯を覆う、厄介な雑草です。……食べると腹を壊します」


「今すぐコレを持てるだけもってこいっ!」


 がんばってお米を研いで、炊きます。炊きます。久しぶりのご飯ですっ!!


「お、美味しいですね」


「でしょ! でしょ! 麦よりたくさん取れるって聞いたよっ!」

「どなたに聞いたのですか」


「どうだっていいじゃん」

 アルフレッドさんは質問を変えました。

「麦と比較してどれ程取れますか? 一割ほど?」


「十倍」

「え」


 あれ? 聴こえなかったみたい。


「じゅうばいっ!」

「なぁっ?!」


 あ。お酒も造れるんだよ? ニホンのサケは美味しいの!


 この後のお話になりますが。

 サケは無事出来ました。


「お、美味しいです……」


 あ、ビールもできたっ!


「蒸留すると強いお酒できて、もっと凄いんだよ」

「……」



 お話は戻ります!

 当家の今年の財政ですが。

 アルフレッドさんにお叱りを受けています。


「ごめんなさい。おうちはボロボロだし、傭兵隊長さんは怒っているし」

「差し引いて去年の二倍になりました」


「借金二倍かな」

「何をおっしゃいます」


 脅えるわたし。

 それに噴きだしたアルフレッドさん。


「収益二倍! 領主さまのお陰ですっ!」


 おっしっ!


「傭兵隊長さんスッゴク怒って」

「彼は一生貴方についていくと言っていますが」


 ううう。ありがとうございます。隊長さん。


「でも、『俺らにまでソロバン教えるのはよしてくれ』とのことですが如何なさいますか旦那様」


「『給料減らしますよ』と伝えなさい」


 領地はどんどん栄えていきます!


 春祭りは私が踊って歌いました!

 昔から歌うのも踊るのもいっぱい努力して得意なのです。


 笑われました。

 なんで? ううう。


「別に領主さまを莫迦にしているわけでは」


 ううううっ!!


「あっちは大評判なのにっ!」

 私の指さす先。奴隷の娘さんたちと村娘の皆さんに教えたダンスと歌、楽器演奏は大好評です。

「自分の姿をいつぞや作られた『鏡』でしっかり確認してください」


「ひどーい!」


 偽ダイヤと銀で出来た鏡(小さいですが)のお陰で大もうけです。やっぱり女の子には必要です!


「そうだ。この鏡、大きくできないかな」

「無理です」


「じゃガラスは」

「ガラス。ですか。私の知識にはないものですが」


 あ、来年以降の目標できちゃった!!


 そして、何年も何十年もたちました。

 私は名領主として陛下の覚えもめでたくなり。


 と、いうかマブダチです。

 マブダチ。お金のことなら任せてください。


「もう奴隷なくていいんじゃない」

「奴隷商人どもが怒る」


「いい仕事考えたの」

「怒らないから何でも言え」


「ふっふっふ」

「スパイとしても使えますよ」


「目立ちすぎだっ!」


 ブチ切れるわが友国王。

 でもものすっごく需要あるし、やるべきです。この興行!

 必死で説得する私に折れた彼は肩まで落として。


「も~良いわ。任せた」

「任せてください陛下!」


 大もうけです。奴隷の皆さんありがとうっ!!!


「戦争している隣国の王が、『アレ』を寄越せと」

「枕営業は絶対やりませんよ」


 平和になりました。凄い!


 そして。更に時は流れました。


 不思議な武器を持った男の人が「なんと言うか」と呟き。素敵な女の人ですがダイヤに似た透明な剣を持っていらっしゃる方が呟きます。「聞いていた話と大いに違うな」と。


 足元には。みんなの。みんなの血。


「御館さまっ!」


「あるふれっどさんっ!」

「あ……あ……」


 どうしてっ! どうしてこんなことするのですかっ! どうしてっ!!


「奴隷ハーレムの悪徳領主さんを殺しに来たのです」


 確かに他所の国ではそう通っています。でも。


「夢だ。これは悪い夢だ。お前は悪くない」


 女の人がそういいました。

 違います。最高にっ! 最高にいい夢でしたっ!


「死ね。リア充」


 ああ。死ぬんですね。

 私。死んじゃうんですね。


 絨毯に赤い流れが広がっていきます。

 まだこの世には奴隷の皆さんがいるのに。ごめんなさい。助けられなくて。

 ごめんなさい。ごめんなさい。

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