終わり。 そして、始まり…
今回少し長いかもしれないです。
私は後悔してないよ。だって、私がなくしたものを取り戻してくれた、掛け替えのないものをくれたあなたを守れたんだ。
魔王を封じた後、私は私を召喚したあの国に元の世界に帰してもらうために戻ったが、魔法が使えないように魔法封じの魔法が施された塔に閉じ込められた。
あの王達が、勇者という素晴らしい道具をみすみす逃すはずはなかった。私も簡単に元の世界に帰してもらえるとは思っていなっかたし、政の道具にされることも想像していた。でも、でも……諦めることができなっかた。もしかしてと思うと、どうしても……っ。
それに私は誰にも……、精霊の長達にも知られてはいけない秘密を抱えていた………
王達は、私がこの国を大切にしていると、守護すると云ったと偽りの公布をし、すべての国に魔王を封印した私に貢ように要求した。私を神聖化した国や、この国の報復を恐れた力のない小国や逆らうことができない属国等はその要求に従った。
しかし、彼の国や同等かそれ以上の力を持つ国、精霊から私が閉じ込められていること聞いた国は屈することなく王達を非難し、私を開放するように訴えた。特に、彼は私を助け出そうと頑張ってくれた。
私が閉じ込められてから少しった頃、この国の各地で異変が起き始めた。全く雨が降らなくなり井戸や湖、川、泉が枯れ始めり、逆に洪水が起きて浸水する程雨が降ったりなど今までない異常気象が起こった。
この国から精霊の加護がなくなったからだ。
精霊は私を傷つけた者達を…、この国を許さなかった。
精霊の加護が無くなった土地は悲惨で、この国の歴史上最大の大飢饉が襲った。この年、多くの民が亡くなった。
それなのに王や大半の貴族は、私を開放することなく閉じ込め続け、そして、自分達の贅沢三昧の生活を続けるために民に今まで以上の重税をかけた。
愚かな王達は、私を捕らえている限りまた精霊の加護を取り戻せると考えていた。
そして、こんな機会を彼が見逃すはずがなく、彼の率いる軍が攻め込んで来た。重税に苦しんでいたこの国の民も立ち上がり戦った。
瞬く間に制圧されて、開戦から3日後には王都を除くすべてが制圧された。
でも、私はこの時、彼が助けに来てくれたことを素直に喜べなかった… 薄情な子と云われてもしょうがない。
だって、誰にも知られていない… 知られてはいけない秘密を抱えていたから……
私は彼の国に保護された。あの国と違って待遇はとてもよかった。
保護されてから、彼は毎日忙しい執務の合間に私に会いに来てくれた。だけど、私は会うことはしなかった。
本当はちゃんと会って助けてくれたことのお礼を云いたかったし、楽しいことくだらないこととか色々話したいことはあったけど、私が隠している秘密は魔力が強い人にほどばれやすい。彼はこの世界の五指に入るほど強い魔力を持っていた。
だから、会えなかった…
彼に会うことはなく、3ヶ月が過ぎた頃、最初の頃は魔王を封印した勇者として丁重に扱ってくれていた侍女達が、彼に会うのを拒み続けていたことが気に入らないのか仕事が雑になっていった。あの国よりははるかにましだけど、挨拶しても返してくれないし何か頼んでも無視されるようになった。
私がどうしようもできないからそのままでいると、彼女達の行動はエスカレートしていった。最終的には、食事だけ用意するだけになった。
全く悲しくなかったわけじゃないけど昔みたいに泣くことはなかった。
それより大変なことが起きたし。
とうとう精霊達と一緒に旅をしたこの国の最年少宮廷魔術師に秘密がばれてしまった。
その頃はもう痛みが物凄くて隠し通すのが難しくなっていたからしょうがなかったかも… 精霊の各種族の長の六人にはよくここまで隠し通したと思った。
彼らは彼に報告すると云ったけど必死に止めた。誰かがどうにかできるものでもないし、彼がしったら責任を感じるかもしれない。それに、私の望みが叶わなくなるから……
また少し時が流れ、雪が融けその下から新たな芽が出て、眠っていた動物たちが起き、暖かな風が吹く春がやってきた。
冬から体調を崩してから、ベットで生活していた。
私の侍女は新しい人達になった。なんでかというと、私が体調を崩したことで仕事をしていなかったことが彼にばれて全員解雇になったから。
新しい三人の人達は仕事をちゃんとするし、とても親切だった。ベットからでれない私が退屈しないように面白い本を持ってきてくれたり、王都で流行っているおいしいお菓子をくれたり、彼の小さいころのことを話したりしてくれた。
彼女達は彼の小さい時から世話をしていた侍女だった。
助けてもらって結構経つけど彼には一度も会っていないそんなある日、彼から彼の誕生日パーティーの招待状がきた。断ろうと思ったけど、彼女達と精霊達が行けとしつこかったので行くことにした。
それに、もうそろそろ……と感じていたから………
彼女達は彼が私のことを心配しているのを知っていたのと私が元気なときも部屋から出ないこと心配してたからで、精霊達は何も云ってないのに私の望みを薄々感ずいていたからだと思う。
当日、私は前日に彼から送られてきたドレスとアクセサリーを身に着けた。彼女達はきれいだと云ってくれたが鏡に映った私は微妙だった…
日にあたらなくなった肌は病的に蒼白くて、身体は肉がなく骨と皮だけみたいな私には、パフスリーブで袖がフリルでレースで、地面にするほど長いスカートで胸のところには繊細な刺繍がしてある薄紫のドレスは豚に真珠みたいだった。
馬子にも衣装にもならなかった。
まだ、彼と出会ったころの私だったらもう少しマシだったかも…
エスコートは彼ではなく闇の精霊の長に頼んだ。私の秘密を隠すのと、もしものときに幻術が得意な闇の精霊の長がいてくれると頼もしいから。あと、毒を盛られたときに密かに処理してもらうために。
そして、夕暮れとともに始まった。
流石王族主催だけあって、貴族や各国からたくさんの人達が来ていた。
今日の主役の彼より目立つといけないので私は勇者ということを隠して参加することになった。
精霊達しか知らないが、私はこの前の冬から日が落ちると立っていられないほどの痛みと苦しみが襲ってくる。
王族がこの会場に入場するのは開始から一時間後ぐらいなので完全に夜になっている。
私は勇者だとばれないように顔の上半分を隠す仮面を着けているから、それで苦痛に歪む顔も隠すことができ、壁沿いに並べられている椅子に座っていればなんとか乗り切れると考えていた。
王族も無事に入場し何事もなく順調に進んでいった。
私も気絶するような激しい痛みもこなくて闇の長に多少支えられながらも椅子に座っていることができたし、魔王討伐の旅を共にした人達と喋ることができて久しぶりに楽しい時間を過ごすことができた。
一緒に旅をした彼の幼馴染兼護衛の近衛騎士と喋っていて闇の長が飲み物を取りに行ってくれてたとき、私の周りが急に騒がしくなった。気になって目を向けてみるとそこには彼がいた。私の視線に気づいたのか、彼は歩くスピードをあげて近づいてきた。そして、痛みを忘れて呆然と彼を見ていた私を力強く抱きしめた。
彼は、……やっと会えました…っ、と耳元で呟いた。
私は周りであがる女性達の悲鳴より、彼のその言葉の方が大きく聞こえた。また痛みがぶり返してきたが気にせず、私は彼を抱きしめ返した。
瞳に溜まった涙が零れそうになったけど零さないように耐えた。零したら涙だけじゃなくて隠している秘密までこぼしてしまいそうだったから。
だから、怪しい気配に気づくのが遅れた。
彼の胸から顔を上げたとき、近くに一人の女性が無表情で立っていた。彼女は私と視線が合うと憎悪のこもった眼になって、隠し持っていたナイフを彼に振り下ろそうとした。
その速さは速くて、彼や近衛騎士、会場にいるすべての人達が反応できないものだった。たぶん、魔法で速度を上げてたんだと思う。
私は彼を思いっきり引っ張りその反動で、彼と自分の位置を強引に入れ替えた。
そして……
彼に刺さるはずだったナイフは、私の背中に深々と突き刺さった。
一瞬、時が止まった……
止まった時を動かすためのように、じわじわと傷口から血が流れていった。彼の眼の色とお揃いの薄紫色のドレスが紅く染まっていった。
さっきとは違う悲鳴があがった。
私にナイフを刺した彼女は何か叫んでいたがすぐさま兵士に取り押さえられた。
痛みと物凄い熱さが辛くて私は彼に凭れ掛かった。高いだろう服が血で汚れるのを気にせず彼は叫ぶように私の名前を呼んで強く抱きしめてくれた。
「リンッ、リンッ?!しっかりして下さい!…リン!!」
そんなにでかい声で叫ばなくてもいいってほど必死に私の名前を呼んでくれた。
不謹慎だけど彼が私の名前を呼んでくれるのがとてもうれしかった。
だから、止血のために彼が私のドレスを裂くのを止めれなかった。必死に隠してきた秘密がばれてしまうのに……
予想してた通り彼は私の背中を見て驚いた。彼と旅してたころと違う肌の白さだけじゃなく、私の背中一面…いや、身体全体に赤黒い不気味な模様が描かれていたから。
驚いて固まる彼の顔に手を添えた。それだけでも全神経と体力を使った。
彼はぽつりと、最後は叫んで「なんで……っ、なんで黙ってたんですかっ?!」と涙を浮かべてまるで自分自身を責めるように訊いてきた。
もう喋る気力もなくて私はただ微笑んだ。
きっとそういう苦しそうな顔をするのを知ってたから…… だから、知られたくなかったんだ。
彼は私がこれを、魔王の呪いを受けたことを知ったら自分を責めることがわかっていたから、どうしても云えなかった。
「テメーがそうやって自分を責めるとわかっていたからだろ」
彼の問いに、いつの間にか戻って来ていた闇の長が答えた。
闇の長は私に意味深げな視線を送ってきて、私は彼が何がいいたいのかわかったのでそっと首を振った。
「そうか……」
闇の長はそう呟くと私の頭を優しく撫でて彼の腕の中にいた私をそっと彼から取った。彼は私を取り戻そうと腕を伸ばしたが突然登場した他の精霊の長達に阻まれた。
そして、長達は、
「聞け、人間達よ」
「我等は精霊を統べる者なり」
「私達の姫を帰してもらいますわ」
「貴様らは我らの姫を散々傷つけてきた」
「姫は負わなくていい呪いを」
「傷を負った」
淡々と告げていった。
私が止めることができないのを知っていて……
「姫の望みを教えてやる」
「姫の望みは…」
「「「「「「死ぬことだ(です)(わ)」」」」」」
私はただ聞いていることと彼を見ていることしかできなかった。
「リンは死ぬんですか…?」
彼は何か耐えるように訊いた。
「そうだ」
「俺達は姫の望みを叶える。それが、俺達がこの世界にいる意味だ」
色々反論したかったけど、私はもう意識を保つだけで精いっぱいだった。
「だから、貴様に教えてやろう」
「姫はいずれこの世界に新たな命として生まれます」
「呪いを受けたせいで、もう姫は元の世界に戻ることができないからな」
彼は強い意志の籠った眼で私を見つめて云った。
「俺はどんなことがあろうとリンを愛し続けますし、また生まれてくるならどんなことをしても見つけ出します。だから、
俺と結婚してくださいね」
私は嬉しくて嬉しくて涙が零れた。
それが、私が最後に記憶したことだった。
『精霊に愛されし姫が亡くなりし日から世界は精霊の悲しみに包まれた。
精霊は人々を見捨てはしなかったが、昔のように語らうことをやめた。
精霊は嘆き続ける。姫がこの世界に再び戻って来るまで』
勇者が亡くなり数十年がたったある年、小さな村で一人の女の子が生まれた。
精霊は喜んだ。姫が戻って来たと……
これから徐々に、彼のことや精霊のこと、魔法のことなど補足していきます。