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#人類は滅亡しやがりました   作者: 鴉野 兄貴
思い出の友よ。
10/17

貴様は偽者だ

 幸せな思い出もある。

 嫌な思い出もある。


 俺が思うに幸せも不幸せも、後で判断したものでしかない。

 あのときの俺たちは地獄だった。

 なのに俺さまはあの時がたまらなく懐かしく、鼻がツンとするほど悲しいときがある。


 また昔語りになる。ちょっと風呂のお湯が沸くまで聞いてくれないか。


「反対だ!」


 ウォルフが叫んだ。


 人類が滅ぶ前の話だ。

 所謂レジスタンスみたいな組織が残っていた。

 俺はその組織の木っ端として糊口をしのいでいたのさ。ああ。大したことはしていない。

 レジスタンスとは名ばかり。政府や警察や軍隊レベルではなく、民間人の烏合の衆レベルだった。


「もう限界だぜ。魔貨マッカや装備以外にも『報酬』をくれよ」


 言葉はわからないが、賢明な俺様は彼らの会話内容を大体把握できるようになっていた。

 まぁ発音は拙いがやればなんとかなる。


「貴方たちは正気ですか?」


 怒りを込めてメイが彼らを罵る。


「当たり前だろう『人類の未来の為に』必要だ」


 メイの後ろで脅える女性たち。

 その中には明らかに子供と言える年頃の女の子も混じっている。


「おい。ヤポーネ。てめえも女を抱きたいだろ?」


 ガイウスは悪い奴ではないと思うがとにかく下品だ。意外と馬が合うのも事実だが。


「……すろーすぴーく。おけ~?」


 適当に答える。ガイウスは肩をすくめてニヤけた。


「ほら。イエローモンキーもサルの分際で女が欲しいって言っているぜ?」


 ガハハと笑うガイウスたち。

 やかましい。俺様がサルならテメェらは豚だろ。有機物は貴重なんだ。てめえの腹でステーキとピザでも作って食ってろデヴ。

 まぁ。ヤリタイとかやりたくないとか言う話をするなら。リーダー補佐のメイは特に美人でそそるものがある。女だてらに戦闘員だし気心知れているしな。


 ウォルフと毎晩やっているのを見てみぬフリをするのは若干健康に宜しくない。


 彼女は少々腹が太め。

 しかしそれは日本人基準。

 ちゃんとくびれているし背も高いのでバランスがとれている。

 乳と尻のボリュームと手足の長さを考えれば許容範囲というか是非お願いしますレベルだ。


 しかし、白人様は少々臭うのが良くない。

 俺さまの下世話な思索を遮ってウォルフの声が聞こえる。

 いつものように突っぱねるのができない空気を感じたのだろう。


 レジスタンスには女性が少なからずいる。

 そのほとんどは非戦闘員なのは間違いない。

 勿論、裏方としてさまざまな重要な任務を担っており、間違ってもガイウスの言うように『報酬』のように扱うなど失礼な話だ。


 ガイウスの望みは単純である。

 おれ達戦闘員のほとんどは男であって。

 つまり。その。

 ヤリたいわけだ。うん。


 キムはいい奴だったが、強引に襲うのは良くない。

 俺様みたいに適度にオナっておくべきだった。


「何度も言うが、非戦闘員は重要な任務に携わっている。機械生物との戦いはアナログ技術が重要なのだ」

「だが、連中はそれを容易く見抜いているぞ。せっかくある電子妖精群をもっと有効活用すべきだ」


「拠点が滅びては意味が無いっ!」

「それ以前に人類が滅ぶっ!」


 ああ。まただ。この話長いのよ。

 え? 俺様に恋人? 無理無理無理無理。

 そういうのは苦手。苦手。

 ついこの間までキモオタ人生やってたのに。


 キムは大学で莫迦にされているという妄想に駆られて銃を乱射しまくり、刑務所にぶち込まれていたので助かったというラッキーな奴だ。


 大学の同級生たちには同情するが。


 下手に出て機嫌さえ取っておけばいくらでも頭に乗るし親切にしてくれる。扱いやすいいい奴だった。


「ヤポーネ。どう思う?」


 陽気なジャマイカンなジェーン。

 彼女も珍しい戦闘員の女性だ。

 類稀なる運動神経を誇る。

 その適度に鍛えられた体つきはマジそそるレベル。

 ちと育ちが悪くて品性に乏しいのが欠点だが。


「無理。あいつら平行線」

「ヘーコーセ?」


 言葉は通じないが、ある程度言っていることは通じあう仲である。ガタイが良くて気風あふれて、ついでに言うとちとあっちのほうが寛容すぎる性格。

 御世話になった野郎どもも多く野郎どもはジェーンの言うことは大抵聞く。

 武器の扱いも大したものだが、女の『武器』の使い方を特に熟知しているジェーンを俺はかなり気に入っている。


「ジェーンよ」

「なに? ヤポーネ?」


「あいつらはまあ放っておこう。それより」


 俺様と結婚しねと問う俺。


「ぷっ! 嬉しいけど、もっといい男が一杯いるしねぇ」


 大笑いするジェーン。


「いや、本気だぞ」

「あはは。ナイスジョーク。今晩私の床に来なよ。

 あ。ダメだ。

 今晩はあのクソッタレのガイウスの番だったわ。ボーヤ」


「マジかよ。ふざけんな」

「ざーんねん! ぼーやは童貞のままでいなさい!」


 この後。激戦の末、殿を勤めたジェーンは機械生物やつらに食われた。


「ヤポーネ! やっぱり前に言ったこと撤回!」


「おいっ! 早くバイクに乗れっ!」

「平和な時代だったら、アンタの嫁も悪くなかったかもっ? イエローとブラックで無敵さっ?」


「意味わかんねぇっ?!早くっ!こいっ!!」

「やだねぇ? アンタの子供とか、ちょっと興味あったかも??!」


「はやくっ??」

「イエロー! 早く発進しろっ?!」


「ジェーン! こいっ! 手を離すな! 戻れ!」

「後はよろしく!」


 機械生物を飼いならした男はあの中で俺様だけだった。

 勿論偶然の産物で、さらに俺は『拾い物』のおかげでそれを手に入れただけだった。

 それだけだったのに。


「『バイク』の使い手はてめぇしかいねぇんだっ!」


「怪我が酷いっ!!

 ハルッ!何をモタモタしているのっ!!」


「ジェーン!」

「ジェーンの意志を無駄にするな!」


「さっさと行けよ。ハル。

 あたしも。あんたのこと。嫌いじゃな」


 機械生物どもがジェーンを捕らえた。


「ジェーーンッ!」


 ぶちぶち。ごきごき。

 鼻腔を貫き舌に流れ込む慣れた臭い。

 ヒトの血とオイルの混じる臭い。

 視界はモノクロームに染まり、まるでスローモーションのようにリフレインする。

 彼女の言葉。彼女の笑み。

 ふざけて幾度もかわした結婚の約束。

「走れっイエロー!!」


「くっ」


 バイクが恐ろしい加速をして、周囲の機械生物をなぎ倒しながら逃亡する。『バイク』に自己判断能力がなければ確実に俺様たちの命は無かった。

 拠点に戻って被害を報告する俺達。

 普段いるはずのメンバーがいない。


「ジェーンが」

 ウォルフは涙を流した。あいつは酒豪でいい奴だった。ニホンのサケ最高といって隠していた酒を全部呑みやがったのはいまだ許せん……いや許すべきだな。


「ジェーンがいねぇと」

「ああ」


 下世話な話だが、そっち方面のサポートは元々『本職』だったジェーンが自主的に担当していた。


 本当に、本当にいい奴だった。


「きまりだ。俺たちは「『報酬』を要求するぜ? 一番活躍した戦闘員は女とヤラせろ」


 ガイウスの言葉に脅える女性たち。沸き立つ野郎ども。


「メイ? テメェはウォルフの女だが。

 今回一番活躍したのは俺だよな?」


 ウォルフはどっちかというと戦闘員と言うより指揮官や開発者肌だった。召喚プログラムを誰でも使えるように簡易化した天才だった。


「ふざけるなっ! メイはぼくの恋人だっ?!!」


 そら、いいたい事はわかる。


 ちなみに、『女』っていっても血気盛んな若い娘はあまり残っていない。さっき食われたのが生殖可能な中では一番若い。

 この期になるともう仲間の何人が食われてもあまり嘆き悲しむことはなくなった。最後に一緒に飲んだとき、誘われたんだからヤッておくべきだったな。


「私にも選択権があります」


 メイはガイウスを叱る。

 だがガイウスたちは意に介さない。


「それならおれらは抜けるぜ? だが女はもらう」


 女っていっても10代、20代は少ない。30台から60台以上のが少なからずいる。あとは餓鬼だ。

 まぁ飢えた野郎には同じなのだろう。


「御互いの尻でも掘ってればいいだろ」

 俺様は日本語でガイウスをからかうが。

「??」

 ガイウス達には理解できなかったらしい。


 さまざまな議論の末。

「なら」

 メイが青ざめた顔で宣言した。


「リーダー補佐として、私が。他の非戦闘員のみなさんの代わりに……身体を捧げます」



 ウォルフが大声で反対するが、他の野郎どもに取り押さえられた。男どもの歓喜の声、女どもの悲鳴がその場を支配した。

 その騒動が終わった後、なぜか俺様とメイは粗末な寝台の上に。

 どうも最初を務める奴の選考段階でガイウスはダメ。他の奴もダメ。

 ウォルフは散々ヤッてるだろうとなり。


 まわりまわって『バイク』使いの俺様に巡ってきたらしい。なんでジェーンを喪った直後にメイを抱かなければならんのだ。

 いい女だからって常に抱きたいと思うわけではない。その辺がこいつらには解らんらしい。


 無理無理。俺様以外と繊細。つわけねぇ。


 やったフリだけして逃げたい。

 あとでどんな無茶頼まれるか解らん。


「メイ?」

「……ハル」


 その目をみてしまった。絶対嫌だと。ウォルフ以外は嫌だと。俺に抱かれたくないと。そんな目を。


「ハルなら。ガイウスより。マシ」


 どうせいつかは抱かれるだろうが。


「ハル。女の子には。乱暴しちゃダメ。

 優しくしてね。教えてあげる」


 精一杯の笑顔を向けて俺の服を脱がしていくメイ。

 ウォルフの絶叫が胸を焼く。


「おい。イエロー。さっさとやれ。

 あとがつっかえてるんだ」


 クソッたれ。


「なんで俺様が一番後なんだ」


 列を作る野郎どもの最後尾にはガイウス。

 他のやつらが「楽しみは一番後」だの「どうせ活躍するたびに抱けるだろ」と丸め込むと、「まぁ、これからはどんどん活躍して俺様がたっぷり人類の繁栄に勤めてやる」といってあっさり退いた。

 衆人環視でヤレってどういう拷問なんだ。勿論、縛り付けられたウォルフもいる。


「無理。マジ無理。勘弁して」


 日本語で話すが皆は理解できない。

 いや、理解しても、「ガイウスに最初に抱かせるくらいなら」という目を皆がしていた。


 子供のフリをしてメイたちに可愛がられていたのが裏目に出たようだ。後悔しても後の祭り。


「ウォルフ。ごめん」


 ウォルフの罵り声が聞こえる。

 やさしく……御笑い種だな。舐めた話だ。

 粗末な寝台に身を投げ、瞳を閉じ、唇をかみ締めて震えるメイ。

 ゆっくり、やわらかく彼女に触れる。恐怖に跳ねるメイの身体。

 軽く体をなでる。冷え切った体は核の冬の所為だけではない。


 靴を投げた。地面に落ちたメイの靴を見ながらウォルフが号泣した。



「いいご身分だな。イエロー」


 ガイウスが絡む。勘弁してくれ。


「最初は俺様だと思ったが」


 うるせぇ。メイたちに嫌われているのに気づけ。

 ガイウスはイエローだのニガーだのひでぇ事を平気で言う男ではある。

 しかし基本的に人種問わず気さくで筋トレに付き合えとか甲斐甲斐しいし、カードゲームに混ぜてくれるし銃の扱い方やバイクの乗り方を教えてくれた。

 意外だろ? でもこいつ人望あるんだよな。

 そうでなければ反乱など起こせない。


 戦いはそのまま末期になっていく。

 不利な戦況を打開すべく、ウォルフは新しい技術を開発した。そのテストに選ばれたのはガイウスではなく俺だった。


「で、『守護者』を倒せと?」


 苦笑いする奴。

 そういう任務は自分が真っ先に受け持つモノだと思っていたらしい。

 まさか餓鬼にしか見えないヤポーネに託すなどあのウォルフが判断するなどあり得ないと思っていたそうで。


「ああ。召喚プログラムの応用で逆に連中の『世界』に侵入できるらしい」

「はははっ? 捨て駒だな!!

 生きて還ったらとっておきの酒をおごってやるぜ」


「ははは。ありがとう」

 やる気のない俺の返事に妙にまじめくさって彼は尋ねてくる。「もし、『守護者』を討てたら、人類は救われるのか」と。


「さあ? 少なくとも連中の持っている膨大な『情報』は俺等のネットのものになるらしいが」

「いまさら遺伝子情報の特許とっても困るぜ」


 だよなぁ。ガイウス。そもそもおれら無学だしな。


「ウォルフみたいに大学出ていればよかったぜ!」


「無理だろ。お前そういうガラじゃねえし」

「そのころはバイク転がして適当にギャングとビール瓶で殴り合っていたぜ!」


 本当にお前らしいな!

 苦笑いする俺に心配そうに問いかける奴。


「で、いつ旅立つ」


 今日さ。あとは任せたぜ?


 俺がその『世界』から帰還したとき、皆は拠点だった場所にいなかった。


 久しぶりに再会した『仲間』は。

 機械生物の『世界』に囚われた哀れな存在に成り下がっていた。


 俺はレジスタンスにいた。

 あの一ヶ月はそれなりに貴重な時間だった。



【独白】

 長い長い悪夢を見ていた気がする。

 世界が滅び、機械とも生物ともわからないモノが世界を覆いつくし、ぼくとメイはそれらと長い長い戦いをしていた。


 メイ。ぼくのメイ。

 ぼくだけのメイ。


 あいつらには渡しはしない。

 ぼくらは永遠に恋人だ。


 一緒に海にいった。

 川にバーベキューにいった。

 冬はクリスマスプレゼントを交換し、春は二人で図書館に。

 ブロムは一緒に踊った。


 僕らが会ったのは3年生のクラス替えの日。

 最後のハイスクール生活を僕らは駆け抜けた。


 一緒に海にいけなくて、泣く君を引き止めて山にいった。

 川にみんなで泳ぎにいった。冬はアルバイトで忙しくて君に謝りにいった。春は二人でニホンの桜を見にいった。


 僕らが会ったのは3年生のクラス替えの日。

 最後のハイスクール生活を僕らは駆け抜けた。


 僕らは永遠に恋人だ。


「ウォルフ! メイ! お前らは何をやっている!」


 五月蝿いイエローモンキーめ。


 なんの用だ?

 僕らの青春を邪魔しないでくれ。


「おい目を覚ませ!

 機械生物に操られているのじゃないのか?!」


 僕らは幸せ。そう幸せ。

 二人の幸せ、最後のハイスクール生活を愉しんでいる。邪魔しないでくれ。


「しっかりしろ!! 頼む! 頼むからっ!」


 五月蠅いぞ。

 僕らはお前らのために戦いなどしない。

 ただ、幸せに二人で暮らしたいだけだ。


 貴様にも、奴らにもメイは渡さない。


 なんだ?なぜサムライソードを抜く?

 君は僕らの言うことは全て聞いてくれたろう?

 どんな無茶でもしたがってくれただろう。


 メイを愉しんだだろう?

 僕らにナニをするつもりだ?


「……リア充。……死ね」


 やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。

 彼の剣がぼくを貫いた。次にメイ。


 ああ、また機械生物との戦いが始まる。

 もういやだ。もういやだ。


 人間なんてどうでもいい。メイさえ。ぼくのメイさえいれば。


「さようなら。ウォルフ」


 僕らはお互いがあればよかった。あの高校生活が永遠に続けばよかったのだ。


 そうすれば。そうすれば。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇

 討伐守護者サーバーDATA……『自由(嫉妬)』「ウォルフ」&「メイ」


本体ハード

 半壊したハイスクールの校舎。


コア

『ウォルフ』

 人類滅亡後、恋人のメイと共にレジスタンスを率いる。激闘の末、機械生物に捕食される。

 享年28歳。


【役割】

『永遠の恋人』……(DATA LOST)


予備バックアップ

『メイ』

 高校卒業後、結婚を誓ったウォルフと共に機械生物と戦う。

 後述のガイウスの反乱を防ぐため自らの身体を最初に捧げる。

 激闘の末、機械生物に捕食される。享年28歳。

【役割】

『永遠の恋人』……(DATA LOST)


悪役ヒール

『ガイウス』

 レジスタンスにも『報酬』が必要と主張。

 人類存続のためにも女性を寄越せと反乱を画策。

 激闘の末、機械生物に捕食される。享年32歳。

【役割】

『街のチンピラ』……(DATA LOST)

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